もしも731部隊が日中韓歴史認識の大きな争点になったら?!
- 2015年 4月 2日
- 時代をみる
- 加藤哲郎原発歴史認識
2015.4.1 東京は桜の花が真っ盛り。でも、なぜ4月1日が新学期なのでしょうか? 昔、大学入試の結果は合格が「サクラ咲く」、不合格は「サクラ散る」の電報で、受験者に届く時代がありましたが、いまはHPやメールです。サクラの花と関係があるのでしょうか? 調べてみると、明治期には欧化にあわせて、9月新学期が普通でした。富国強兵の国策に沿って、1886年から政府の会計年度、陸軍の入隊日4月1日に軍の学校、師範学校、小学校が合わせられ、大正期に旧制高校や帝国大学にも広がったようです。そういえば、ランドセルも、学生服も、セーラー服も…。軍事化・戦争と日本社会の近代化は、きってもきれない関係で、くらしの中に色濃く刻印されています。政府の沖縄・辺野古への米軍基地建設の差別的・強行的態度、鹿児島・川内原発再稼働への原子力ムラの前のめりは、国会での「八紘一宇」や首相の「わが軍」発言の甘い追及と、無縁ではないでしょう。
小出裕章さんが、長らく勤めてきた京都大学原子炉実験所を、定年退職されました。最後の言葉も、すばらしいものです。「福島の事故から、私たちは何を教訓とすべきなのでしょうか? 私の教訓は単純です。原子力発電所で事故が起きてしまえば、今聞いていただいたようにとてつもない被害が出てしまって、回復すらができない、そういうものだ。そしてそういう被害というものは、社会的に困った人たちに、集中的に加えられていくということを教訓にしなければいけないし、2度と原子力発電所などは、動かしてはいけない…。しかし、原子力マフィアはどういう教訓を得たのかというと、どんなにひどい事故を起こしても、どんなに住民に苦難を加えても、自分たちは決して処罰されないという教訓を学んだ」と。「フクシマのウソ」をずっと報道してきたドイツのZDFテレビが、フクシマ4周年にあたって、安倍首相の原発輸出ビジネスを告発する「原子力エネルギーのカムバック」を放映し、警告しました。チュニジアで開かれた世界社会フォーラム(WSF)でも、日本からの反原発フォーラムのよびかけに、大きな反響があったというニュース。決して忘れてはならない出来事が進行し、戦争への足音が聞こえてくる春です。
中国のよびかけたアジアインフラ投資銀行(AIIB)設立に、アジアの大半の国々、ヨーロッパ諸国、3月末には台湾までが参加して48か国・地域、新自由主義のもとでのアジア経済圏が、大きく再編されようとしています。アジア開発銀行(ADB)67か国・地域を主導してきたと自負する日本政府は、アメリカの顔を伺い、参加を見合わせました。しかしアメリカ自身、最高の同盟国イギリスをはじめオーストラリアまで加わるのを見て、当初の見通しの甘さに気づき、前向きの様子見に変わってきました。「ジャパメリカからチャイメリカへ」のグローバルな流れです。1950年、アメリカが中華人民共和国成立を敵視している間に、イギリスがいち早く承認して朝鮮戦争に突入していった事態を、想起させます。占領下の日本は、アメリカの前線基地にされたばかりでなく、実際には秘かに参戦し、戦死者も出していました。
そして、日本は日米安保で蚊帳の外におかれたまま、1970年代はじめに、寝耳に水の米中接近・ニクソンショックでした。忘れてはなりません。エドワード・スノーデンの暴露した米国の戦略的機密文書によると、米国の信頼する「ファイブ・アイズ(包括的協力国)」に入っているのはイギリス、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドだけで、日本は、ドイツなど20か国の「限定的協力国」の一つにすぎず、電話もメールも盗聴される側なのです。そして、経済情報が21世紀インテリジェンス・情報戦の中心になりつつある時代に、左図でAIIBに不参加の国はどのくらい?…。第二次世界大戦前の「満州国」に固執した国際連盟脱退、日独同盟の悲劇をも想起させます。
安倍首相にとっては、尖閣問題や竹島問題で対立する中国主導・韓国参加のAIIBの流れに逆らいたいということでしょうが、もともと今年は、日中韓の歴史認識が世界から注目される「戦後70年」です。「従軍慰安婦」問題を「人身売買」に矮小化した安倍首相の発言、4/29米国議会演説・8/15「首相談話」の中身がクローズアップされていますが、これまでの「侵略」や「植民地支配」に含意されているのは、「慰安婦」や「靖国」問題にとどまりません。「満州事変」に始まる15年戦争の全体、「満州国」から南京大虐殺、重慶無差別爆撃、三光作戦など、敗戦までの全過程が含まれます。去る3月28日の早稲田大学20世紀メディア研究所公開研究会報告「731部隊二木秀雄の免責と復権」から私も発言を始めた、日本の細菌戦・人体実験問題も、調べてみると、中国・韓国側から日本の「歴史認識」を問う大きな争点になっています。本来なら国際法違反の明白な石井四郎らの細菌戦は、占領期にデータを米軍に提供して戦犯訴追をまねがれる密約により、免責されました。天皇戦犯を要求した朝鮮戦争直前のソ連ハバロフスク裁判は、中国内戦・米ソ冷戦下でうやむやにされました。731部隊の本格的研究は、1981年の森村誠一『悪魔の飽食』ベストセラー、常石敬一『消えた細菌戦部隊 関東軍第731部隊』刊行から国際問題化します。ちょうど「侵略」を「進出」と書き換えさせた文部省の教科書検定が韓国・中国の抗議をうけた頃です。
ただし、当時は細菌戦の被害者の証言が少なく、日本国内と欧米での科学者・歴史家・ジャーナリストの探求から事実が発掘されてきました。それが21世紀に入ると、中国や韓国でペスト菌散布や人体実験の資料と証言が大量に出てきて、戦争犯罪を隠蔽してきた日本政府、それに免責でデータを蓄積してきた米国政府の責任も、追及されるようになりました。本サイトで何度か紹介し、私個人は『CIA日本人ファイル』の資料集を編んだ米国国立公文書館(NARA)のIWG機密解除ファイルの目玉の一つが、731部隊・細菌戦関係です。日本のネトウヨ・サイトには、731部隊の犯罪そのものを「つくり話」として否定する議論も散見されますが、これがもしも安倍首相の話として世界に広まり、本格的争点となったらと考えると、恐ろしくなります。
この問題に、二木秀雄という石井四郎側近・結核班長の戦後の軌跡から研究を始めた私の中間報告は、幸い大きな反響がありました。なぜかつい最近、日本語版wikipediaにも「二木秀雄」と、彼が晩年に「総裁」を勤めた「日本イスラム教団」が立項されました。「オウム真理教」のサリンや「イスラム国」関連かもしれません。そこにはいろいろ間違いもありますので、私の方の研究は、3月28日にバージョンアップした当日報告「731部隊二木秀雄の免責と復権――占領期輿論』『政界ジープ』『医学のとびら』誌から」のパワポ原稿を本日更新し、引き続き、雑誌『輿論』『政界ジープ』表紙カバーと「暫定総目次」を掲げて欠号を捜し、皆様からの情報を求め、研究成果を提供していきます。
初出:加藤哲郎の「ネチズン・カレッジ』より許可を得て転載 http://www.ff.iij4u.or.jp/~katote/Home.shtml
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔eye2944:150402〕
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