青山森人の東チモールだより 第288号(2015年1月9日)
- 2015年 1月 12日
- 評論・紹介・意見
- チモール青山森人
再び大連立の兆し
2015年度予算案、全会一致で採択
2014年12月1日から始まった2015年度の予算審議は、12月18日、全会一致で可決され終了しました。予算額は15億7000万ドルです(*)。あれほどのことがあったのに、野党フレテリンを含め誰も反対票を投じませんでした。
「あれほどのこと」とは、例えば、国会を軽視する財務大臣と国会をしきる国会議長が汚職で起訴されたこと、10月24日に司法への監視態勢をしき外国人の裁判官・検察官などを追放する憲法違反の疑いのある決議が扉を閉められた非公開の国会で採られたことなどです。
フレテリンが保有するメディア手段であるラジオ放送局「ラジオ・マウベレ」も理論の上で抑圧の対象になりかねない「メディア法」にさえ反対しないフレテリンであるからして、なんだかんだいっても結局は政府予算案へ賛成票を投じるのもよくよく考えれば不思議ではありません。
憲法違反の疑いのある10月24日の国会決議にかんしては、国内だけでなく、アジア財団、アムネスティ・インターナショナル、裁判官・弁護士の独立にかんする国連特別審査官、ETAN(東チモール・インドネシア・アクションネットワーク、東チモール解放闘争を支援してきたアメリカの団体)などなどから続々と批判や憂慮の声明が寄せられています。こうした声に少なくとも野党フレテリンは政府にたいし謙虚に耳を傾けるように働きかけるべきであると思うのですが、野党の実力者マリ=アカテリ元首相はシャナナ=グズマン首相と協調路線をとり、まるで談合のようにさえ見えてきます。
(*)2015年度予算額15億7000万ドルの使い道と財源
【使い道】
・1億7900万ドル=給料と人件費
・5億1600万ドル=物資・サービス
・4億700万ドル=公的譲渡
・2600万ドル=小資本
・4億4200万ドル=開発資本
【財源】
・6億3850万ドル=「石油基金」からESI(Estimated Sustainable Income、持続可能評価収入、「石油基金」からの定められた引き出し金額)として。
・6億8900万ドル=「石油基金」からESIの超過分として。
・1億7040万ドル=国内収入(税金・徴収金)。
・210万ドル=「人材資本開発基金」からの繰越金。
・7000万ドル=借款、うち1110万ドルは前年度からの繰越金。
このように財源の約85%が「石油基金」に依存している。
与野党協調路線の先にあるもの
しかしマリ=アルカテリ元首相にしてみれば政府との協調路線は国家の安定と発展のためなのです。予算案に賛成票を投じたあとのマリ=アルカテリ元首相の発言を『テンポセマナル』(2014年12月、インターネット版)からみてみましょう。政府の面々や首相に呼びかけているので国会内での発言のようです。
「われわれは、責任と政府機能への批判をこめて賛成票を投じた。政府の行動に満足しているから賛成したのではない。これから3年目(第5次憲政政府が発足してから―青山)に入るが、われわれは共にことにあたるために今回も満場一致の行動をとったのだ」。
「予算審議のなかでわれわれ全員が多くのことを心配していた。原油価格の下落が続いていることを懸念している。しかし予算が上昇することには懸念しない。首相のかかえる大きな矛盾だと思う。石油の価格が下がり続けても、土地と海に石油が大量にあるのだから心配は要らないという。われわれにしてみれば何をもっているかを勘定をしているだけであり、何がほしいか夢を見つづけているようだ」。
「わたしが思うに、国家は人材育成に投資すべきであり、公的機関を再構築するために何をすべきかを見なくてならないし、政治の再調整が必要だ。首相が行政の再構築と政治の再調整をすることは疑いのないことだ」。
「好むと好まざるとにかかわらず、われわれは多大な出費や労力を要する道を歩んでいるが、成果はわずかだ。われわれはよい成果をだすためよく計算しなければならない。やることはまったく多いし、すでに大金が費やされてしまった。われわれがこの国にもたらしたい水準、この国にもたらしたい質の標準のことを見なくてはならない。東チモールを発展させるために国家予算を使うにあたってもたらすべき基準によく注意を払わなくてはならないのだ」。
そしてマリ=アルカテリ元首相は政府の肥大化を指摘し、シャナナ首相が内閣改造と構造改革に着手することにマリ=アルカテリ元首相は期待を寄せます。
「われわれは2015年にカイ=ララ=シャナナ=グズマン首相が着手するであろう構造の修正に全面的に支援していくつもりだ。われわれはフレテリンと新政府をつくることを頼みはしない、それはもう遅いからだ。しかしわれわれは、政治的な危機やひずみ、政府組織のひずみ、公共機関の歪、経済のひずみ、労働市場のひずみ、これらにたいする構造的な措置をとることにたいし全面的に支援していく。われわれは共に歩む用意があるがそれは正していくためなのだ」
「国内の規程を増やす必要がある。石油基金から引き出せる金額を減らす必要がある。われわれの票とは申し上げたとおり、あなたがたや首相への信頼を示すものである。だが、独りではたいしたことはできない。チームが必要だ。政府のなかにあなた方とは別の側から国を前進させようとする核を含むチームが必要なのだ」。
そして常に物議を醸し出す外国人顧問についてこう言及します。
「あなたがたはすべての法律について調和を見始めなくてはならない。諸法律が調和すべきときがきたのだ。現在、加速がついた開発にたいし、あなたがたは法律を適用しなければならないことを理解している。外から来た顧問たちは特定の法律をこの国に導入するとき外の法律の多くをコピーする。結果、あなたがたは国内規程を増やすとき何をすべきかを考えるようになった。あれこれ考えそして語るが、天然資源を語るとき、あなたがたは水のことを忘れてしまう、水も資源だ、土地も資源なのだ、このことも規程の源になることをしょっちゅう忘れてしまう」。
「したがって、首相、われわれの批判能力を持続させる重い責任をもってわれわれは票を投じたのだ。われわれはわれわれが共に歩むときがきたことを示すために票を投じた。何を求めるかを知りながら前進するために、開かれた道をさらに共に歩むのである」。
マリ=アルカテリ元首相のこの発言の要点は政府と対決姿勢をみせず、もうすぐ(たぶん2月であろう)おこなわれる内閣改造で誕生する新政府と協力して国家運営をしていきたいという意気込みを示していることです。シャナナ=グズマン首相の「変革する時がきた」との発言(12月18日の記者会見、「東チモールだより 第287号」参照)と共鳴している内容となっています。
アルカテリ元首相が「共に歩む」ことを政府に呼びかけていることは、フレテリンによるシャナナ首相への大連立の熱い“ラブコール”と見てよいでしょう。しかし2012年、第二次シャナナ連立政権が発足する直前にフレテリンの方から大連立構想がもち掛けられたとき、当時のシャナナ首相は、野党不在となれば“チェック&バランス”を失った国家が全体主義に陥る危険があるとして大連立構想を拒否しました。
この経緯があるので、フレテリンの方からは入閣を申し込むことはしないでしょう。アルカテリ元首相も上記の発言でそう述べています。しかしアルカテリ元首相からこれほど熱く「共に歩む」ことを求めているということは、シャナナさん、今度はそちらからこちらにプロポーズしてくださいよ、そしたら受けますよ、という意味であると思われます。
2月の内閣改造で、もしかしたら大連立政権が誕生するかもしれません。もしそうなったら、「共に歩む」国家運営に期待をするか、それともかつてシャナナ首相が述べたように国家が全体主義に陥る危険があると危惧すべきなのか……。わたしの気持ちは後者のほうに傾きます。
かれら1970年代からの指導者たちには、ポルトガル植民地主義の遺物であるプチブルジョワという階層の殻を破り、真の解放の実現を目指した終わりなき航海の舵取りをする革命的な指導者たちになってほしいと願いますが、ここ数年の東チモールを観ているとそれは叶わぬ夢のように思わざるをえない……というと言葉が過ぎるでしょうか。
~次号へ続く~
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔opinion5115:150112〕
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