トップはパリ同時テロ-2015海外10大ニュース - 明るいニュースはミャンマー総選挙のみ -
- 2015年 12月 30日
- 時代をみる
- 2015伊藤力司
さまざまな大ニュースが世界を駆け巡った2015年も暮れようとしている。筆者の個人的関心を軸に、今年の海外10大ニュースを選んでみた。結果としては暗いニュースばかりで明るいニュースはミャンマー総選挙の結果のみだった。
1) パリ同時多発テロなどIS(イスラム国)のテロ激化
2) 中国で景気減速、世界経済に波紋
3)COP21首脳会議、温暖化防ぐパリ協定成立
4)イラン核問題で枠組み合意、遠心分離器の撤去進む
5)南シナ海で米中緊迫、ASEANは対応に苦慮
6)中国天津で巨大爆発など大事故頻発
7)ミャンマー総選挙、スー・チー氏政権掌握へ
8)VWの排ガス規制で不正発覚、米司法省が捜査
9)米とキューバが国交回復、断交後初の首脳会談
10)ネパール大地震で800万人被災
世界きっての観光都市パリで11月13日夜に起きた同時多発テロは、一挙に130人もの犠牲者を出した被害の大きさだけでなく、イラクとシリアに根拠地を持つイスラム過激派IS(イスラム国)が犯行声明を出したことで、世界にショックを与えた。テロ実行犯がフランスとベルギー国籍を持つイスラム教徒だったことが、移民人口の多い欧州にさらなる衝撃を与えた。オランド仏大統領はISに戦争を宣言、IS根拠地への空爆を激化、英国やドイツもフランスに呼応して爆撃作戦に参加するようになった。
これより先ロシアも9月から、シリアのアサド政権の要請に応えてシリア領内の対IS爆撃を開始した。10月31日エジプト東部シナイ半島上空でロシア旅客機が墜落、ロシア人観光客など224人が死亡した。この事件も「イスラム国シナイ半島州」を名乗るグループがインターネットを通じて犯行声明を発表、ロシア当局もテロ行為による空中爆発だったことを認めた。このほかにもレバノンやトルコでもISによる爆発事件が起き、多数の死傷者を出している。
ISはイラク戦争後のイラク国内の混乱と、4年半余も続くシリア内戦の渦中から派生したイスラム過激派の最先端集団で、欧州で不遇な立場にあるイスラム移民の2世、3世を抱き込んで現地テロを使嗾、欧米諸国をはじめ世界の秩序に挑戦している。この結果、欧州には今年シリア難民を中心とする100万人単位の難民が押し寄せた結果、フランスをはじめとする欧州諸国に移民・難民排斥を叫ぶ右翼政党が勢力を伸ばした。移民で成り立ってきたアメリカでも、イスラム教徒の入国阻止を叫ぶD・トランプ氏が共和党の大統領候補指名争いでトップに立つという事態が起きている。
過去20年来年率10%を超す高度経済成長を続けてきた中国が、ついに景気減速期に入った。習近平・李克強指導部は2015年の成長目標を7%台と指定、これまで主として外需で支えてきた中国経済を内需重視に転換する方針を示していた。にもかかわらず6月に上海証券市場で起こった株価の暴落は、世界第2の経済大国の景気減速が途上国や先進国を問わず、世界中の経済にショックを与えることを如実に示した。
地球温暖化の危険を先覚者が訴え始めて半世紀余り、12月にパリ郊外で開かれた国連気候変動枠組み条約締約国第21回会議(COP21)は最終日の12月12日、2020年以降の地球温暖化対策の新枠組「パリ協定」を採択した。歴史的合意を経て世界の気温上昇を産業革命以前から2度未満に抑えることを目指し、国際社会全体で温暖化対策に取り組むことに合意した。1997年の「京都議定書」が温暖化対策を先進工業国だけに義務化していたのに、パリ協定は発展途上国も加わったこと。さらに「京都議定書」に加わらなかった温暖化責任国第1、第2の中国と米国が京都協定に調印したことは画期的である。
2002年にイラン亡命グループが暴露した、イラン・イスラム共和国は秘かに核兵器開発を進めているとのニュースは世界を震撼させた。核兵器開発を否定するイランと国連安保理常任理事国の米英仏露中5カ国にドイツを加えた6カ国がイランに核開発を止めさせる交渉を始めた。以来10年余りの交渉の結果、イランの核開発は平和目的で核兵器開発のためではないことが国際原子力機構(IAEA)によって確認され、イランに課せられていた西側諸国からの制裁は解除される見通しとなった。中東の地政学上イランの地位が高まり、サウジアラビアやイスラエルはこの合意を進めた米オバマ政権に不満を抱いている。
1992年に中国が、東シナ海と南シナ海の大半を中国領だとする領海法を一方的に布告したことで中国と関係国の間に緊張が高まった。東シナ海では尖閣諸島の領有権をめぐる日中の紛争も未解決だが、今年とりわけ問題になったのは南シナ海の南沙諸島(スプラトリー諸島)の問題だ。中国はフィリピンが領有権を主張する岩礁を大々的に埋め立て、飛行場ができるまでに拡張した。これに反発する米国は埋め立て岩礁から12マイル近くまで海軍艦艇を航行させて中国を牽制、緊張が高まった。南沙諸島と西沙諸島(パラセル諸島)の一部はフィリピン以外にベトナム、マレーシア、ブルネイも領有権を主張しており、ASEANは中国に紛争回避の「行動規範」策定を呼びかけているが、中国は応じていない。
中国・天津市で8月12日の深夜、化学製品倉庫が大爆発を起こし死者・行方不明者160人以上、全半壊した住居が6000戸以上という大惨事となった。6月17日には湖北省の長江(揚子江)で大型客船が転覆して、死者・行方不明者442人を数えた。さらに12月20日、広東省深圳市で建設残土が崩壊して土砂崩れが発生、隣接する工業団地で70人以上が行方不明になった。中国ではこうした大事故が発生する度に人災の徹底究明が叫ばれ、末端の役人が逮捕されるが、根本原因は究明されないままで終わっている。
ミャンマーでは11月19日の総選挙で、ノーベル平和賞のアウン・サン・スー・チー氏の率いるNLD(国民民主連盟)が圧勝、上院で80%、下院で77%の議席を獲得した。軍政下で制定された現憲法では両院とも25%が軍人枠で占められているが、それを入れてもNLDの議席占有率は上院60%、下院58%となる。スー・チー氏は、軍政により通算14年10か月もの軟禁生活を強いられながらNLDの旗を守り抜いた。来年3月には1962年のクーデター以来54年ぶりに民主的に選ばれた政府が発足する。スー・チー氏は、現憲法の規定では外国人の家族を持つ同氏は大統領にはなれないが「大統領より上の存在」になると述べている。
米環境保護局(EPA)は9月18日、欧州最大の自動車メーカーのフォルクスワーゲン(VW)社が米国で販売したディーゼルエンジン車約50万台は、有毒ガス排出基準の規制を逃れる不正行為を行っていたと発表した。これは検査の時だけ排出ガスに含まれる窒素酸化物が少なくなる不正プログラムを搭載したもの。このニュースが世界中に広がる中で同社の最高経営責任者マルティン・ウィンターコール氏が辞任した。ドイツ製品は良心的に作られているという世評を根本的に裏切る一大スキャンダルとなった。
4月25日正午前(現地時間)ネパール中西部でマグニチュード7.8の大地震が発生、その後の余震も含めて8,964人が死亡、負傷者2万人以上と後日発表された。首都カトマンズでさえ建物はレンガ積みの耐震性の弱い構造のものが多いため被害は拡大、物的被害は約50億ドル(約6000億円)と推定された。国連当局は4月28日、ネパール人口の3割に当たる約800万人が被災したと発表。周辺国にも被害は及び、インド、バングラデシュ、中国チベット自治区でも死者が出た。
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