目先の成績狙いが疲弊を招く
- 2015年 4月 21日
- 交流の広場
- 藤澤豊
随分前ことになるが仕事でフロリダに行った。一月ほど前にスピード違反で捕まって免停をくらっていた。タクシーで客の工場とモーテルの行き帰りはきつい。客に頼んで朝夕送り迎いしてもらった。工場の建屋はできあがっているものの、電源工事やらなんやらで一日たりともフルに働けない。客の都合で三時過ぎにはモーテルに戻ってくる。
戻ってきても車がないのでどこにも行けない。雑誌を読んだり、ピンボールマシンで時間を潰すのだが、何もしようがない。しょうがないからキャフェテリアで早い夕食になる。そこで四十歳をちょっと出たくらいの日本人に声をかけられた。仕事で海外に出ていると、日本人だというだけで世間話になることがある。英語での世間話もいいが、日本語でなら気が楽だからだろう。
全米を網羅したモーテルチェーンの一軒に宿泊していた。いつも安モーテルに泊まっていたので、大して気にはならなかったのだが、そのモーテルは内装やカーペットがちょっと傷んでいた。話しかけてきた方は、そのモーテルチェーンの本部の人で、フランチャイズ店の検査をしていた。
アメリカの大学をでているから、本部でこんな仕事をさせてもらっていると言っていた。口調には若い日本人に対するエリート意識がちらほら見え隠れして饒舌だった。
キャフェテリアでコーヒーをすすりながら、お伺いした話しはざっと次のような内容だった。今でも忸怩たる気持ちが発露された口調を鮮明に覚えている。状況がよほど腹に据えかねていたのだろう。出張で来ている若い、全く別の業界の日本人に話しても、話がどこかに抜けて問題になる心配はないと思ったからだろうが、外部の人に話すような内容ではなかった。
きちんとメンテナンスさえしていれば、まだ数年は使えたはずだが、カーペットは即張替えなければならない。壁もこのままでは許可し得ないので、壁紙も全て張り替えになる。その他にも、あちらこちらで設備を入れ替えなければ、チェーン店として名前を使うことを許可できない。なんで、こんな状態になるまで放っておいたのか、なぜ前の検査で問題にならなかったのか分からない。
こうなるのには大体二通りのケースがある。フランチャイズ店のオーナが年度毎の利益を気にするので、店のマネージャがその意に従って利益を出すために経費を節減する。経費を節減しようとすれば、手っ取り早いのはメンテナンスの手抜きになる。きちんとメンテナンスさえすれば、もっと長く使える設備が使えなくしてしまって、最終的には高いものにつくのは分かっているだろうに。
もう一つのケースは、マネージャとして短期間で成績を上げ、その実績をキャリアップの手段と考えている人がいる。数年で実績を上げ次に移ってしまう。こういう人に限って、とんとん拍子で出世しかねない。この手のやり手の後を引き継いだマネージャは貧乏くじを引いたようなかたちになって、前任者のツケを払らわさられる。見る目のない上層部からは利益をだせない、能力のないマネージャと評価され、下手するとマネージャ失格の烙印さえ押されかねない。いい加減な調子のいいのが評価されてるようじゃ先がないんだが。
何時の時代も大して変わらない。今でも同じようなことが毎日あちこちで起きているだろう。
起こるのを防ぐ力はないが、起こす側には立たないようにする、あるいは起こす側からの距離をとるぐらいのことは誰でもできると思うのだが。
Private homepage “My commonsense” (http://mycommonsense.ninja-web.net/)にアップした拙稿に加筆、編集
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