IS支配下モスルの住民たち(3) ―「イスラム国」との戦いは国連中心で(20)
- 2015年 6月 18日
- 評論・紹介・意見
- イスラム国坂井定雄
BBC中東版2015.06.09
モスルの実状:「イスラム国(IS)」の下で、どんな生活が(2)の続き
(4)日常生活の崩壊
市民たちの日常生活は、筆舌に尽くせないほど変わった。軍に勤めていた軍人や労働者たちは、どこにも仕事がなく、収入が断たれた。富裕な市民たちは貯金に頼り、給与生活者はなんとか生活をしているが、貧しい市民たちは神の慈悲にすがるだけだ。
ヒシャム 「わたしは仕事を失い、勉学を放棄しなければなりませんでした。他の人たちと同じように、基本的権利を奪われました。ISによれば、そのどれもがハラーム(禁止)で、わたしは自宅に座っているだけです。ピクニックなどもっとも単純な活動さえ、禁止されました。彼らの決まりでは、それらのことは時間とカネの浪費なのです」
「ISは、すべての市民たちの給与の4分の1を、市の再建のためとして取り上げます。もし拒否すれば、厳しい懲罰が待っているので、人々は拒否できません。ISはすべてのことを支配しているのです。家賃など賃借料を払わなければならず、病院はISメンバーだけが利用します」
「かれらは、モスクのイマム(教導者)を、IS支持のイマムにすげ替えました。わたしたちの多くは、モスクに行くのを止めました。わたしたちが憎んでいるISに、忠誠を誓うよう求められるからです」
(5)教化と監視
映像は、ISが市民たちを支配するため、メディアによって彼らの宣伝を拡げるなど、高度な技術を駆使しだしたことを見せている。
マハムード 「12歳になるわたしの弟は、ISが支配するようになったにもかかわらず、学校に残っていました。他に選択肢はないからで、彼は少なくとも、ある種の教育を受け続けることができ、何もしないより良いと、わたしたちは考えたからです」
「ある日、わたしは帰宅すると、弟がイスラム国の旗を描きながら、ISの有名な歌を歌っていました。わたしは逆上して、どなり続けました」
「わたしは絵を取り上げ、弟の前で裂きました。わたしは、二度とこんな絵を描かないように、彼らの歌を歌わないように、そして、そんな友達に会わないように命じました」
「わたしたちは、ただちに、彼を学校から辞めさせました。わたしたちは、ISの行う教育を受けないことを選んだのです」
「わたしは、ISの目標は暴力の種を播き、子供たちの心に憎しみと宗派主義を植え付けることだ、という結論に達しました」
(6)ISの戦術と補給
ISは、イラク軍が放棄した重火器を使うことができるとみられ、米軍などの空爆に対空兵器で反撃している。
ザイド 「ISは政府軍がモスルを取り返そうとしていることを知っており、それに備えようとしています。彼らはトンネルを掘って市内を破壊し、バリケードを築き、地雷や爆弾を設置し、町中に狙撃兵を配置しています。政府軍にとって非常に困難な任務でしょう」
「とはいえ、政府軍がモスルを中心とするニネヴェ平原を奪い返せれば、わたしはとても幸せです。そうなれば、モスルから脱出して他所に移住した市民たちや難民になった市民たちが帰ってきて、安全で統一したイラクの再建に一緒に働けます。ISは人間性への敵です」
「わたしは政府軍が全市をどのように奪還できるか、心配しています。わたしは、テクリートをTMU(人民武装軍団=親政府のシーア派民兵軍団)がISから奪還したときに行った違反行為が、ニネヴェ平原とモスルでも起こることを心配しています」
「政府は住民がこの都市を自ら防衛できるよう、住民を武装すべきです。神の助力によって、わたしたちはISを打ち倒します」(了)
(筆者注:昨年6月10日、「イスラム国(IS)」に占領されたイラク第2の都市モスルの実状は、イラクの新聞などが、おもに電話取材で伝えているが、外国メディアの報道は乏しい。イラクの現地報道で最も積極的な英BBCが、IS支配一年のモスルを、市民自身の映像と発言で報道したのが本稿だが、ここでは映像を紹介できない。発言者は、エルビルに脱出したキリスト教徒の産婦人科医以外は、スンニ派イスラム教徒と思われる。いずれも中間層の市民たちと思われ、燃料と食糧、飲料水の不足と物価高で、もっと厳しい生活に追い込まれている貧しい人々からのリポートはない。
モスルはチグリス川東岸の、歴史豊かな街。モスルを州都とするニナワ州は、古代メソポタミア文明以来の古代遺跡の宝庫だ。占領したISは、古代遺跡の一部とくに石像の破壊、盗掘をしている。モスルはまた、寛容な学術・文化都市で、さまざまな宗教・宗派の市民が生活していた。かつては人口200万人の都市だったが、米軍主導のイラク戦争とその後の内戦状態、とりわけ昨年のIS侵攻以来、ISの過酷な迫害の対象となったキリスト教徒はじめ少数宗派・民族、さらにイスラム教シーア派の住民が脱出、現在では住民が100万人を切ったと見られている)(了)
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