「安保法案反対」の声渦巻く -被爆70年の8・6広島を歩く-
- 2015年 8月 10日
- 時代をみる
- 原爆岩垂 弘広島
8月6日は、人類史上初めての核爆弾が米軍機から広島市に投下されてから70年。この日を中心に広島では原爆に生命を奪われた人たちに対する慰霊の行事や、核兵器廃絶を求める集会が繰り広げられた。「被爆70年」という節目の年に当たったため、全国からおびただしい人々が広島に集まり、祈りと願いと叫びをさまざまな形で表現したが、折りから、安保法案が参院で審議中とあって、至る所で「安保法案反対」の声が聞かれた。
6日に平和公園で開かれた広島市主催の平和記念式典には、強烈な夏の日差しが照りつける猛暑の炎天下、被爆者、各都道府県の遺族代表、海外代表、一般市民ら約5万5000人が参列した。昨年は約4万5000人、一昨年は約5万人(いずれも広島市発表)だったから、今年はひときわ参列者が多かったことになる。参列者は式典会場からあふれ、平和公園内を埋め尽くした。親子連れが目立った。「被爆70年」ということで、原爆犠牲者に対する慰霊の気持ちと核兵器はやめさせなくてはという思いが一層高まりをみせたということだろう。
松井一實・広島市長は平和宣言の中で、被爆者2人の言葉を紹介、そこには「憎しみ」を越えた「人類愛」と「寛容」のメッセージがあるとし、「私たちは共に生きるために、絶対悪である核兵器の廃絶を目指さなくてはなりません。そのための行動を始めるのは今です」と呼びかけた。また、オバマ米大統領の名を挙げて各国の為政者に被爆者を訪れるよう要請、「被爆者の思いを直接聴き、被爆の実相に触れてください。核兵器禁止条約を含む法的枠組みの議論を始めなければならないという確信につながるはずです」と述べた。
松井市長は、安保法案には触れなかった。自民、公明両党の推薦で当選した市長としては、そこまでは踏み込めなかったということだろう。
平和記念式典言では言及されなかったものの、反戦平和や核兵器廃絶に関するテーマを掲げた集会では、まさに「安保法案反対」一色だった。
6日開かれた日本原水協(共産党系)の「原水爆禁止世界大会・被爆70年ヒロシマデー集会」で採択された決議「広島からのよびかけ」には、こう述べられていた。
「『戦争法案』によって『抑止力』が高まると言う安倍政権の姿勢は、紛争の平和的解決へとむかう世界の流れに逆行するものです。日米軍事同盟の下、アメリカの『核の傘』に依存しつづけることは、核兵器廃絶への願いにそむくものです。『戦後70年談話』で、植民地支配と侵略戦争の歴史への反省と謝罪をあいまいにさせてはなりません。『戦争法案』を必ず廃案に追いこみましょう。憲法9条をまもり生かしましょう」
やはり6日に開かれた原水禁国民会議(旧総評系)の「被爆70周年原水爆禁止世界大会・広島大会」で採択されたヒロシマアピールには、こんな一文が盛り込まれた。
「安倍政権は、違憲の安全保障関連法制を国会での数の力で成立させ、戦争ができる国にしようとしています。現在、国会前抗議行動とともに全国から抗議の声が上がり日増しにその声は強くなっています。戦争により何が起こったのか、被爆地ヒロシマで体験した私たちは、9条を守り憲法を守り一切の戦争を否定し、二度と悲劇を繰り返されないよう訴え行動していきましょう」
市民グループが中心になってつくった「検証:被爆・敗戦70年―日米戦争責任と安倍談話を問う―」実行委員会は5日に開いた「8・6ヒロシマ平和のつどい」で「広島市民による『被爆・敗戦70年談話』」を採択した。
談話は「私たちは次のような問題のために全力で努力したいと思います」として7つの問題を挙げたが、その1つに「明らかな憲法違反である戦争法案を即時廃案にさせ、私たちの憲法を絶対に改悪させない運動を強く展開すること。同時に、嘘とごまかしで民主主義を破壊し、憲法改悪計画を推し進めている安倍内閣を一刻も早く打倒すること」を挙げた。
日本生活協同組合連合会(傘下の組合員2774万人)が5日開いた「ヒロシマ虹のひろば」には、68生協の組合員1500人が集まった。主催者あいさつに立った浅田克己会長は「被爆から70年。被爆者の平均年齢は80歳を越えた。体験を語れる方も少なくなり、被爆体験の風化が懸念される。私たちは被爆者の思いをしっかりと継承しなくてはならない」と訴えたが、最後に安保法案問題に触れ、「各種の世論調査でも、法案に反対の人が賛成の人より多い。国民の理解が進んでいるとは思えない。審議も不十分だ。こんな状況で法案が成立するとしたら遺憾なことである。平和憲法を大切にし、これからもしっかり学習活動をしてゆきたい」と述べた。
日本生協連はこれまでのところ、安保法案に対する見解を発表していない。浅田会長の発言は同法案に対する日本生協連トップによる初めての言及と言えるのではないか。
ソーシャルワーカーらによって運営されている「原爆被害者相談員の会」が開く恒例の「被爆者証言の会」が今年も6日に開かれた。今年で34回目。全国から広島へやってきた一般市民や学生に被爆者から被爆体験を語ってもらうという催しだ。
今年は、被爆者の証言の後、弁護士による講演「原爆被爆者と憲法9条~原爆症認定裁判からみえてきたもの~」があった。講演後の質疑では、参加者から「安倍首相は安保法案の成立になぜあんなに熱心なのでしょう」「日本国民は戦争であれだけ苦しい思いをしたのに、選挙になると、なぜ自民党に入れるのでしょうか」といった質問が出て、市民の間で安保法案に対する関心が高いことをうかがわせた。
極めつけは、広島の被爆者7団体が安倍首相に安保法案を「違憲立法であることは明白」として、法案の撤回を迫ったことだろう。
8月7日付の中国新聞によると、6日、平和記念式典でのあいさつを終えた安倍首相が被爆者代表から要望を聞く会(市主催)が開かれ、その席で、被爆者7団体が要望書を提出、その中で安保法案を「長年の被爆者の願いに反する最たるもの」と指摘、「憲法の範囲内」などとしている政府の主張を「詭弁」と断じ、法案の撤回を求めたという。これに対し、首相は「不戦の誓いを守り抜き、戦争を未然に防ぐものだ」とかわし、議論はかみあわなかったという。
ところで、9日長崎市で開かれた、長崎市主催の平和祈念式典では、田上富久市長が平和宣言の中で安保法案に言及して「憲法の平和の理念が、揺らいでいるのではないかという不安と懸念が広がっている」と指摘、政府と国会に慎重で真摯な審議を求めた。
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