戦後70年の哀しさ(3) ― ネットメディアの連合戦線が焦眉の急 ―
- 2015年 11月 4日
- 評論・紹介・意見
- メディア半澤健市
《今度はインテリ陸軍二等兵の話である》
前回は元海軍士官吉田満の戦争観について書いた。今回は旧日本陸軍のインテリ兵士の言葉である。その元兵士は次のように語った。(■から■)
■先の戦争で、何百万人もの人々が天皇の名の下に殺された。・・幸い僕は生き残ったが、ひどかったのは特攻隊です。・・とにかく自爆するしかないところまでいった。そういう残酷なことをやった。僕は戦時中、そんなことを国がやるということは許せないと、本当に思っていた。それも、天皇の名の下にでしょう。
僕は・・(靖国神社に)いまだに参拝したことはない。靖国神社本殿の脇にある、あの遊就館がおかしい。あれは軍国主義礼賛の施設で、中を見てきた子供が、「日本はこの前の戦争で勝ったんだね」と言うんだな。軍国主義をあおり、礼賛する展示品を並べた博物館を、靖国神社が経営しているわけだ。そんなところに首相が参拝するのはおかしい。
東アジアの被侵略国の主張を認める前に、日本人自らの手で罪があったということを認めなければ、相手国も納得できるはずがない。
僕も79歳です。僕らがいなくなると、あの残酷な戦争の実態を知らない人ばかりになって、観念論争になっちゃうんじゃないかと心配だ。・・僕は自分の体験を語り、残しておかないといけないと思っている。日本軍というものは本当にひどいものだったんだということを、どうしても書き残しておかなきゃいかんと思っているわけですね。■
これは渡辺恒雄の言葉である。月刊誌『論座』(朝日新聞社発行、2006年2月号)で、朝日の論説主幹若宮啓文との対話において、こう語ったのである。「ナベツネ」こと渡辺恒雄氏は現在読売新聞グループ本社代表取締役会長・主筆という肩書きをもつ。
《辺野古基地建設を全面支持する読売社説》
次に『読売新聞』の社説「辺野古代執行へ 誤った県の手続きは是正せよ」(2015年10月28日)の一部を掲げる。(■から■、省略あり)
■米軍普天間飛行場の辺野古移設の実現に向け、安倍政権が不退転の決意を示したと言えよう。政府は、辺野古での埋め立て承認を代執行する手続きに入ることを閣議了解した。辺野古移設が日本全体の安全保障に関わる問題である以上、政府の代執行手続きは妥当である。都道府県への法定受託事務に関する代執行は初めてという。
翁長氏は、国と地方の争いを調停する総務省の第三者機関「国地方係争処理委員会」に審査を請求する方針だ。認められなければ、提訴する構えを見せている。
いずれにしても、政府と県の法廷闘争は避けられないだろう。
政府は、名護市の地元3区に対し、市を通さずに振興補助金を支給することを決めた。稲嶺進名護市長は移設に反対するが、3区には条件付きで容認する住民が多い。この事実は重い。本来、こうした基地周辺住民の意見や要望が尊重されるべきなのに、従来は軽視されてきた。政府が今年5月、地元3区との協議の場を設置したのは、辺野古移設を円滑に進めるための一つの環境整備として適切だろう。■
渡辺の戦争観とこの社説との落差を見よ。
と一瞬思う。しかし日本一の発行部数を誇る読売は、米軍指揮下に「国防軍」を世界展開しようとする安倍政権を全面的に支持し擁護してきた。「日米同盟」堅持が読売の一貫した立ち位置であった。それは1950年代の正力松太郎・中曽根康弘による原子力平和利用の日本導入以来の長い歴史をもつのである。
「僕は自分の体験を語り、残しておかないといけないと思っている。日本軍というものは本当にひどいものだったんだということを、どうしても書き残しておかなきゃいかんと思っているわけですね」。
この渡辺の願いは、10年ほど前の読売紙上での太平洋戦争史の長期連載と戦争責任論の提示によって達せられたかも知れない。それは社主の私的満足に過ぎなかった。読売新聞は、大政翼賛紙として「本当にひどい日本軍」を再建するのに全力を傾倒するようになったのである。
《大政翼賛紙は不要 ネット上の連合戦線を》
全国版メディアを読んだり観たりするのは「百害あって一利なし」。暴露と批判が要る。私はそう考えるようになった。
ネットメデイアの世界にも「シールズ」が要る。「シールズ的なるもの」でなければ今の苦境を突破できない。お前のいうのはイメージだけではないか。その通りである。しかしネット言説の連合戦線は焦眉の急である。これは読者諸賢も承認されるだろうと思う。(2015/11/02)
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