全敗した日経安値予想 ― 相場は誰にも分からないのである ―
- 2016年 1月 18日
- 時代をみる
- 半澤健市株価経済金融
日経新聞新年恒例の企業経営者20名による株価予想は、年初早々に全員が誤ったことを証明した。「誤った」のは安値の予想に関してである。20名の日経平均の高値予想の平均は23000円、安値予想の平均は18000円であった(『日本経済新聞』、2016年元旦号参照)。
予想安値の最低値は17000円で、伊藤忠商事と東京海上ホールディングスの経営トップが予想していた。他の18名は、18000円以上の安値を予想していた。大発会から1月15日まで、引値では17000円を下回っていないが、取引時間中(業界用語で「ザラバ」という)では、1月14日に17000円を割ったから、全員落第である。
メディアと金融業者は株価波乱について懸命に後講釈をしている。
中国経済の低迷、原油など資源価格の急落、欧州の難民問題、世界各地のテロ頻発、中東情勢の悪化、北朝鮮の核実験などなどだ。いずれも誤ってはいない。
本稿は、日本の第一線経営者の予想「外れ」を嘲笑うのが目的ではない。
上記の下落要因に新しい項目を追加するものでもない。そうではなく、現在起こっていることの意味を、半世紀ほどの時間のなかに、直感的かつ定性的に述べるのが狙いである。
過去50年に何が起こったのか。
第一は、圧倒的なマネー経済化である。
ブレトンウッズ体制に始まり、1971年の米ドルの金離脱に帰結した通貨管理システムは、適正通貨量の客観的な基準を失い、価格形成では変動相場制に移行した。本来は、貿易損益確定の手段としての先物取引が、目的化してカネの取引が商売になった。金融業が全産業の主要な利潤源となった。株価が下がりそうになると投資銀行や機関投資家は行き場を求めるカネを投入してIT革命バブルやサブプライム革命のバブルを創った。
第二は、グローバリゼーションの急展開である。
「万国の労働者よ団結せよ」に終わる「共産党宣言」の経済分析が、現在も有効な部分は、今日でいう「グローバリゼーション」の原初的かつ本質的な叙述の部分である。労働者は分裂したが、万国の大企業は競争しつつ団結した。彼らの資源・工場・市場は全世界に広がった。自国市場など「どうでもよい」とまでは言わぬが、二の次である。そのイデオロギーが新自由主義である。全ての規制と国境のない世界が彼らのビジネスの理想的な舞台である。
第三は、大企業による国家支配である。
世界を舞台とする巨大企業は国家権力の中枢に入り込んだ。グローバル世界といえども、個々の国民経済のもつ歴史や多様性を一挙に同質化、平準化はできない。大企業は官僚やメディアを使い自分の顔は見せない。したがって政府は表向きは自国民やその公的秩序の守護者として、すなわち「国益」のために振る舞っている。しかし安倍政権の消費増税と法人税減税をみるだけで、「国益」とは大企業の利益と同義だとわかるだろう。原発再稼働もそうである。武器禁輸三原則の廃止もそうである。他にも実例は限りない。新自由主義者が完全な自由市場を求めつつも、国家を必要とするのは彼らが国家権力を掌握して税金の使途を左右できるからである。
これだけの圧倒的な力をもちながら株式市場をなぜ制御できないのか。
上記のシステムは、不況がくるとマネーバブルでそれを克服してカネを儲け、バブルが弾けると大衆からの収奪で自己救済する行動を繰り返してきた。今度もそれをやればいいではないか。しかし年初からの株式市場の波乱はこれまでの手法が破綻しつつあることを示している。
たしかにマネー経済だ。マネーが全てを支配しているかにみえる。しかし1950年代の経済学徒たる私は、いまは絶滅危惧種たるマルクス経済学が、場面によってはなお有効と信じていて、現在起こっているのは大規模な「過剰生産恐慌」の第一ラウンドではないかとみている。その解決には、信用パニックと大きな苦痛を伴う経済規模の縮小(=生産手段の廃棄)が必要であって、そのあとには長期不況が続くであろう。
外紙によれば、ジョージ・ソロス(投資家)、ロバート・シラー(経済学者)、リチャード・フィッシャー(アトランタ連銀前総裁)が、それぞれ異なった角度から、1929年恐慌やリーマン・ショック以上の衝撃の可能性やFRBのバブル造出の実態に言及している。
私は、これまで「逃げを打つわけではないが相場は誰にも分からないのである」と言ってきた。今回も同じ言葉で、自分自身と日経予想の落第経営者を大いに激励したい。(2016/01/15)
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