東京地検が福島第1原発事故責任者の東電幹部たちを起訴しない理由はない:明らかとなった原子力安全保安院幹部審議官のメールの驚くべき内容(岩波新書 『原発と大津波』より)
- 2015年 1月 7日
- 評論・紹介・意見
- 田中一郎
(最初にいくつか重要情報です)
1.(美浜の会)福島の子どもたちに発生した甲状腺ガン
発生数の多さだけが問題ではない、悪性度がおそろしいほどに深刻(子どもたちを守る闘いの突破口をみいだそう)
http://www.jca.apc.org/mihama/News/news132/news132kojosen.pdf
●美浜の会HP
http://www.jca.apc.org/mihama/
(上記は「美浜の会ニュース№132号(2014年12月22日)」です)
●FoE JAPAN【緊急セミナー】 切迫する放射線被ばくの健診対策(1/7)
http://www.foejapan.org/energy/evt/150107.html
●FoE JAPAN:環境省がパブコメ募集中:福島原発事故に伴う健康管理…ポイントをまとめました
http://www.foejapan.org/energy/action/141231.html
2. ▶ 20150105 UPLAN テント新春記者会見 – YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=ZM1TxBUZrGE
(当日、テント前でお話になられた方々のスピーチは素晴らしかったです。VTRで是非ご覧下さい。)
3.ふくしま集団疎開裁判 @★拡散願い★
1月9日(金)文科省前&財務省坂上(18時半~20時半)抗議活動行います。
(ブログ)http://fukusima-sokai.blogspot.jp/
4.OSHIDORI Mako&Ken Portal – おしどりポータルサイト
(新しい迫真のレポートがいくつか新着しています)
5.タニムラボレター No.029 「不検出」をもう一度考えよう 原子力資料情報室(CNIC)
6.キャンペーンについてのお知らせ • 1-6 Ust番組FFTV「再生可能エネルギーの未来が今ピンチ!パブコメを出そう」…ゲスト:松原弘道さん(環境エネルギー政策研究所) • Change.org
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既に少し前の私のメールでご案内申し上げた通り、このほど元朝日新聞記者だった添田孝史氏が岩波新書『原発と大津波:警告を葬った人々』という独力調査報告の新著を執筆し、その中で、今から約20年位前から(阪神大震災を契機にして)、幾度にもわたり大地震とともに、それに伴う大津波の危険性が警告され、注意喚起され、危険だと指摘されてきたにもかかわらず、福島第1原発事故の加害当事者・東京電力や事故責任者の国(経済産業省や資源エネルギー庁、あるいは原子力安全保安院など)の幹部・責任者たちは、危険だと認識しつつこれを見逃し、問題の先送りをしていたことが明らかとなりました。東京電力の目先の費用負担に伴う経営や収支上の問題を優先させ、それを規制当局である国が東京電力と一体となって見逃していたのでした。
東京電力幹部の刑事責任を告訴・告発している福島原発告訴団の弁護団では、ただちにこの添田孝史氏が岩波新書で明らかにした事実の証拠書類等を精査の上、東京地検に対して追加の上申書を提出しております。中でも、弁護団の海渡雄一弁護士がとりわけ注目すべきとしているのが、今回全文をご紹介する、当時の原子力安全保安院幹部だった森山善範審議官が原子力発電安全審査課長らに送ったメールの内容です。
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そもそも論で恐縮ですが、私たちが、たとえば車をいい加減な形で運転をしていて(例えばわき見運転)交通事故を起こせば、刑事上、民事上、及び行政法上の責任を問われ、刑罰・罰金・損害賠償・行政処分などを覚悟しなければなりません。刑事上の責任では、過失運転等の罪を問われて懲役刑や罰金刑が課せられますし、民事上の責任では、事故で被害を受けた方に対しての損害賠償や補償をせねばなりません(しなければ裁判です)。また、行政法上の責任としては、運転免許の停止や取り消しがなされます。
しかし、これが車による交通事故ではなく、原発による過酷事故だったら、日本という国では、刑事、民事、行政法のいずれについても、何の罪も責任も問われなくていいのでしょうか。今回、添田孝史氏が著書で明らかにしたように、あるいは、福島原発告訴団の弁護団がこれまで様々な形で東京電力幹部たちの(原発のずさんな安全管理に関する)罪状とその責任を明らかにしているのに、そして、東京第5検察審査会もそれを認めて「起訴相当」としているにもかかわらず、東京地検は未だに福島第1原発事故の重大責任者たちである東電幹部らを起訴しようとはしていないのです(新聞報道では、相変わらず強制捜査も行わないまま、再び不起訴処分にするという、とんでもない態度です。まるであらかじめ「起訴しない」と決めてかかっているかのようです)。こんなおかしな話はありません。
<福島第1原発事故をめぐる刑事、民事、行政法上の責任追及の現状>
1.刑事責任
東京電力幹部らの刑事責任追及を求めて、福島原発告訴団が告訴・告発し、目下焦眉の問題となっています。しかし、事故当事者の東京電力を監督・規制していた原子力安全保安院や経済産業省・資源エネルギー庁は何の責任にも罪にも問われておりません。実におかしな話です。また、事故原発をつくった原発メーカーやゼネコンなども何の罪も責任も問われておりません。車による交通事故の場合なら、その車が「欠陥車」なら、当然にそのメーカーの責任も問われるでしょう。しかし、福島第1原発という「欠陥原発」をつくった原発メーカーやゼネコンもまた、刑事、民事、行政法のいずれについても、その罪や責任は不問のままです(市民グループが原発メーカーやゼネコンを刑事告発しています。また、民事上の損害賠償責任は、原子力損害賠償法により免責されていると言われています。これも変です。行政法上の責任もあってしかるべきですが、これも不問のままです)。
2.民事責任
まず、事故を引き起こした加害者・東京電力や事故責任者・国が、被害者に対して万全の賠償・補償をすべきですが、これが実に出鱈目で、わずかばかりの慰謝料や手切れ金で被害者を切り捨てようとしています(実際のところ、政府が「黒子」になって。東京電力が被害者に対して支払う損害賠償の金額を交通事故の際の賠償額の半額以下に押し込める算段をしていたことも発覚しています)。当事者の東京電力のみならず、東京電力の事実上の経営者=大株主=経営意思決定権限者である国が、東京電力の背後に回って、被害者を切り捨てよ、という方針をごり押ししている様子もあります。そもそも事故直後から、国は避難すべき地域をこま切れにして、かつ狭い範囲に限定し、賠償・補償総額ができる限り小さくなるよう、様々な姑息で卑劣な「対策・対応・布石」をしてきています。
また、東京電力の幹部たちに対しては、株主代表訴訟が提起され、今現在係争中です。当時の会長・社長はじめ経営を牛耳っていた幹部たちに対して、総額5兆円以上の損害賠償を会社に対して支払えと訴えが出ています。
他方、原子力安全保安院をはじめ、出鱈目だった原発規制当局・原発管理当局の役人たちに対しては民事訴訟は起きておりません。制度的に起こせるのかどうかはわかりませんが、すでに国が東京電力の賠償や事故収束のための費用を立て替える等、国庫に対して多大な損害を与えており、幹部役人たちに対しても民事上の責任=損害賠償責任を追及すべきです。(また、経済産業省・資源エネルギー庁という組織も、もうどうしようもない原子力ムラ連合との癒着・融合が目に余るため、組織としての民事責任が問えない以上、解体され、原発・原子力をめぐる権限や所管からは切り離されるべきです。=但し、これは行政法上の責任追及と言えるでしょう)
3.行政法上の責任
行政責任についても、これだけの深刻重大な事故を引き起こした、その原因を探ってみれば、東京電力がいかにいい加減で出鱈目だったのかが明らかになってきているわけですから(更には、事故後の対応についても、さまざまな意味で出鱈目の上塗りをしているわけですから)、当然ながら東京電力に対して行政法上の処分=原子力発電免許の取り消しや電力事業者としての免許取り消し=事実上の電力会社としての解体=幹部職員を入れ替え、法的な倒産手続きを経ての新東京電力への抜本的組織替え、がなされてしかるべきです。しかし、現実はご覧のとおり、東京電力は何の行政法上の処分を受けることもなく(政府の全面的支援を受けて:被害者は切り捨てられようとしているのに)電気事業を続け、そして許しがたいことに柏崎刈羽原発を再稼働し、核燃料サイクル事業を継続しようとしております。
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上記のように、福島第1原発事故を引き起こした(組織と個人の)責任当事者たちについて、この日本では、事故後3年9か月が経過したというのに、まともにその責任や罪の追及や解明が行われないまま、次第にうやむやにされようとしているのです。これではいけません。こんなことだと、事故を引き起こした当事者たちはもちろんのこと、今後も原発・核燃料施設関連の仕事に携わる人間たち=特にその幹部クラスの人間たちは、「いかなる悪質な事故を引き起こそうといえども、この日本では自身の罪を問われることはなく、自身の属する組織も国によって大なり小なり助けてもらえる」と確信をし、以後、福島第1原発事故前よりもひどい「モラル・ハザード」を生み出してしまうでしょう。そしてそれは、そのまま「次の、より一層深刻で激しい原発・核燃料施設の過酷事故」を準備していくことになるのです。この悪循環を今ここで断ち切っておくためには、関係当事者や組織の責任や罪を追及し、きちんと罰して責任を取らせておくことが非常に重要であるということです。
以下、海渡雄一弁護士執筆の上申書の「森山善範審議官が原子力発電安全審査課長らに送ったメール」に関して言及した箇所、及びその森山善範審議官メールを下記に全文掲載しておきます。ぜひともご覧になってみてください。これを読めば、東京電力幹部らが福島第1原発を襲うであろう大津波の危険性を認識していたことは明らかであると同時に、原子力安全保安院もまた、それを知りつつ、見て見ぬふりをし、東京電力の安全対策を先送りすることに加担していたことは明らかです。両者はともに、刑事、民事、そして行政法上の責任を問われてしかるべきなのです。
原子力の世界を治外法権=無法の世界にしてはなりません。原子力ムラの無責任で出鱈目なふるまいの結果、重大な事故やトラブルが発生した場合には、それに相応する罪や責任が問われなければいけません。そんなことは、わざわざ申し上げるべきことでもないでしょう。しかし、悲しいかな現代の日本では、それがそうではないのです。少なくとも、すんなりとは行きません。東京地検をはじめとする日本の検察や司法は、その本来の与えられた、期待された使命を果たさねばなりません。それが福島第1原発事故のような、悲惨で重大な原発・核燃料施設過酷事故の再発を防ぐのです。事故の原因となる関係当事者たちのモラル・ハザードを防ぐのです。東京地検は、その第一歩である東京電力幹部たち責任者を起訴すること、これが物事の始まりであり社会正義です。ほおかぶりをしたり、逃げ出したりすることは許されないのです。起訴しない理由など、まったくありません。
<関連サイト>
(1)福島原発告訴団 上申書提出 『原発と大津波』
http://kokuso-fukusimagenpatu.blogspot.jp/2014/12/blog-post_12.html
(2)福島原発告訴団 「やれと言われても、何が起こるかわかりませんよ」
http://kokuso-fukusimagenpatu.blogspot.jp/2014/12/blog-post_29.html
<海渡雄一弁護士の上申書より>
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P14「このメールは,福島第一のバックチェックが容易に進まなかったのは津波対策による追加工事が必要になることがほぼ確実に予測され,そのことを東電がいやがったためであることがわかる。保安院は東電の虜となり,まさに共犯とも言うべき状況で,津波対策工事による出費で東電の赤字が膨らむのを防ぐために,バックチェックの先延ばしを進めていたのである。「東電は役員クラスも貞観の地震による津波は認識している。」とされているように,審議官クラスと東電役員の間で,津波対策のための追加対策はバックチェックを完了するには必須であるが,先延ばしとすることが話し合われていたのである。ここまでの証拠がありながら,検察が被疑者らを起訴できないはずがないではないか。」
P24「そして,裏では,保安院の森山氏は,前記のようなメールを送り, 「1F3の耐震バックチェックでは,貞観の地震による津波評価が最大の不確定要素である」「福島は,敷地があまり高くなく,もともと津波に対して注意が必要な地点だが,貞観の地震は敷地高を大きく超える恐れがある。」「津波の問題に議論が発展すると,厳しい結果が予想されるので評価にかなりの時照を要する可能性は高く,また,結果的に対策が必要になる可能性も十二分にある。」「というわけで,バックチェックの評価をやれと言われても,何が起こるかわかりませんよ」などと述べていたというのである。まさに,語るに落ちたとはこのととではないか。再捜査の対象には森山審議官は入っていなかったが,このメールからは、本件事故を予見していながら、問題を先送りしていたことが明らかであり、同氏も明らかに起訴相当である。検察は職権で同氏に対する被疑事件を立件し、武藤、武黒、勝俣、小森の四人の被疑者とともに同人も合わせて起訴するべきである。」
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<『原発と大津波』(添田孝史著)より:P143~145>
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「二O一O年三月二四日午後八時六分に、保安院の森山善範審議官が、原子力発電安全審査課長らに送ったメールが興味深い。」
「件名「1F3バックチェック」(貞観の地震)
1F3《福島第一3号機》の耐震バックチェックでは、貞観の地震による津波評価が最大の不確定要素である旨、院長《寺坂信昭》、次長《平岡英治》、黒木《慎一》審議官に話しておきました。私の理解が不正確な部分もあると思いますが、以下のように伝えています。
●最近貞観の地震についての研究が進んで来た。
●耐震バックチェックWGでも、貞観の地震に関する論文を考慮し検討すべきとの専門家の指摘を受け、地震動評価を実施している。
●また、保安院の報告書には、今後、津波評価、地震動評価の観点から調査研究成果に応じた適切な対応を取るべきと書いており、と宿題になっている。
●貞観の地震については、地震動による被害より、津波による被害が大きかったのではないかとの考えもある。
●貞観の地震についての研究は、もっぱら仙台平野の津波堆積物を基に実施されているが、この波源をそのまま使うと、福島に対する影響は大きいと思われる。
●福島は、敷地があまり高くなく、もともと津波に対しては注意が必要な地点だが、貞観の地震は敷地高を大きく超える恐れがある。
●東電は、WGでの指摘も踏まえ、福島での津波堆積物の調査を実施しているようだ。
●貞観の地震についての佐竹《東大地震研究所教授》他の研究は、多分今年度が最終年度で、今後、地震本部での検討に移ると思われる。そうすれば、今年の夏から来年にかけて、貞観の地震についての評価がある程度固まってくる可能性は高い。
●ただし、貞観の地震による津波の評価結果は、原子力よりも一般防災へのインパクトが大きいので、地震本部での評価も慎重になる可能性もある。
●1F3について、仮に中間報告に対する保安院の評価が求められたとしても、一方で貞観の地震についての検討が進んでいる中で、はたして津波に対して評価せずにすむのかは疑問。
●津波の問題に議論が発展すると、厳しい結果が予想されるので評価にかなりの時聞を要する可能性は高く、また、結果的に対策が必要になる可能性も十二分にある。
●東電は、役員クラスも貞観の地震による津波は認識している。
というわけで、バックチェックの評価をやれと言われても、何がおこるかわかりませんよ、という趣旨のことを伝えておきました。」
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〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔opinion5104:150107〕
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