日本は有志連合に組さず武力対決を断ち切る外交を -平和アピール七人委がイスラム国問題で訴え-
- 2015年 3月 22日
- 時代をみる
- イスラム国岩垂 弘
世界平和アピール七人委員会は3月21日、「『イスラム国』と有志連合の武力対決の中で日本が目指すべき道」と題するアピールを発表した。
アピールによると、世界平和アピール七人委は、「イスラム国」が国際的に問題になり始めた以降、ずっと議論を続けてきたが、今回のアピールは、日本人2人が拘束され、殺害に至る経過の中で、日本国民としてこの問題をどう考え、どう行動すべきかを議論し、到達した結論という。
アピールは、「イスラム国」(IS、ISIS, ISIL)と、米国を中心にした有志連合との武力対決が深まっている」との現状認識に立ち、「私たちは『「イスラム国』による拘束者の殺害とその場面の映像公開をとうてい受け入れることはできない。それとともに私たちは 有志連合による空爆拡大は、一般市民の安全を犠牲にし、破壊するものであって、国際人道法に反しているので支持できない」とし、「この一連の事態から学ぶべき最大の課題は、今後このような不幸な事件がおこらず、この地域の市民も含めて、安全で安心して生きていける世界をつくるために行動し、貢献することであろう」「日本は、有志連合に組みするのではなく、距離を置いた上で、武力対決の連鎖を断ち切らせるためのあらゆる手段の外交に積極的に貢献し、尽力すべきなのである。まして日本の政府が日本国憲法を無視し、軽視して、自衛隊の邦人保護拡大や人質の武力奪還を口実にした機能拡大への動きや情報開示の抑制、軍事力増強を狙うのは本末転倒である」と訴えている。
世界平和アピール七人委員会は、1955年、世界連邦建設同盟理事長で平凡社社長の下中弥三郎の提唱で、人道主義と平和主義に立つ不偏不党の有志の集まりとして結成され、国際間の紛争は武力で解決しないことを原則に、日本国憲法の擁護、核兵器禁止、世界平和などについて内外に向けアピールを発表してきた。今回のアピールは115回目。
七人委員会の発足時のメンバーは、下中のほか、茅誠司(東京大学総長)、平塚らいてう(日本婦人団体連合会会長)、湯川秀樹(ノーベル賞受賞者、京都大学教授)らだったが、現在のメンバーは、武者小路公秀(国際政治学者、元国連大学副学長)、土山秀夫(病理学者、長崎大学名誉教授、元長崎大学学長)、大石芳野(写真家)、小沼通二(物理学者、慶應義塾大学名誉教授)、池内了(宇宙論・宇宙物理学者、総合研究大学院大学名誉教授)、池辺晋一郎(作曲家、東京音楽大学客員教授)、髙村薫(作家)の各氏。
アピールの全文は以下の通り。
「イスラム国」と有志連合の武力対決の中で日本が目指すべき道
世界平和アピール七人委員会
武者小路公秀 土山秀夫 大石芳野 小沼通二 池内了 池辺晋一郎 髙村薫
イラク・シリア領内に支配地域を持つ「イスラム国」(IS、ISIS, ISIL)と、米国を中心にした有志連合との武力対決が深まっている。2014年6月の「イスラム国」樹立宣言は、イラク第2の都市モスルの制圧に続くものだった。これに対して米国は8月からイラク領内の「イスラム国」支配地域を空爆、9月には「イスラム国」の壊滅を目指す有志連合を組織し、シリア領内の支配地域に空爆を拡大し、今や地上での攻勢も開始させている。有志連合メンバーは、直接の戦闘には参加しない日本なども含む約60か国・地域に達している。
一方 「イスラム国」による拘束者の殺害が相次いでいる。私たちは「イスラム国」による拘束者の殺害とその場面の映像公開をとうてい受け入れることはできない。それとともに私たちは 有志連合による空爆拡大は、一般市民の安全を犠牲にし、破壊するものであって、国際人道法に反しているので支持できない。しかも空爆では相手を壊滅させることはできず、力によって拠点都市の奪還を目指す計画は、市民の安全を根本的に破壊し、社会の不安定性と危険性を拡散させるものだと考える。
振り返ってみれば、「イスラム国」も有志連合も、自らが是とする秩序を力によって他に押し広げようとしており、対立の裏で、相手に武器補給がおこなわれるといった醜い行動も見え始めている。さらに、アルカイダの原点は、アフガニスタンの親ソ連政府に対してパキスタンと米国が生み出したものであったし、「イスラム国」の原点は、シリアの現政権に反対する米欧が育成してきた勢力と対イラク戦争から出現したものだったことも忘れてはいけない。
今年1月20日には、「イスラム国」によって日本人2人の拘束と身代金要求、殺害予告が公開されたが、これは、日本が軍事協力を強めてきたイスラエルとその周辺国を訪問中の安倍首相が、カイロで「ISILがもたらす脅威を少しでも食い止めるため・・・ISIL と闘う周辺各国に」人道支援を行うとスピーチを行った3日後のことだった。対立する一方のみの支援は、他方から見れば敵対行為であり、人道的支援ではない。首相は、中東諸国と激しく対立し、ガザで非人道的破壊をくりかえしているイスラエルの国旗を背にして「テロには屈しない」と繰り返したが、2人を救出するために何をしたのだろうか。日本政府は2人が拘束されていることを前年から把握していたのだし、2004年以来人質を次々に拘束・殺害して映像を公開してきたアルカイダが、2004年に拘束中の日本人の殺害予告と共にイラクからの自衛隊撤退を要求した時に、小泉首相が要求を拒否した後で、殺害される動画が公開されたことを政府が忘れていたはずはない。
首相は第2の人質殺害の報を受けて2月1日に開催した関係閣僚会議において「テロリストたちを決して許さない。その罪を償わせるために国際社会と連携していく」との決意を表明したが、具体的に何をしたいのかが全く見えない。
今月末に開催を予定されている政府対応についての検証委員会と有識者の合同会議が、あいまいさなく徹底的に検証を進め、国民に理解できる形で結果を発表することを期待する。
この一連の事態から学ぶべき最大の課題は、今後このような不幸な事件がおこらず、この地域の市民も含めて、安全で安心して生きていける世界をつくるために行動し、貢献することであろう。第2次世界大戦後の世界は、「国際関係において、武力による威嚇又は武力の行使を、・・・慎まなければならない」と決意して出発したのであったし、日本も、世界に敵をつくらず、武力行使をしない日本国憲法の下で歩んできたはずだった。日本は、有志連合に組みするのではなく、距離を置いた上で、武力対決の連鎖を断ち切らせるためのあらゆる手段の外交に積極的に貢献し、尽力すべきなのである。
まして日本の政府が日本国憲法を無視し、軽視して、自衛隊の邦人保護拡大や人質の武力奪還を口実にした機能拡大への動きや情報開示の抑制、軍事力増強を狙うのは本末転倒である。私たちは、外交軽視、武力強化の日本と世界を望まない。
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