日本国憲法も日米安保も、事実上改訂された!
- 2015年 5月 1日
- 時代をみる
- 加藤哲郎安保憲法
2015.5.1 安倍首相の訪米、日本のマスコミ報道では、おおむね大成功との評価です。議会演説のパフォーマンスは、スピーチライターの腕で、ハリウッド風のエピソードを散りばめた45分間の英語演説に仕立て上げられました。しかし内実は、深刻な問題を孕んでいます。米国人・ワシントン向けには、パール・ハーバー、バターン行進、硫黄島まで入れて、「日本国と、日本国民を代表し、先の戦争に斃れた米国の人々の魂に、深い一礼を捧げます」と神妙に「深い悔悟」を表明しました。しかし、アジアについては、「戦後の日本は、先の大戦に対する痛切な反省を胸に、歩みを刻みました。自らの行いが、アジア諸国民に苦しみを与えた事実から目をそむけてはならない。これらの点についての思いは、歴代総理と全く変わるものではありません」と述べたのみで、中国や韓国が注目していた「従軍慰安婦」「侵略」「植民地支配」の「謝罪」はありませんでした。第二次世界大戦とは日米戦争だけで、満州国も日中戦争もなかったかの如くです。米下院のマイク・ホンダ議員は、抗議声明を出しました。オバマ大統領・米議会の歓迎は、「かつての敵、今日の友」が、TPP交渉妥結を明言し、「日本はいま、安保法制の充実に取り組んでいます。実現のあかつき、日本は、危機の程度に応じ、切れ目のない対応が、はるかによくできるようになります。この法整備によって、自衛隊と米軍の協力関係は強化され、日米同盟は、より一層堅固になります。それは地域の平和のため、確かな抑止力をもたらすでしょう」と集団的自衛権による日米防衛協力ガイドラインの実行を確約した点にあります。首脳会談では普天間基地の辺野古移転強行も公約しました。沖縄県知事をはじめ沖縄県民の「希望」は無視し、閣議決定も国会審議もない段階での「希望の同盟」への飛躍で、米国以外の国には、「忠犬ポチの自己陶酔」のように映っても仕方がないものです。
しかも、戦後70年の年の安倍首相の「国際公約」は、日本の国家体制そのものの重大な改変を含んでいます。日本国憲法と日米安保条約双方の、事実上の改変です。かつて日本では、9条を持つ憲法体系と日米安保条約は根本的に矛盾するものとされてきました。60年安保改定反対の国民運動があり、自衛隊は憲法違反であるとの批判に「軍隊ではない」「専守防衛」と弁明して、国会でも長く議論され、なんとか両立させてきた時代がありました。安倍内閣はそれを、集団的自衛権の閣議決定・法整備で憲法をまず改訂し、「極東における国際の平和及び安全」のためと明文化された日米安保条約を、今回のガイドラインと首相公約で「世界の平和と安定のため、これまで以上に責任を果たしていく」とグローバル化しました。かつての国会討論の焦点であった「極東の範囲」は、あっさり乗り越えられました。日本国憲法と安保条約の双方を改訂することで、世界中で活動する強力な軍隊を持ち、米軍と共に戦争ができる国になりました。サンフランシスコ講和条約、60年安保改定に匹敵する重大な進路変更で、自国の立法府で議論することなしに、米国の世界戦略に従属したかたちです。マスコミも安倍首相自身も大きく報じませんが、米国議会演説の冒頭で紹介された「私の祖父、岸信介」とは、極東国際軍事裁判の「平和に対する罪」=A級戦犯の被告でした。60年安保改定反対の国民運動のさいに、「国会周辺は騒がしいが、銀座や後楽園球場はいつも通りである。私には“声なき声”が聞こえる」とうそぶいて強行採決した政治家です。安倍首相は、当時の反対運動は「戦争にまきこまれる」と言ったが、「日米同盟こそ抑止力になって平和が保たれた」と、祖父の「名誉回復」をはかっています。国際政治学で、東西冷戦を「長い平和」と読み替えた裏読み解釈、現実拝跪・自画自賛による歴史像の修正を思わせます。あたかも沖縄の長期占領も、朝鮮戦争も、ベトナム戦争も、なかったかのように。
硫黄島参戦米兵と栗林中将遺族の列席は「歴史的和解」の演出でしょうが、実際の第二次世界大戦の傷跡は、70年たった今日でも、世界中に残っています。2013年4月からこの二年間、本サイト「情報収集センター(歴史探偵)」で消息を求めてきた旧ソ連粛清日本人犠牲者「トミカワ・ケイゾー」の身元が、「官報」を読んだ読者からの情報で、ほぼ判明しました。「情報収集センター」はいま「731部隊二木秀雄の免責と復権」の探索がトップにありますので、データベース「旧ソ 連日本人粛清犠牲者・候補者一覧」の方のトップに入れました。日本人犠牲者「トミカワ・ケイゾー 生年不明/千葉県出身/政治亡命者/極東国立大学の日本語教師/1937年逮捕/1938年4月7日銃殺」と、「本籍東京都文京区大塚窪町二十四番地二、最後の住所北樺太オハ」として「川崎市塚越三丁目三八〇岡田方申立人富川ツナ」さんから1955年に失踪届が出され、56年8月に失踪宣告が確定した「富川敬三」が、ほぼ同一人物と思われます。心当たりのある関係者の方の情報を求めます。今年度メインの「2015年の尋ね人」=「占領期右派雑誌『政界ジープ』と731部隊「二木秀雄」について情報をお寄せください! 」の方も、30年来の731部隊研究の専門家の皆様のご協力で、資料と情報が集まりつつあります。731部隊の本拠地があったハルビンでは、新たに436点の新証拠がみつかったとのことです。安倍首相が米国議会演説で回顧する冷戦時代には、もっぱら米国側資料とソ連のハバロフスク裁判資料でしか解明できなかったものが、この20年、被害者の中心である中国側の資料と証言が出てきて、二木秀雄や石川太刀雄が行った人体実験・細菌戦の実相が、ようやく否定できない国際法違反(ジェネーブ協定違反)、捕虜虐待(通例の戦争犯罪=B級戦犯)と「人道に対する罪」(C級戦犯)の事実として、明るみになってきました。南京大虐殺・従軍慰安婦問題に続いて、日本側の「謝罪」や「賠償」が国際的に問題になるのは、これからです。安倍内閣による戦争準備が進む今こそ、特に科学者・研究者は、この問題を「痛切に反省」しなければなりません。
初出:加藤哲郎の「ネチズン・カレッジ』より許可を得て転載 http://www.ff.iij4u.or.jp/~katote/Home.shtml
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔eye2977:150501〕
「ちきゅう座」に掲載された記事を転載される場合は、「ちきゅう座」からの転載であること、および著者名を必ず明記して下さい。