IPPNWドイツ支部・アレックス・ローゼン医師の論評:フクシマ作業員の健康調査における難題
- 2015年 4月 13日
- 時代をみる
- グローガー理恵
フクシマ作業員の健康調査における難題
2015年4月10日
著者: アレックス・ローゼン (Alex Rosen)
(和訳: グローガー理恵)
フクシマ原子力災害の後、福島第一原発の敷地の中で働いてきた作業員たちは、途方もなく最も高い放射線被曝量を浴びたと言ってよいであろう。 しかし、現場の作業員たちの圧倒的多数は東電の従業員ではなく、もっと著しく酷い労働条件のもとで働く、下請け業者に雇われた臨時雇用労働者たちである。 労働者の多くは、まともに登録もされておらず、彼らが受けた放射線被曝量も適切に記録されていないし、彼らの健康状態の実態や変化もモニターされていないのである。 多くの場合、現場で働く作業員は、短期間の臨時仕事に動員された不熟練の日雇い労働者たちであり、その後に、彼らを追跡できるような手がかりはない。
日本のメディア報道によれば、日本のマフィア・やくざは、フクシマ原発現場のクリーンアップ作業、放射能汚染された冷却水の処理作業、または、事故現場周辺における巨大な建設-構築計画などを請け負っている、東電の下請け業者との有利な労働契約のお蔭で利益を得ているという。
また、自ら進んで、または、善意からではあるが無鉄砲なボランティア活動の一環として、放射能汚染された地域において除染作業に関わっている数多くのボランティアもいるのだが、その中にも、高いレベルの放射線被曝量を浴びている人達がいるのである。 ボランティアの多くは、当局による除染作業努力に成果が見られないために絶望しており、そのために彼らは、自分たちの手で、自分たちの故郷を再び住居可能にするための手助けをしたいのである。 しかし、そうすることによって、彼らは自らを長期的健康被害に晒すリスクを冒していることになる。さらに、彼らの被曝がコントロールされるようなことはなく、被曝線量も測定されることはないのである。
現在、広島・長崎原爆犠牲者の調査を長年にわたって行ってきた日米共同研究機関 「放射線影響研究所 (RERF-Radiation Effects Research Foundation)」が、 少なくとも、福島原子力災害の事故処理作業に従事したことが確認されている作業員達に及ぶ長期的な健康影響の調査をしようと試みている。 放射線影響研究所 (RERF)は、2011年の3月から同年の12月までフクシマ原発現場での作業に従事していた計2万人以上の作業員を対象にして健康調査をしたいと述べている。 しかし実際に、不熟練の臨時雇用労働者や下請け業者の従業員として何年もの間、損壊した原子炉が並ぶ福島第一原発の敷地の中で危険な作業をしてきた人々を、この大規模な調査に含めることができるのかどうか、疑わしい。
一例を挙げるなら、これまでに健康診断の参加を求められた凡そ2,000人の原発事故処理作業員達の中で、その内の35%だけが健康診断に参加することを明らかにしているのみである。 放射線影響研究所(RERF)の方は、作業員たちとの連絡がとれなかったり、または、作業員たちの現住所を突き止めることができない、と主張している。 このことは、健康調査に、過度のレベルの放射線被曝量に晒された作業員たちのほとんどを引き入れることができないという懸念を確かなものにしているようである。 したがって、放射線被曝がもたらす長期的な健康影響に関する疫学上の評価をすることは不可能になるということである。
IPPNWドイツ支部は既に長い間、フクシマ作業員たちのための包括的な健康上のアフターケアを要求してきている。 そして、我々が繰り返し力説してきたことは、「そのような健康調査には、安全規制・規準の対象に全くなっていない多数のボランティア作業者たちや、下請業者に雇われ、東電の従業員に適用される安全-健康管理の基準に適わないような労働条件のもとで働く労働者たちも含めた、ありとあらゆる全ての作業員を引き入れなければならない」ということである。
以上
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
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