青山森人の東チモールだより 第284号(2014年11月24日)
- 2014年 11月 25日
- 評論・紹介・意見
- チモール青山森人
和やかな開発環境の形成を願う
法務大臣、ポルトガルとカボベルデへ
10月24日の国会決議と11月3日の閣議によって、5名の裁判官(ポルトガル人)、2名の検察官(ポルトガル人とカボベルデ人、それぞれ1名ずつ)、1名の反汚職委員会の顧問(ポルトガル人)、を強引に追放した東チモール政府の行為は常識的にいってポルトガル政府にしてみれば横暴かつ非礼に映るはずと思いきや、ポルトガルに詳しい友人によると、ポルトガル政府の反応は静かであるとのことです。ポルトガルはさほど東チモールにはもう関心はないのかもしれません、東チモールのポルトガル語には関心はあっても。
東チモールのディオニジオ=バボ法務大臣は10月24日以降の一連の出来事を説明するためにポルトガルとカボベルデに派遣されました。東チモール政府のホームページには、11月17~18日にバボ法務大臣がポルトガルの法務大臣や裁判関係者と会ったことが書かれています。それによると、司法関係者を追放したことに失望したとポルトガル政府から表明されたとありますが、大半は両国の友好・協力関係を確認しあったという内容になっています。素直に憶測するに、ポルトガル人裁判官・検察官の能力と資質を疑問視するシャナナ=グズマン首相による外交的に角の立つ発言は当然ポルトガルにも届くでしょうから、バボ法務大臣は苦言を呈せられたのではないでしょうか。
シャナナ首相の干渉発言
シャナナ=グズマン首相のポルトガル人裁判官・検察官を嫌がる感情がいつから沸き起こったのでしょうか。たぶんルシア=ロバト前法務大臣が有罪になって沸き起こり始めたことでしょう。決定的になったのはエミリア=ピレス財務大臣の汚職疑惑が話題なったあたりからでしょう。そして何とかしなくてはならないと思ったのは、今年6月、閣僚と政府高官が12件の汚職で起訴されることになるだろうと検事総長による宣戦布告ともうけとられる発言を聴いてからでしょう。少なくとも10月24日の国会を前にして突然爆発したのではないことは確かです。
シャナナ首相は9月6日(土)空港での記者会見で、ポルトガル人裁判官は帰国して財政危機にある自分の国のためにつくせばいい、ポルトガル人裁判官は東チモールに支援するためにいるのであってダメにするためではない、などとポルトガル人裁判官には帰国してもらう考えがあることを表明しています(『チモールポスト』2014年9月8日)。首相は決して裁判に干渉していないとこの記者会見でいいますが、グレノ(エルメラ地方)の刑務所を訪問したときに受刑者たちが自分は15年の刑をくらった、自分は18年だ、正義がなされていない、などと嘆いていることを持ち出しています。「外国人裁判官はトンカチを簡単にうつが、国民全体に影響する現実を見ていないと首相は考えている」とこの記事は結んでいます。
シャナナ首相、自ら裁判所へ資料提出
11月18日、シャナナ首相はデリ(ディリ)地方裁判所へいき、大きなファイル3冊の資料を裁判所へ提出し、そのあとびっこを引くような足取りで護衛の肩に手を掛けて裁判所から出てくる首相の写真が『ディアリオ』や『テンポセマナル』のインターネット版の記事に載っています。それらの記事によると、臀部・腰まわりの容態が良くなく、その日、インドネシアへ飛び、ジャカルタの病院で治療をうけたとのことです。日本人としては、大物の政治家がいよいよ当局の取調べをうける段になるとなぜかその政治家が突然入院するという日本の政界でよくある話を頭に浮かんでしまいますが、もちろん東チモールではそういうことはありません。
上記の記事によると、シャナナ首相の提出した資料とは調査中である件にかんする政府関連の資料であり、シャナナ首相によるこの訪問は裁判所の独立性と公平さを示すものであるとデリ地方裁判所のドゥアルテ=ティルマン所長が述べています。シャナナ首相は自ら裁判所へ資料を持っていくことで事態の収拾を図る意思を示したのかもしれません。
行政側も司法側も言及はしていませんが、ポルトガル人の裁判官と検察官が国外追放されたことをうけて、すでに起訴された元大臣・現大臣・国会議長の裁判がどうなるのか、その行方が非常に気になります。国民・庶民、とくに学生や若者たちは政府に汚職の汚名を着せています。「タシマネ計画」のような大型の開発事業には土地収用・立ち退きという土地問題が必ずつきまといます。政府が汚職で起訴された大臣や高官を下手にかばうと、そもそも住民の信頼をえられず交渉・対話の円卓を設置できないことになり、そうなると開発をあせる政府は住民を強制的に立ち退かせるという事態になるかもしれません。これは最悪の事態であり絶対に回避すべきです。政府は三権分立を尊重し、汚職と闘い、住民の信頼をえて、開発事業のための和やかな環境をつくるべきです。この方が結果的には発展の近道となることでしょう。
東チモール版「資源の呪い」
もうすぐ12月。12月は東チモールでは通常の年末だけはなく会計年度末を迎える月でもあります。2015年度(2015年1月~12月)の予算案は15億7000万ドルです。2014年度は15億ドル、ほぼ横ばいのやや増加です。
独立(東チモールでは「独立回復」と呼ぶ)した2002年以降の東チモール国家予算をざっとふりかえってみましょう(市民団体Lao Hamutuk〔ともに歩む〕の資料を参考)。独立した2002年の歳出額は約6000万ドルですが、支援国からの寄付金を加算すると歳出は約3億ドルになります。東チモール独立のために国際社会がお金を弾みました。2003年と2004年はそれぞれ約7000万ドル(支援国から寄付金を加算するとそれぞれ2億ドル)と、独立してからのフレテリン政権下における停滞感をよく反映しています。2005年の歳出は約1億ドル(寄付金を加算して2億ドルちょっと)です。「石油基金」使用の目途がついてきたこのころ、反フレテリンの政治的雰囲気が立ち込め、首都の住民15万人が家を追われるという大混乱となった翌年の「東チモール危機」へとつながってしまいました。その2006年、国際社会から寄付金を加算して4億ドルの歳出となりました。
さて問題はシャナナ連立政権が誕生した2007年からです。2006年までの歳入額は約5000万ドルかそれを下回る程度だったのが、2007年から「石油基金」を本格的に使用できるようになり歳入額はいっきに約3億5000万ドルに跳ね上がりました。たぶん政治家や政府関係者の心も跳ね上がったことでしょう。それ以来、歳入額は2012年の約17億5000万ドルまで右肩上がりとなります。歳出額も2007年の約2億ドル(寄付金を含めると4億ドル)から、2012年の約12億ドル(寄付金を含めると14億5000ドル)まで右肩上がりとなります(以上、歳出額は執行額)。
2013年はちょっとした転機でした。それまでの流れに乗じて予算額を2012年に匹敵する16億5000ドルとしましたが、執行額はおよそ10億8000万ドル(寄付金を含め約13億4000万ドル)ほど、歳入も15億ドル弱と、シャナナ連立政権になって初めて歳出と歳入の額が前年度を下回ったのです。歳出にかんしては「タシマネ計画」などの大規模事業の進捗率が悪いことが原因として挙げられます。「石油基金」は積立金として額は上昇していますが、このままの使い方を続けるともう老い先短しという指摘がされています(『東チモールだより 第276号参照』)。
2014年の予算は15億ドルと抑制されました。来年度も15億7000ドルと、同様の傾向を示しています。ただし本年度2014年度の執行率は会計年度の4分の3を過ごした時点でわずかに50%ほどであり75%を大幅に下回っています。国の財政計画にそもそも欠陥があるのではないかと誰しもが疑問に思うことでしょう。
したがって当然、国会はこの執行率の悪さを財務大臣に説明してもらおうと、10月、説明会を設定したのですが、エミリア=ピレス財務大臣は海外出張で出席しませんでした(『東チモールだより 第280号』参照)。後日『インデペンデンテ』(2014年10月13日)は、「財務大臣、海外へ出て仕事を放棄」「ラサマ、それはシャナナ首相の指示」と見出しを付け、ラ=サマ副首相によるとピレス財務大臣の海外主張はシャナナ首相が指示したことであること、ピレス財務大臣が何度も本来の仕事を投げ出し海外へ出ることにたいしラサマ副首相は懸念していることを報じました。
東チモールの財政を考えるとき、予算配分などの中身に思考がいくまえに、シャナナ=グズマン連立政権の有様に想いは直行してしまいます。予算を決める政府機関である財務省の大臣が国会に出席しないわ、汚職で起訴されるわ、今月11月に大臣の裁判が始まろうというタイミングを計るように政府はポルトガル人裁判官や検察官と国外追放するわ……、東チモールのジャーナリスト・知識人、貧困にあえぐ一般庶民ははたしてどう思っていることでしょうか。
シャナナ連立政権は「さらば紛争、ようこそ発展」のスローガンを高らかに掲げて「石油基金」の資金を予算に組み込み、フレテリン政権にはできなかった大・中規模事業に取り組んでいきました。それと同時にシャナナ連立政権は汚職あるいは汚職疑惑にまみれていったのです。
「石油基金」とは、チモール海の共同開発区域で外国企業が開発事業をして得られる利益から東チモール政府が“地主”として海域使用料としてもらう金(かね)であり、東チモール自身による石油産業発展がもたらす金ではありません。政府が国民の財産として本来ならば極端なまでの透明性と慎重さで管理・運営されるべき財産のはずですが、シャナナ連立政権は批判に耳を傾けない使い方をして、結果的に「石油基金」の恩恵にあずかるのはごくごく限られた者たちだけという汚職の温床と格差社会をつくっているのです。これが東チモール版「資源の呪い」なのです。
~次号へ続く~
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
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