沖縄問題 どう解決するか (中)
- 2015年 3月 12日
- 評論・紹介・意見
- 宮里政玄沖縄
安全保障環境が変化-アメリカのパワーの低下と日米関係
現在、国際的なパワーが大きく変動している。それは中国が急速に台頭し、単独覇権を誇っていたアメリカのパワーとそれを使用する意思が相対的に弱まっていることに示されている。やや単純化していえば、アメリカ外交の現状を理解する重要な概念は「オフショア・バランシング」と「ヘッジ戦略」である。
「オフショア・バランシング」とは、特定の大国の想定する敵国がパワーを強化してくるのを、自国に好意的な国を利用して抑制させることである。例えば、アメリカの経済力が衰退していて覇権の維持に耐えられなくなりつつある場合、オフショア(海を隔てた地域)で起きる紛争については軍事介入を最小限にとどめ、新たな覇権国がぼっこう勃興しないように、それぞれの地域におけるアメリカの同盟国のパワーを強化させることである。
これと似た言葉に「ヘッジ戦略」がある。端的に言えば、関与(相互依存)政策が機能しない場合への安全保障用の備えである。例えば、多くの投資会社は価値の上がる一方で市場が下落したときに備える株を購入する。これを国際政治に例えていえば、アジアの繁栄を想定して中国との関係を緊密化するが、中国が脅迫したり、国際情勢を不安定化したりした場合に備え、日本などの強固な同盟関係を維持しておくことである。
以上の視点から、アメリカは日本に頼らざるを得ないが、その場合に沖縄の米軍基地、特に現在問題となっている辺野古新基地は不可欠なのだろうか。ここでは、日米関係に造詣の深いマイク・モチヅキとジョセフ・ナイの見解を見ることにしよう。
まずモチヅキを取り上げよう(「抑止力と在沖海兵隊」、新外交イニシアティブ編、「虚構の抑止力」旬報社、2014年)。
モチヅキは、北朝鮮の抑止にあたって日本における米軍基地および軍隊(とくに海兵隊)が主要な役割を果たすことは疑問の余地がない、という。米軍は反撃のための効果的な集結地を必要とし、普天間基地はこの機能を果たすことができる。しかし地理的観点からすれば、沖縄の基地以外で、集結地としてふさわしい別の場所がある。例えば、1950年の朝鮮戦争で仁川水陸両用攻撃で佐世保が主要基地として利用されたことは、日本国内の基地が有事に共用されるなら、普天間基地やその代替基地とされている辺野古は不要であるということだ。
また、沖縄への基地の集中はぜいじゃく脆弱性を増加させ、抑止力自体を弱体化させかねない。したがって、海兵隊をグアムに移転するという再編計画は単に米軍および基地を引き受ける側の沖縄の負担を軽減するための移転としてではなく、脆弱性の縮小、軍事的柔軟性の向上、そしてその結果としての抑止力の強化を目的として計算された戦略的な移転である。
さらに、グアム、オーストラリア、シンガポールなどの地域におけるアメリカの継続的なパワーの拡大によって抑止力は向上している。大規模な海兵隊の駐屯地を沖縄に維持することはさほど重要ではないということだ。
例えば、海兵隊戦闘部隊の増派を要するような事態に備えるためアメリカは、戦闘機材を完備した海上事前集積船を日本に配備することも可能である。軍事的危機の場合、海兵隊はアメリカ本土から空路で派兵された後、事前配備された機材と合流できる。このような作戦および有事の計画は、辺野古のV字型航空基地建設を必要としない。沖縄に展開される海兵隊がどうしても沖縄近辺で訓練を行う必要があるとすれば、キャンプ・シュワブ内に比較的小規模なヘリポートを建設すれば十分だという。
モチヅキは中国に関してこう述べる。中国からみれば、琉球列島は「第一列島線」の一部だが、そこで対峙するのは米軍の潜水艦であって、海兵隊ではない。それで「海兵隊がいなくなると不安だ」という日本国民の意識は間違っている。なぜそうなったかといえば、鳩山政権時に「海兵隊が必要なのは抑止力のためだ」といい始めたからだという。グアムのハブは空軍だから、本当は海兵隊を移転させる必要はない。それをやるのは日本がお金を出しているからだ。グアム移転は税金の無駄遣いだと厳しい。
ナイも、沖縄の地理的優位性が、中国の軍事的台頭で逆に脆弱性に変わりつつあることを指摘する(朝日、2014年12月8日)。普天間基地や辺野古の新基地も、この脆弱性という問題の解決策にはならず、環境の変化に応じて実行方法を変える必要がある。そして21世紀の安全保障環境に合わせた同盟の在り方を再検討すべきだという。
果たして安倍政権に、このような再検討を行う用意があるだろうか。答えは明らかに「ノー」である。
安倍政権の安全保障政策
大まかにいえば、安倍政権の安全保障政策は、2つの理念に基づいているように思う。その一つは、自力で自国の安全を保障できないことから、アメリカを東アジアの潜在的な対立構造により深く引き込むということである。例えば、自衛隊による米軍の後方支援のための新法を制定するのは、米国への支援を地球規模に広げる狙いがある。
その背景には、中国の台頭で緊張が高まる日本周辺の安全保障にアメリカをつなぎ止めたいという安倍政権側の事情がある。世界中に展開する米軍への後方支援を積極的に行う代わりに、尖閣諸島の問題などで、米国のかかわりを強めてもらうということだ(朝日、2014・12・29)。同じことは、国家安全保障会議、国家安全保障戦略の策定、特定秘密保護法の成立、集団的自衛権の行使容認などについてもいえよう。
私は普天間基地の辺野古移転計画も、米海兵隊の撤退計画に対する引き止め工作、または「人質」ととらえてきた。軍事的に必ずしも必要のない辺野古基地にアメリカが賛成するのは、日本以外では得られない建設資金や思いやり予算のためである。
あと一つは、日本は世界をリードする列強国でなければならないという安倍首相の強い信念である。それは「戦後レジームからの脱却」発言、活発な訪問外交などに表れている。中韓両国の強い反発を招いている靖国神社参拝、慰安婦問題などがアメリカの批判をも招いていることは、日米の外交が必ずしも一致しないことを示している。
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