2015年安保闘争が始まる、民主主義を守れ!
- 2015年 7月 15日
- 時代をみる
- 加藤哲郎安保
2015.7.15 地方出張中ですが、緊急に、抗議の更新・加筆です。安保法制が、衆院特別委で強行採決されました。暴挙です。世論の圧倒的多数は、他国で戦争をするための違憲法案に反対です。与党の支持者でも、この法案には疑問が多く、公明党支持者の過半数も反対とか。無論、憲法学者、学者の会、弁護士会、元法制局長官、元最高裁判事からも反対の声。労働組合も、学生たちも、ママたちも、全国で声をあげ、行動を始めました。安倍首相の置かれている状況は、1960年安保の祖父・岸信介の立場の再来です。60年安保の時も、「安保は重い」といわれました。さまざまな運動団体が野党と共闘してデモや集会を繰り返しましたが、国会前から全国へと爆発的に広がったのは、5月19日の衆院強行採決以後でした。「安保反対」が、「議会制民主主義を守れ」という声と、重なった時でした。
体験者が語っています。元朝日新聞記者の岩垂弘さん。「1957年に発足した岸信介・自民党内閣は日米安保条約の改定を急ぎ、両国間で調印された条約改定案(新安保条約)の承認案件を60年に国会に提出。社会党(社民党の前身)、総評(労働組合のナショナルセンター。すでに解散)、平和団体などによって結成された安保改定阻止国民会議が「改定で日本が戦争に巻き込まれる危険性が増す」と改定阻止運動を起こす。これに対し、自民党は5月19日、衆院本会議で承認案件を単独で強行採決。これを機に「議会制民主主義を守れ」という声が国民の間で急速に高まり、強行採決に抗議する大規模なデモが連日、国会周辺を埋めた。そのデモに加わった人の数は、日本ジャーナリスト会議編集の『主権者の怒り 安保斗争の記録』によれば次のようだった。
5月20日5万、同26日17万、6月4日全国で560万人が統一行動、同11日23万、同15日全国で580万人が統一行動・国会周辺に11万、同16日10万、同18日33万。33万人が国会を取り巻く中で、新安保条約は6月19日午前0時過ぎ、参院で議決を経ないまま自然承認となった。参院自民党は同20日、単独で本会議を開き、新安保関係諸法案を一挙に可決、成立させた。新安保条約はこうして国会を通ったが、岸首相は退陣せざるをえなかった。」
すでに世論調査では、安倍首相の支持率が不支持率より低くなる逆転が、各社そろってきました。安倍内閣の暴走の基盤だったアベノミクスの神通力も、弱まりました。格差拡大と非正規雇用を生み出すだけで、生活は厳しくなるばかりです。沖縄米軍基地も、原発再稼働も、国立競技場建設問題も、従軍慰安婦問題も、日中・日韓外交の困難も、根は一つです。主権者である国民をないがしろにして、自分の考えを強引に押し通そうとする、「裸の王様」の独裁です。民主主義の危機です。2015年安保闘争の始まりです。
憲法違反で言論統制に連なる戦争立法は廃案に!
2015.7.1 安保法制の憲法違反についての認識は、広がってきました。どの世論調査でも、今国会では廃案、ないしもっとじっくり討議をという声が、多数を占めています。しかし、安倍首相は強気です。国会会期を9月末まで大幅延長し、8月首相談話の国際焦点化を避けつつ、衆院の与党絶対多数の力で「逆風」を乗り切ろうとしています。7月15日までに衆院特別委で可決できれば、参院の審議が長引いても、衆院で再可決できる60日を確保できるという算段です。その強気の背後の力が、安倍首相にとっては、内閣支持率の40%台保持と、株価と日銀短観にしめされる経済政策・景気対策の「成功」です。もっとも後者も、ある投資サイトによれば、「支持率低下→海外勢の売り又は見送り→株価低迷→支持率下がるの悪循環」を生むそうで、ギリシャ以上の財政赤字と格差拡大、庶民の生活苦のもとで、「政治危機を安倍さんは自ら作っている」のだそうです。そこに、自民党若手議員の驚くべき言論統制のススメ発言が飛び出しました。 安倍首相と政治信条が近い自民党の若手議員が発足させた勉強会「文化芸術懇話会」にゲスト講師として作家の百田尚樹を呼ぶと、前NHK経営委員・百田尚樹は、政府に批判的な沖縄2紙(沖縄タイムス、琉球新報)について「二つの新聞社はつぶさないといけない」と驚くべき暴言、国会議員たちも「(政府に批判的な)マスコミを懲らしめるには、広告料収入をなくせばいい。文化人が経団連などに働きかけてほしい」と言いたい放題。つまり、反対意見を言論統制で蹴散らして、戦争への道を切り開けという、ファッショ的強行論の鉄砲玉です。
さすがに自民党本部は火消しにまわり、会の責任者の更迭、問題発言の議員に厳重注意。しかし、安倍首相は、国民にではなく、与党公明党に陳謝。もともと百田や問題議員の発言は、安倍首相の考えそのものだからです。それを見越してか、党総務会では責任者の木原青年局長の処分を「重すぎる」という声と軽減案が出て、厳重注意を受けた大西英男衆院議員は、堂々と記者団に、政府の安保関連法案を巡る報道について、「全く事実無根の戦争に導く、徴兵制(につながる)と報道している一部マスコミを懲らしめなければいけない」と再発言。むしろ、右バネというより、ファッショ的言説を特攻隊が公言して全体の雰囲気を右寄りにし、安倍首相の立ち位置を「中道」に見せる情報戦のように見えます。韓国に対する「ヘイトスピーチ」が、完全には同調しないまでも、いつの間にやら反韓・嫌韓世論を定着させてしまった、あの手法です。ですから、このファッシュ的言論統制言説も、憲法と立憲主義を守り戦争法案を廃案に追い込むうえで、ただちに「敵失」と見なすわけには行きません。それが「敵失」になるのは、国会で野党が厳しく追及し、メディアが自らの問題として沖縄のジャーナリズムに連帯して抗議し、何よりも世論が、安倍内閣支持率を40%割り、30%台の黄信号、そして「危険水域」の20%台へと追い込むことができた場合のみです。木原・大西らは、ナチスの党内武闘組織ヒトラーの「親衛隊SS」にあたるものであり、百田尚樹はハインリヒ・ヒムラーになろうとしているのです。
国会での野党のふがいなさは、もどかしい限りですが、幸い世論と市民運動のレベルでは、安保法制の憲法違反の声、廃案にせよという声が高まっています。前回よびかけた「安全保障関連法案に反対する学者の会」への賛同署名は、学者・研究者8千人近く、市民を含め2万人に達しました。昨年から続く「戦争をさせない千人委員会」の全国署名は、165万人になりました。私にとっての大きな希望は、大学生ら若者たちが、動き出したことです。国会前で、渋谷のハチ公前で、SEALDsのよびかけに数千人が応えて集まりました。東京の集会を見た関西の若者たちが、SEALDs KANSAIを立ち上げました。脱原発運動の金曜デモと同じように、野党の院外接着剤の役割も果たしています。この流れが、一回り大きくといわず数周り、数十万の動きになったとき、安倍ファシズムも、凶暴化した親衛隊をオモテに出すことは難しくなり、改めて世論の争点は、安保法案が憲法違反かどうかの正常軌道に戻ります。
昨晩まで、シベリア抑留と「2015年の尋ね人」=「占領期右派雑誌『政界ジープ』と731部隊二木秀雄」の東北地方調査で、貴重資料と証言が収集できました。その整理はこれからなので、今回更新は、このくらいにしておきます。 この間、いくつかの短文が活字になっています。島崎藤村家の遺品・資料を、日本近代文学館に収めるお手伝いをしたので、『日本近代文学館報』第265号(2015年5月)に「島崎藤村・蓊助資料の寄贈に寄せて」が掲載されました。『図書新聞』6月20日号に、松田武『対米依存の起源–アメリカのソフト・パワー戦略』(岩波現代全書)の書評を寄せています。労働運動研究所の『労働運動研究』誌総目次の単行本化刊行にあたって、「現代史史料としての『労働運動研究』誌 」という、やや長めの推薦文を寄せています。岩波書店の『歴史問題ハンドブック』には「米国の占領政策ーー検閲と宣伝」を寄稿しましたが、これは単行本で発売されたばかりですので、3か月後にアップします。加藤哲郎編集・解説『CIA日本人ファイル』全12巻に続いて、主に図書館向けの資料集『近代日本博覧会資料集成 紀元2600年記念日本万国博覧会』を編纂・解説しました。リーフレットができましたので、入れておきます。
初出:加藤哲郎の「ネチズン・カレッジ』より許可を得て転載 http://www.ff.iij4u.or.jp/~katote/Home.shtml
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔eye3042:150715〕
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