「土と汗」か「お金」か――シリア難民に思う
- 2015年 9月 9日
- 評論・紹介・意見
- 岩田昌征
かって四半世紀前湾岸戦争があった。1991年1月クウェートを武力征服したサダム・フセインからクウェートの主権を回復するべく、国連決議の下にアメリカ軍主導の多国籍軍がイラクを攻撃した。日本は、出兵せずに、130億ドルを戦費として提供した。戦後、クウェートの感謝状の中に出兵30ヶ国の名前はあったが、金銭援助だけの日本の名前はなかった。「血と汗」は「お金」より貴い、と言うクウェートからのメッセージであった。
今日、シリア内戦で4百万人の難民が出ている。2200万国民の20%弱である。トルコ、レバノン、ヨルダン、イラク、エジプトで難民生活を強いられている。今年になって、その400万人の一部か、あるいはシリア国内避難民760万人の一部か、続々とギリシャ、マケドニア、セルビア経由でEU、特にドイツを目指して大量移動している。セルビアの首都ベオグラードでも、ホステルは金のある難民家族で満杯、金のない難民たちはベオグラード駅前やバスセンター周辺で野宿している。かって1995年8月にクロアチア内のクライナ・セルビア人共和国がクロアチア軍の総攻撃で崩壊し、20万余のセルビア人難民がセルビアへ数百キロ歩いて逃げ込んだ。そして、駅前や公園に野宿していた。それでも同じセルビア民族だ。言葉も通じるし、宗教も生活習慣も同じだし、親族もいる。今度は、シリア・アラブ人が主だ。言葉も宗教も異なる。夏が終われば、野宿も出来まい。どうするんだろう。セルビア人が余り神経質になっていないのは、自分達がEU加盟国ではなく、難民達の通過路にすぎない事を分かっているからだろう。
ここに不思議がある、シリア難民を受入れているイスラム諸国の中に湾岸諸国(バーレーン、クウェート、オマーン、カタール、サウジアラビア、アラブ首長国連邦)の名前がない。難民受入れをしないで、これら六ヶ国は、お金を出している。首長国は、ヨルダンのシリア難民施設に。サウジアラビアとカタールは、レバノン、トルコ、ヨルダンのそれらに。総額9億ドルだ、とも言う。30億ドルだ、とも言う。湾岸諸国は、世界一のお金持だ。宗教も同じだ。言葉も同じだ。それなのに何故。シリア難民を受入れているイスラム諸国は、ヨルダンを除けば、すべて共和国だ。それに対して、産油お金持湾岸諸国はすべて王制、君主制だ。シリア・アラブ共和国住民が難民としてでも大量に王制諸国家に定着してしまう事に対して、国体上の危機意識があるのかも知れない。かくして、大量に持っているドルを使う。今、ハンガリーは、「ヨーロッパをこわすな。」と難民受入れに抵抗して、成功せず、湾岸六ヶ国は、「王政をこわすな。」と難民受入れに抵抗して、成功している。そう考えられないか。
かって、「血と汗」の欠如の故にクウェートから感謝されなかった日本人としては、「血と汗」とまでは言わないが、「土と汗」ぐらいは同宗同族の難民に提供しても良いのに、と思わざるを得ない。
平成27年9月9日
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔opinion5658:150909〕
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