「小沢氏が政倫審出席の意向固める」
- 2010年 12月 28日
- 時代をみる
- 小沢政倫審出席瀬戸栄一
27日の民主党役員会は菅直人代表=首相も出席して約1時間20分にわたって開かれ、来年中下旬までに小沢一郎元代表に政治倫理審査会での説明を求め、もし小沢氏がこれを拒否し続ければ審査会開会を議決、これに従わない小沢氏に自ら出所進退を決めるよう求めそれでも党の決定に従わなければ離党を勧告する方針を決めた。支持率低迷とねじれ国会の打開策に窮する菅首相としては「脱小沢」を貫くことで世論の支持を挽回したい考えだ。
ところが小沢氏は翌28日、政治倫理審査会に出席する意向を固め、記者会見でこれを表明した。菅直人首相は一時的にせよ政権の危機から救われたかたちだ。
小沢氏はこの意向を鳩山由紀夫前首相に伝え、連合などの出席要求に答えた、と説明した。小沢氏は記者会見で「来年の通常国会の冒頭か、2011年予算案の審議入り直後に政倫審に出席し説明する決意をした」と述べ、この決意を鳩山前首相と岡田克也民主党幹事長に伝えたことを明らかにした。
一方、27日には衆参6人の小政党「たちあがれ日本」は議員総会を開き、菅首相から与謝野馨副代表(元財務相)を通じて働きかけがあった民主党との連立構想を協議、連立に前向きの与謝野氏を除く5議員が連立に異論を唱え、結局「連立拒否」の結論となった。菅首相は当初、公明党との連立・協力に期待をかけたが山口那津男代表が支持率低迷をきっかけに2011年度政府予算案に反対する方針を表明したため、当面は公明党の協力は断念せざるを得なくなった。
来年4月の統一地方選の前哨戦として26日行なわれた西東京市市議選では菅首相にとって手痛い結果が出た。現有5人の民主党は3議席しか獲得できず、惨敗した。西東京市といえば菅首相の中心的な選挙地盤である。自民党はじめ他の政党が議席を増やす中で与党民主党代表であり内閣総理大臣の菅直人氏だけが地元市議選で敗北したのである。まさに小規模ながら首都東京の一角で菅首相は民心が自分から離れつつあることを実感させられた。
▽たちあがれも連立拒否
その翌日の27日、菅首相はほとんど唯一つ期待を賭けた「たちあがれ日本」からも振られてしまった。自民党政権の末期、財務相として大胆に消費税引き上げを提唱し、当時の麻生太郎首相の無能振りを批判して離党、自分とは対極的な保守政治家である平沼赳夫氏や園田博之氏らと組んで「たちあがれ」を立党した。
立党記者会見の向かって右横には石原慎太郎東京都知事が座り、与謝野氏はかつて秘書として仕えた中曽根康弘元首相、その友人である渡辺恒雄読売新聞会長らとともに2007年、自民―民主両党による大連立構想に、石原都知事と意気投合して共鳴した仲だ。つまり、与謝野氏の背後にはねじれ国会を超越して消費税率アップや憲法改正などの大課題に取り組むべきだとする「大物たち」が控えている。
当時の大連立構想の相手は野党第一党の民主党小沢一郎代表であり、渡辺氏らは当時、大連立を仕掛けたのは小沢一郎氏のほうだったと主張した。与謝野氏はその小沢氏と囲碁仲間であることを隠さず、ごく最近もインターネットで実況中継する囲碁で小沢氏と一戦交えた仲である。
したがって与謝野氏が意気投合する相手はいまや強制起訴を待つ小沢氏であって菅首相ではなかったはずだが、ことし始めに財務相に就任した菅直人氏はたちまち財務官僚の説得と、ギリシャ危機はじめリーマン・ショック以後の国家財政危機乗り切りのためには消費増税に踏み切るしかなく、そのためには自民党とも組んで財政破綻乗り切りに邁進するしかない、との発想に取り付かれた。
▽いったん与謝野氏が受諾
その時点で菅首相と与謝野氏との間には基本的な立場の違いは消え去ったのである。もともと「市民運動」出身の菅氏には財政破綻など国家財政危機を切り盛りする素養は著しく乏しい。だからこそ、財務相から首相に駆け上がるとたちまち民主党がそれまで封印してきた消費税アップに飛びつき、有権者の猛反発を買って7月11日の参院選で大敗を喫し、ねじれ国会の現状況にぶち当たった。
そこで、少数であっても議席を持つ野党に目をつけ、その中で消費税アップに自分と同じくらいの使命感を持つ与謝野氏とは11月下旬と12月上旬に二度にわたって差しの会談をし、いったんはくどき落とした。だが27日の議員総会では党首の平沼赳夫氏から「われわれの出発点は反民主だった」と反対され、能吏型の園田氏からも強硬な反対を浴びて与謝野氏は当面の連立協議を断念せざるを得なかった。
▽小沢氏、突然の転換
前夜の西東京市議選に続いて、たちあがれ日本の連立拒否。焦りに焦る菅氏にとって残る手段は小沢一郎氏の国会招致しかない。
28日昼過ぎ、小沢氏があれほど拒否し続けた政治倫理審査会への出席に応じる意向を固めた。菅首相にとって「朗報」である。
さすがの豪腕・小沢一郎も菅首相が離党勧告の腹まで固めたのでは逃げ場がなくなる。いまは忠誠を誓っていても自分がいざ強制起訴―離党勧告となれば、小選挙区比例代表並立制の現在の選挙制度下では、仮に小沢氏が離党しても後を追って離党する側近、新人議員の数は極めて少なくなる。永田町の政治ウォッチャーの中には「小沢一人が離党する羽目になるかもしれない」との見方が出ていた。
▽証人喚問要求は無視
そうなれば、小沢氏は議員たちから距離を置かれ、もっぱら弁護士や秘書たちとともに裁判闘争に専心せざるを得ないだろう。ところが、野党が引き続き予算委での証人喚問出席を要求しても、小沢氏側は「政倫審ですべてを説明した」として、証人喚問を拒否する「大義名分」を得られる。
小沢氏にとってのリスクは、昨年8月の衆院選で新人候補多数に配布した計3―4億円の現金が、かつての新生党当時に蓄積した政党助成金(税金)の残りから支出したのではないか、との疑問について野党議員から追及された場合にどう答えるのか、という懸念であろう。(了)
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
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