「がん登録法の推進に関する法律」(「がん登録法」)の問題点に関する小考察
- 2014年 12月 23日
- 交流の広場
- 田中一郎
先般私のメールでご紹介申し上げた新法「がん登録法」(2013年12月13日公布、3年以内施行)に関する法令解説の記事です(『時の法令』(平成26年 12/30 NO.1968)掲載)。以下、この解説に沿って、この法律について、私から見たおかしな点=問題点を下記に列記しておきます。もし、更にこの法律にお詳しい方がおられましたら、追加事項や修正点などをご教授いただけると幸いです。
<参考サイト>
● がん登録等の推進に関する法律
http://law.e-gov.go.jp/announce/H25HO111.html
● 厚生労働省 がん登録の法制化について(資料)
http://www.mhlw.go.jp/file.jsp?id=148306&name=2r985200000352di.pdf
1.そもそもの疑念
「がん」は申し上げるまでもなく、放射線被曝や化学物質(食品添加物等を含む)による被ばく・曝露を原因とするものが多いが、一つ一つの臨床事案については、その原因を特定することが難しい場合がある。それをいいことに、放射線被曝による「がん」の場合で申し上げれば、「がん」の原因となる放射線被曝線量の計測(とりわけ内部被曝線量)をごまかしたり妨害したりし、あるいはまた、原因と「がん」発症との結びつきの判断・診断について、まるで悪質権力が言論統制をするかのごとく、特定の「子飼い組織」(特定の大学や病院や研究所など)に限定し、セカンド・オピニオンを含む多様・多面的な診断を排除・妨害し、放射線被曝と「がん」の因果関係を極力否定しながら、放射線被曝の危険性や「がん」多発の事態を矮小化・歪曲する動きが見られている。
その典型が、今般の福島第1原発事故後に展開されている壮大な国家犯罪とも言うべき「福島県民健康調査」であり、政府や原子力規制当局などの、たびたびの低線量被ばく評価審議会での検討であり、また、環境省における(似非)専門家会議=「東京電力福島第一原子力発電所事故に伴う住民の健康管理のあり方に関する専門家会議」などである。(ちなみに、化学物質汚染とその健康被害など、それ以外の「工業製品」によるがん被害についても、放射線被曝の場合と似たような構造である。また、放射線被曝の世界におけるこうした「政治的な健康被害矮小化」の動きは、福島第1原発事故後だけでなく、チェルノブイリ原発事故やスリーマイル島原発事故など、世界各地で見られる「原子力・核」権力に共通の現象である)
従って、今般新たに制定された、この新法「がん登録法」もまた、上記の放射線被曝で見られたような放射線ムラ及びその代理店政府・自治体・その下請け組織などによる、事実の歪曲・矮小化や、関連情報の無用の統制や隠蔽が横行するのではないか、あるいは、関係者のいわゆる無用の「委縮」によって、「がん」関連の情報の無残な放置や隔離、非公開、不使用などが蔓延するのではないか、という懸念が小さくない。以下は、こうした観点からの疑問である。
<繰り返される放射線被曝評価に関するインチキ検討組織>
これらの組織は、そもそも委員の人選のところから、まったく「なってない」ことに加え、事務局を原子力ムラ・放射線ムラの代理店(霞が関の官僚達等)が押さえているため、検討の最初から結論が見え見えの、全くのハレンチ組織である。視聴するに値するものがあるとすれば、その「インチキ話法」に今度はどのようなことを使うのか、どこまで放射線被曝の被害者への押し付けを合理化するのかといった、「悪事の度合い」や「悪事手法」の変化・変遷くらいのものである。
● 放射性物質汚染対策 – 内閣官房
http://www.cas.go.jp/jp/genpatsujiko/info/news_111110.html
● 福島県庁「「県民健康調査」 検討委員会について」
https://www.pref.fukushima.lg.jp/sec/21045b/kenkocyosa-kentoiinkai.html
● 環境省_東京電力福島第一原子力発電所事故に伴う住民の健康管理のあり方に関する専門家会議
http://www.env.go.jp/chemi/rhm/conf/conf01.html
2.疑問点(1):都道府県や市町村による「がん登録」情報の利用範囲を何故限定するのか?
この「がん登録法」により登録される情報は次のようなものである(解説P27)。
「全国がん登録データベースにおいては、「原発性のがん」(注)ごとに、①罹患者の氏名・性別・生年月日・住所、②がんの初回診断に係る住所地の都道府県・市町村の名称、③診断によりがんの発生が確定した日、④がんの種類・進行度・発見経緯、⑤治療内容、⑥診断・治療を行った病院等に関する事項、⑦生存確認情報(生存・死亡の別、生存を確認した直近の日、死亡を確認した場合は死亡の日、及びその原因に関する一定の事項)等の情報の記録・保存がなされる(五条一項)。」
(田中(注):解説原文の続きには「原発性のがんとは、いわば初めにできたがんのことであり、転移や再発の時点での情報は、あくまでその原発性のがんの情報と捉えて記録等がされる」という文章がある)
「がん登録法」は、このデータベースを都道府県、及び市町村が利用する場合には、次のような制約を定めている(解説P29~30)
「都道府県知事は、その都道府県のがん対策の企画立案・実施に必要ながんに係る調査研究のため、これに必要な限度で、データベース上の情報のうち、類型的にその都道府県における利用の必要性が認められるもの(初回診断に係る住所地の都道府県名としてその都道府県の名称が記録されているがんと、その都道府県の区域内の病院等から届出がされたがんに係る情報。二条八項の「都道府県がん情報」とその匿名化情報)を①自ら利用し、又は②その設立した地方独立行政法人、①当該都道府県当該地方独立行政法人からの委託研究・それらとの共同研究を行う者等に提供することができる。ただし、(1)と同様、がんの罹患者等の権利利益の侵害のおそれがあると認められるときは、利用・提供はできない。これらの利用・提供を行おうとするときは、あらかじめ、(1)の国の審議会等と同様の審議会等の意見を聴かなければならないとされている。」
私の疑問は、(1)都道府県ががん登録のデータベースを使う際には、何故に「自分の都道府県」の範囲内のデータ=初回診断に係る住所地 に限定されなければならないのか、という点である(市町村の場合も同様に当該市町村の範囲内のデータに限定)。国の場合には、このような制約はない。解説では「その都道府県における利用の必要性が認められるもの」などとしているが、こうした「視野狭窄的」な判断を、何故、法律で押し付けるのか。都道府県ががんデータベースを使う際に、全国のデータを参考にして悪いはずがない(市町村も同様)。
また、(2)「審議会」の意見を聴け、というところも腑に落ちない。何故なら、この「審議会」なるものが、これまでの経験から申し上げて、ロクでもない人間達の溜まり場となるであろうからだ(おそらくは放射線ムラ・化学物質ムラの御用人間達)。当然、そうした人間達は、この「がん登録」データの正当で有効な活用に対して、さまざまな屁理屈を付けては妨害行為を働くであろうことは容易に推測できる。
そもそも、「がん登録」されたデータベース情報は、個人名が特定されないようにされたものについては、広く有権者・国民・市民に公開がなされ、さまざまな形で有効活用がなされるべきものである。また、個人名が特定されるものについては、厳重な情報管理の下、個別案件ごとに、その利用・利用者の適格性や情報管理体制の妥当性を判断すれば済むことである。上記のような法律上の定めは、私は、放射線ムラ・化学物質ムラの代理店となっている国、及びその下請けによる「がん登録」の独占管理と統制のためのものであろうと推測する。この法律が施行されるのなら、直ちに、データベースの一般公開と使いやすい利活用のための利用規定の改正が必要だし、それまでの間は、国や厚生労働省、あるいはその下請けで動く組織について、厳しい有権者・国民・市民の監視が必要ではないか。
3.疑問点(2):民間による「がん登録」データベースの利用の限定が狭すぎる(解説P31~32)
解説には「民間のがんに係る調査研究への提供(21条3項以下)」としか書かれていない。つまり「調査研究」以外については、「がん登録」データベースの利用について言及がない。しかし、広くNPO等市民団体やマスコミ記者等の利用も含め、必ずしも調査研究のためでない場合もありうる。それを最初から排除しているのは、どうも狭量で、おかしいような印象を受ける。
4.疑問点(3):「情報の保護」と称して、他の法律とのバランスに欠けた重い秘密保護義務や高い法定刑の罰則などを定めていることは、「がん登録法」が、がん関連の情報を国家統制することにより(簡単に言えば取捨選択して不都合情報を隠蔽することにより)、何かを隠そう、何かを歪めて伝えよう、何かを矮小化していることがバレないようにしておこう、ということではないかとの疑義を強くもたらす。かような規定は不要であり、削除されるべきである(こんなことよりも、早く個人情報保護法の対象である「個人情報」の商売目的での不正使用を根絶せよ)。
解説の当該部分を書き出してみよう。
「■5 情報の保護等(二章五節、六章)
1で述べたとおり、この法律の基本理念には情報の厳格な保護が挙げられており、前述二の収集等が行われ、前述三の利用等がなされる情報について、情報の手厚い保護のための仕組みが定められている。まず、全国がん登録データベースの整備・使用とそのための情報収集をする国・地方公共団体について、情報の適切な管理、この法律で認められた用途以外の利用・提供の制限、必要な期間を超える情報の保有の制限を定めるとともに、その職員や、病院等で届出業務に従事する者等について、秘密保持義務、知り得た情報をみだりに他人に知らせることの禁止等を定めている(25~29条)。次に、データベース上の情報等の提供を受ける側についても、同様の規定を整備し(30条~34条)、必要に応じ、厚生労働大臣又は都道府県知事が違反行為の是正のための勧告・命令等をすることができることとしている(38条等)。さらに、秘密保持義務の違反等については、取り扱う情報の性質等に鑑み、高い法定刑の罰則を整備してお((六章)、情報の保護については、行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律等よりも厳しい措置が講ぜられている。
まず「この法律で認められた用途以外の利用・提供の制限、必要な期間を超える情報の保有の制限を定める」などと書かれているが、これが無用・不要の「過剰」規定であり、こうしたものを法律でかように厳格に決めておく必要性などはないということ、また、「その職員や、病院等で届出業務に従事する者等について、秘密保持義務、知り得た情報をみだりに他人に知らせることの禁止等を定めている」などにいたっては、「がん登録法」で登録されるデータが、さも「マル秘」の厳重非公開情報であるがごときの「ものものしい」記述であり、現場において、無用の混乱や萎縮をもたらすばかりか、今後の我が国における「がん」や、その原因研究・疫学研究などに、深刻なネガティブな影響を及ぼしかねない。かような規定は、データベースへのアクセスそのものを阻害するだけでなく、関係者の「がん」を巡るコミュニケーションさえも破壊してしまう危険性さえ感じられる。(無用の議論をしたくないので念のために申し上げておくが、個人名が特定される情報については、厳格であることに問題はない。問題なのは個人名が特定できないデータベースの利用に関してである)
ものごとは逆であって、せっかく全国で登録される「がん情報」なのだから、個人名が特定されるものは慎重・厳重でなければならないが、それ以外の情報については、広く「万機公論に決すべし」で、広くデータベースの形で有権者・国民・市民に公開されるべきものである。既に、現状の「国立がんセンター」のがんデータベースは、ネット上で公開され、何の問題も起きていないではないか。
● 国立がん研究センターがん対策情報センター
http://www.ncc.go.jp/jp/cis/index.html
● がん登録・統計:[がん情報サービス]
http://ganjoho.jp/public/statistics/index.html
更に、大問題なのは「秘密保持義務の違反等については、取り扱う情報の性質等に鑑み、高い法定刑の罰則則を整備しており(六章)、情報の保護については、行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律等よりも厳しい措置が講ぜられている」の部分である。
ご承知の通り、先般、民間教育会社のベネッセ・コーポの個人情報が大量に流出した事件で明らかになったことは、既存の個人情報保護法がザル法であって、個人情報を保護するのではなく、個人情報を利用する商売や会社を保護する法律であったこと、特に、不正に流出した個人情報が、第三者を通じて取得されると、その情報源への確認の法的な義務付けもなされていないので、情報源については「知らぬ存ぜぬ」で、しらを切りとおして、自由奔放に、その不正流出の個人情報を商売に使ってもいい仕組みになっていることが明らかとなった。
こうした事態を改めるでもなく、商売のための個人情報の不正利用・活用については「やりたい放題」にしておき、「がん登録法」のような、個人名が特定できないデータベースには、過剰なまでの規制や統制を掛けて、それを他の法律とはアンバランスなまでに厳しい法定罰で縛るというのは、全くいただけない立法行為である。その背景は、何らかのよからぬ策略や思惑=つまり、「がん」関連の情報については、その原因=因果関係をも含めて、すべて国家とその背後にいる原子力ムラ・放射線ムラ・化学物質ムラらが差配をし、統制し、厳重管理し、言論統制し、意思決定するので、データベースへのアクセスや情報管理については、徹底して厳しく取り締まるということではないのか。
そもそも「データベース上の情報等の提供を受ける側についても、同様の規定を整備し」などと定めるのであれば、まず先に、ザル法である個人情報保護法の方に、そのような厳格規定を入れ、第三者(ペーパーカンパニーのようなダミー会社・幽霊会社なども含む)からの取得による不正流出の個人情報の利活用については、厳罰を持って規制したらどうなのか。
私は、この「疑問点(3)」のところに、この「がん登録法」のおかしさ=問題点が凝縮しているように思われてならない。
5.疑問点(4):「情報の活用等(四章等)」で国=お上が説教を関係者や有権者・国民・市民に垂れているが、これは「黒い腹の内」を隠すための美辞麗句のお飾りか、 それとも「方便」か?
下記URLの「がん登録法」の条文の第4章のところをご覧いただければと思う。「第四章 がん登録等の情報の活用(第四十六条―第四十八条)」という形で、ほんのわずかな条文が、読んでみて「当り前やんか」のようなことが、申し訳程度に書かれている。「がん登録法」の「いちじくの葉っぱ」かもしれない。
● がん登録等の推進に関する法律
http://law.e-gov.go.jp/announce/H25HO111.html
<最後に>
この法律は、原子力翼賛国家の「がん治安維持法」のようなものに変質せぬよう、今後、「個人情報保護法」や「情報公開法」などとともに、法律の改正と、その適切な運営へ向け、有権者・国民・市民各位の厳しい監視が必要であるように思われる。
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