北朝鮮への制裁強化だけで済むのか - 核軍縮論議で抜け落ちた観点 -
- 2016年 1月 26日
- 時代をみる
- 北朝鮮岩垂 弘
北朝鮮が1月6日に「水爆実験」を行なったことを受け、国連安全保障理事会で制裁決議の協議が続いている。安保理は、すでに北朝鮮がこれまで行った核実験に対して科してきた制裁をさらに強化する構えだが、核兵器廃絶を願う者からすると、果たしてこうした「北」への制裁強化だけでいいのだろうか、昨今の核軍縮をめぐる論議には重大な観点が抜け落ちているのではないか、と思わざるをえない。
北朝鮮が行なった「水爆実験」は、北朝鮮としては4度目の核実験。実験を受けて、国連安保理は緊急会合を開き、過去の核実験で採択した安保理決議に対する「明らかな違反」と非難する報道声明を出した。そして、新たな制裁措置を盛り込んだ新決議案をすみやかに作成することを決めた。これを受けて、米国と中国を中心に制裁決議の協議が続いているわけだが、1月22日付の朝日新聞は、そこでは今後の制裁強化策と、実効性を高めるための方策が課題になっている、と伝えている。同紙はまた、日米両国で国連制裁とは別に、より厳しい独自制裁を科す検討が進んでいる、と報じている。
北朝鮮の「水爆実験」に対する日本の世論はどうだったか。
1月8日に衆参両院で採択された「北朝鮮による4度目の核実験に対する抗議決議」は「今般の核実験は、国際社会の声を無視して強行されたものであり、度重なる核実験は、国際的な核不拡散体制に対する重大な挑戦であるばかりでなく、唯一の被爆国のわが国として断じて容認できない暴挙であり、厳重に抗議し、断固として非難する」と述べていた。
最大級の糾弾と言っていいだろう。
新聞各紙も同様の反応をみせた。
各紙は1月7日付の社説で北朝鮮の「水爆実験」を論評したが、その論調は「真相は何であれ、愚かというほかない。限られた国の資源を誤った国策にそそぎ、国際的な孤立を深めるだけの暴挙である」(朝日)、「朝鮮労働党大会を前に、新時代を切り開く強い指導者のイメージを作ろうと『水爆実験の成功』を国民に誇示したいのだろう。まったく見当違いの考えである」(毎日)、「国連安全保障理事会の数々の制裁に違反する暴挙は、断じて容認することができない」(読売)、「またしても北朝鮮が核の脅を振りかざす蛮行に及んだ。北東アジアの安全を脅かす行為で、断じて容認できない」(日経)、「許しがたい暴挙である」(産経)などといったものだった。
日本人は、広島、長崎、ビキニと3回にわたって原水爆の被害を被った。したがって、北朝鮮の今回の核実験に対しこうした糾弾の声が上がったのも当然、と言える。「核兵器の使用は人道に反する」と考えている私も、抗議したい。
それで、これからの対応だが、衆参両院の決議が、北朝鮮に対し全ての核の放棄、国際原子力機関(IAEA)の査察の受け入れ、朝鮮半島非核化への取り組みなどを要求しているのに対し、新聞各紙は、国際社会に対し北朝鮮対策を提案している。読売、日経、産経は国連による制裁強化を主張し、朝日と毎日は、日米中露と南北朝鮮による「6カ国協議」の再開を提案している。
NPTの不平等性にも言及を
ところで、衆参両院の決議や各紙の社説を読んで気になったことがあった。それは、現在の国際政治を支配している核不拡散条約(NPT)がもつ欠陥への言及が全くなかったことである。
最初に核兵器を持ったのは米国で、旧ソ連(現ロシア)、英国、フランス、中国が続いた。核兵器の拡散を恐れた各国は「これ以上核保有国を増やしてはならない」という狙いから、1970年、NPTを発効させた。現在、191カ国が加盟している。
NPTは核兵器を持ってよい国を米国、ロシア、英国、フランス、中国の五カ国に限り、その他の諸国には核兵器の保有を認めていない。いうなれば、NPTは不平等条約である。これを不満とするインド、パキスタン、イスラエルは当初から加盟していない。そればかりか、インド、パキスタンはすでに核保有国となり、イスラエルも核兵器を所有しているのではと推測されている。北朝鮮はかつて加盟国であったが、2003年に脱退、その後は度重なる核実験で世界を揺さぶり続ける。
条約の不平等性を意識してのことだろうか、条約には「各締約国は、核軍備競争の早期の停止及び核軍備の縮小に関する効果的な措置につき、並びに厳重かつ効果的な国際管理の下における全面的かつ完全な軍備縮小に関する条約について、誠実に交渉を行うことを約束する」(第6条)との規定がある。要するに、条約は、核保有国には核軍縮を行う義務がある、とうたっているのだ。
が、核保有国のサボタージュにより、「効果的な国際管理の下における全面的かつ完全な軍備縮小に関する条約について」の交渉は遅々として進まない。同条約の規定がちゃんと運用されているかを検証するためのNPT再検討会議が5年ごとに開かれており、2010年の再検討会議では「核保有国による核兵器廃絶への明確な約束」が再確認され、核軍縮交渉の進展を願う世界の人々に期待を抱かせた。
しかるに、2015年の再検討会議は最終文書を採択できないまま決裂、核軍縮交渉の進展を願う世界の人々を落胆させた。議長がまとめた最終文書案に、中東非核地帯構想についての国際会議を2016年3月1日までに開くことを国連事務総長に委ねることが盛り込まれ、「全中東諸国が招待される」と明記されていたことに、米国代表が「同意できない」と言明したからだった。中東非核化に向けた会議が開かれれば、アラブ諸国がイスラエルを非難するのは必至であるところから、米国としては、同盟国のイスラエルに配慮したとみられる。
そればかりでない。昨年3月には、プーチン・ロシア大統領がウクライナ・クリミア半島併合をめぐり、核戦力を臨戦態勢に置く可能性があったと発言し、世界に衝撃を与えた。
こうした現状から、NPT体制はすでに破綻しているとみる人は少なくない。この人たちは、不平等条約が続く限り、北朝鮮などに核放棄を迫っても説得力を欠き、核兵器を持ちたいという国が次々と現れるのでは、と懸念する。そこで、世界の核保有国が自分たち以外の国々に核兵器の放棄や開発中止を迫るためには、自らも核兵器を放棄する決意と行動を示す必要があるのではないか、と主張する。
こうした考えに立つ国々が国連に提案しているのが、「核兵器禁止条約」である。つまり、核兵器の核兵器の開発、実験、製造、備蓄、移譲、使用及び威嚇としての使用の禁止ならびにその廃絶に関する条約だ。2007年に条約案がコスタリカとマレーシアから国連に共同提案され、年々、非同盟諸国などの間に支持が広がっているが、核保有国の反対で未だに日の目をみていない。
そんな中、昨年暮れの国連総会で注目すべき決議が採択された。「核兵器廃絶の多国間交渉の前進」と題する決議で、「核兵器なき世界」実現に必要な具体的で効果的な法的手段を討議する作業部会を設置するという内容だ。核兵器禁止条約を求めるメキシコやオーストリアが主導した決議で、138カ国が賛成。反対は米国など核保有5大国を含む12カ国、棄権は日本を含む34カ国。作業部会は今年、ジュネーブで開き、国連総会に報告と勧告を行う。
このことは、国連で核兵器禁止条約の締結を望む国々が増えつつあることを示している。こうした核兵器廃絶に向けた国際的動きを、マスメディアはもっと積極的に報道してほしい。そう思わずにはいられない。
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