天下り?かわいいもんだ
- 2014年 11月 30日
- 交流の広場
- 藤澤豊
代理店から展示会に来てほしいと言ってきた。来場者への製品の紹介もお願いしたいしというが、現地の言葉は分からない。言葉が通じないのが行ったところで何の役にも立たないと断った。何度か断ったが、意味の分からない理由を並べて来てくれという。多分、日本からメーカのエライさん(?)が来ているというのが欲しかったのだろう。
代理店は以前から気にしていた米国の画像処理メーカの製品も扱っていた。そのメーカは市場開拓のために米国人技術者まで駐在させていた。会場で技術屋から色々聞けるかもしれない。。。、半分以上どうでもいい理由をつけて出かけていった。
予想を超える規模の展示会で八百社を超える出展、日本からも十社以上が出展していた。それでも会場では何もすることがない。人が来ても、英語ならなんとでもなるが、現地の言葉は分からない。できることは会場をほっつき歩いて時間つぶしだけだった。
初日、閉会した後で業界団体の大きなパーティーに連れて行かれた。政府関係や出展企業の人たちの表彰が始まった。副会長の女性が功績のあった人の名を読み上げる。会長の左側に十人ほどの若い女性が表彰の記念品を持って並んでいる。先頭の女性が記念品を会長に手渡して、会長が功績の会った人に手渡しして。女性が下がって、次の記念品をもって列の最後尾に。表彰が延々と続いた。
表彰が終わるまで飲み物も出てこないし、私語も慎まなければならない。席の決められた円テーブルで早く終われと思いながらおとなしくしていた。円テーブルには左側に現地人支社長と代理店の経営トップ四人、どういうわけか右隣に中央情報局のお役人。言葉が通じないことで困った事は数え切れないが、言葉が通じないことでこれほど助かったことはなかった。言葉が通じないから、中央情報局のお役人とは話をしたくてもできない。できないということで知らんふりできた。口は災いの元になりようがない。嫌味にならないように気をつけながらニコニコしていた。
やっと表彰式が終わったら、受賞者の名前を呼び上げで疲れたという顔しながらも、妙な親しみのある笑顔とともに副会長がやってきた。まさか、こっちに用はないだろうと思っていたらテーブルの真正面に座った。なんでそんな場違いな席に座らせているのか落ち着かない。副会長と代理店の経営トップ四人と中央情報局の六人が妙に馴れ馴れしい。言葉は分からないが、親しいというレベルを超えて仲間内の会話のようにしか聞こえない。支社長にこの人たちはどういう関係にあるのか聞いて驚いた。全員革命の功労者の息子と娘。官舎に住んで、幼稚園から大学まで一緒。革命後の再革命とでも呼んだらいいのか動乱期にも下放されることなく首都に残って、きちんと一緒に高級官僚の道を歩んで。。。一般論としてのあの国のありようは聞いていたが、六人のタメ口を目の前にして何か分かったような気がした。
町の発明家気取りの社長が道楽で作ったとしか言いのようのない凝った製品を定価で買ってくれる。日本では四分の一に値下げしても誰も見向きもしない。どこにそんな金を払う魅力があるのか。分からないというより、ありっこないと言った方があってる。
代理店は大蔵省の役人を主体として構成された民間企業で、経営トップから主要ポストは大蔵省の役人かその縁故の人たちで占められていた。美味しい仕事が大蔵省から間違いなく落ちてくる。後で気がついたが、それで十分というより、そのためだけに作られた会社だった。それまで代理店の営業トップとは次なる市場開拓について何度も話をしたが、その度に話が咬み合わず、どうしたものかと思案していた。大蔵省からの仕事以外のビジネスをどうこうしようとは思ってもいない。思ったとしても他官庁にも似たような会社か組織があって手を出せなかったのだろう。ずぶずぶのお役所仕事でなければ民間のエンジニアリング会社に価格で競合し得ない。そこでは民間企業のようなコストダウンに対するインセンティブは働かない。コストに利益を上乗せして販売するだけなら、コストを抑えるよりコストはできるだけ高い方がいい。どこかの国の電力会社と同じだ。
代理店になってから数年後、経営幹部の顔つきというのか態度に説明し難い変化があった。妙に鷹揚で、何がその鷹揚さを生んでいるのか。そのときは何が起きたのか想像できなかった。後日知ったが、代理店はエンジニアリング会社として株式を上場した。なんのことはない、官庁のお役人とその縁故者が官庁の仕事の落とし所としての民間会社を設立した。その会社に官庁からずぶずぶの注文がでる。その注文で企業としての業績を上げて株式上場。製造コストをかければかけるほど事業が拡大する。日本ではコストに見合う機能も性能もない製品でも構わない。値下げ交渉など必要がないというより、しない方がいい。
民間会社の株式を上場して、経営幹部と関係者には濡れ手に泡の創業者利益が転がり込む。同じ仕事をするのでも官庁内でしていたのでは公務員の薄給で終わる。民間企業を作って仕事をそこに丸投げすれば、非効率なお役所仕事という批判的な目からも逃れられる。民間企業になったところで非効率は変わらないが関係者が皆金持ちになって幸せになれる。人民の税金を食い物にして政府絡みの金融機関とつるんで、次々と民間企業を上場してゆけば、現地はおろか世界でもかなりの富裕層に成り上がれる。
日本の一勤労者には目の眩む世界がそこにあった。その眩み加減は日本のお役人のちゃちな天下りとは桁が違う。人治の国だけあって関係者同士の人治はあきれた錬金術を内包していた。お役人の天下りはいい加減にしてくれと思うが、まだまだかわいいいものだろう。
もっとも、そう思っているのは、日本にも似たよう錬金術があるのを知ることなく平和に生きているからだけかもしれない。多分そうだろうなと思いつつ。これも一つの『知らぬが仏』か。
Private homepage “My commonsense” (http://mycommonsense.ninja-web.net/)にアップした拙稿に加筆、編集
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