辺野古移設が唯一の道ではない -もう一度抑止力神話を問い直す-
- 2015年 4月 27日
- 時代をみる
- 宮里政充沖縄
辺野古新基地建設問題について「この期に及んで何を文句言うか」、「建設工事は粛々と進めるんだ」など高圧的で問答無用の対応を続けてきた安倍政権は、ようやく翁長雄志(おながたけし)沖縄県知事と菅義偉(すがよしひで)官房長官(4月6日)・安倍首相(4月17日)との会談に踏み切った。自民党の中からもこれまでの政府の姿勢に注文をつける動きが出てきたことや、沖縄における反基地運動が高まって移設工事続行に支障をきたす危険性を感じたのであろう。会談はいずれも平行線のままに終わったが、この二つの会談を通じて沖縄県と日本政府の対立点がより鮮明になってきた。
菅官房長官と安倍首相は翁長知事に対して「名護市辺野古移設は、日米同盟と抑止力の維持、危険性除去を考えたときに唯一の解決策だ」と主張した。この主張は辺野古移設に賛成する人々に共通するものである。この主張の後半部分「普天間基地の危険性除去」については誰も反対しない。問題は前半部分の「辺野古移設は日米同盟と抑止力を維持するための唯一の解決策だ」という点にある。
「中国に尖閣諸島を乗っ取られていいのか」「日本の防衛についてもっと真剣に考えてよ」「非現実的で無責任な主張をしておきながら金だけはちゃんともらうんだから」などの声がネット上に氾濫している。それこそ無責任で身勝手この上もない。
前稿(3月28日)でも述べたことだが、今度移設するはずの沖縄海兵隊の本体は長崎県佐世保港にある。沖縄の海兵隊には輸送手段である艦船も輸送機もない。したがって、いざ出撃となったとき、沖縄海兵隊は艦船が佐世保港からたどり着くのを待ち、輸送機が米本国から飛んでくるのを待つしかないのだ。これは誰が見ても非効率的。また、沖縄の海兵隊が北朝鮮や台湾海峡を同時に警戒し、対処するうえで好位置にあるとする日本政府の説明も、地図で距離関係を測るまでもなく説得力に欠ける。(詳しくは『虚像の抑止力――沖縄・東京・ワシントン発安全保障政策の新機軸』:新外交イニシアティブ編・旬報社、『誤解だらけの沖縄・米軍基地』:屋良朝博著・旬報社を参照されたい)
さらに、沖縄海兵隊の抑止力効果については、3月29日朝のNHK日曜政治討論会で元防衛大臣・森本敏氏と元内閣総理大臣補佐官・岡本行夫氏が「軍事的には沖縄海兵隊の沖縄駐留が唯一の抑止力ではなく、辺野古移設は政治的な選択の問題だ」と語っている。まさしく、日本の権力者たちは自らの権力維持を確実に危うくする本土への基地移設問題を遠ざけ、自分の庭に米軍基地が来るのを恐れる本土人たちは、沖縄の軍事基地負担軽減のことを真剣に考えるのをやめてしまったのである。
要するに辺野古新基地建設は抑止力強化や世界の平和のためというよりは、権力者たちの保身と多くの本土人の無責任さを物語っていると言った方がいいのではないか。中国の海洋政策が尖閣列島に脅威を与えつつある現在、権力によって「思考停止した抑止論」が極めて現実的で説得力を持っているかのように思い込まされ、国民は政府の世論操作にいつの間にか取り込まれてしまった。そこが権力の付け目なのである。(かくして安倍政権は強権的な手法で一気にファッショ化していくことになる。)
ところで、翁長知事は菅官房長官に対してこう訴えた。
今日まで、沖縄県が自ら基地を提供したことはない。県民に大きな苦しみを与え、世界で一番危険だから危険性除去のために(新たな基地を)負担しろという話をすること自体が日本国の政治の堕落だ。(移設に向けた)工事では、国から「問答無用」の姿勢が感じられる。上から目線で「粛々」との言葉を使えば使うほど県民の心は離れ、怒りは増幅する。移設ができなければ、本当に普天間が固定化されるのか。辺野古の基地は絶対に建設できないと確信を持っている。移設の頓挫で起きる事態は全て政府の責任だ。昨年の県知事選や衆院選の争点は埋め立て承認の是非ただ一つだった。十万票差で私が当選したのは、沖縄県民の辺野古移設への圧倒的反対を示したものだ。
また安倍首相に対しては「強制接収で自ら土地を奪っておきながら、老朽化して世界一危険だから沖縄が負担しろ、嫌なら代替案を出せという、こんな理不尽なことはない」「稲嶺恵一元知事や岸本建男元名護市長が辺野古移設を受け入れたのだから地元の同意は得ているというが、1999年の閣議決定は軍民共用化や15年使用期限などが沖縄側の受け入れ条件だった。その閣議決定が2006年には廃止されている。したがって16年前に知事や市長が受け入れを決めたという前提条件がなくなり、地元や県が受け入れたというのは間違いである。」(会談における翁長県知事の主張は突如非公開扱いされてしまった!)
翁長知事は安倍首相に対して、「沖縄は辺野古に新基地を絶対造らせないといっていることを是非伝えてほしい」と訴えたが、自らもワシントンへ出向いて沖縄の強い意志を直接伝えることにしている。あるいは、沖縄の意向を真摯に受け止めるのは、アメリカに追従しながら軍事力増強を図る日本政府よりもアメリカ政府の方かもしれない。たとえば、
米クリントン政権で米軍普天間飛行場返還の日米合意を主導したジョセフ・ナイ元国防次官補(現ハーバード大教授)は2日、日米両政府が進める普天間飛行場の名護市辺野古への移設について「沖縄の人々の支持が得られないなら、われわれ、米政府はおそらく再検討しなければならないだろう」と述べ、地元同意のない辺野古移設を再検討すべきだとの見解を示している。
(2015.04.04 ryukyushinpo.jp)
もちろん、アメリカ政府は辺野古新基地建設に関わる政策実行を評価している。当然の反応である。何しろ日本は軍事基地提供やら思いやり予算やら、まことに都合のいい同盟国だからだ。おまけに「集団的自衛権」の行使容認によって自衛隊の支援活動が大幅に拡大されるとなれば、安倍政権の評価は格段に高まることになる。4月29日、日本の首相として初めて米上下合同会議で演説する機会を与えるのも納得できる話だ。
だが、果たしてそれでことは収まるであろうか。沖縄の声を聞く耳を持たず抹殺することでその権力を維持することが本当に可能であろうか。私にはそうは思えない。長年にわたる差別政策に対する反発に加えて、今や沖縄ではイデオロギーの如何を問わず、米軍基地は沖縄経済発展のためには邪魔であるという認識で一致している。それで、先の選挙で自民党が全敗したのだ。その現実を見誤ればどういう不測の事態が発生するか分からない。毎日新聞が18、19日に行った全国世論調査では「辺野古移設についての日本政府の対応に反対」が53%、「賛成」が34%だった。静かすぎると思われる本土でもこういう結果だ。
沖縄を甘く見てはいけない。 (2015.4.20記す)
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