株式市場はバクチ場なのか - 低次元のGPIF運用論議 -
- 2016年 2月 5日
- 時代をみる
- 半澤健市年金投資
公的年金の運用を巡る議論は私に言わせると低レベルで誤認が多い。
三つのキーワード、すなわち「バクチ」、「長期投資」、「クジラ」でそのワケを述べたい。
《元財務相までがバクチ運用を批判》
公的年金という大切な資産の運用に株式投資を充てている。株式市場はバクチ場ではないか。バクチは国民の資産の運用には適切ではない。これが公的年金運用「バクチ」説である。メディアや識者もその合唱をしている。TBSの『時事放談』では二人の元財務大臣までがそう批判をしていた。
株式の流通市場がマクロとミクロの経済を反映し有力な資産運用の舞台であることは資本主義国での常識である。60年代の金融論で私は証券投資と投機の区別はつかないと学んだ。80年代以降はNTTの上場に代表される国営組織の民営化が経済政策の大きな柱となった。そういう国策を進めてきたリーダーが「株式市場はバクチ場だ」という理由が分からない。バクチ説は、証券業界とその周辺に発生するモラルハザードを、過度に強調した物言いである。民間の企業年金の運用ポートフォリオ(資産構成)には制約がない。サラリーマンの一生に関係する企業年金の公共性を考慮すればこれもおかしいことになる。バクチ論の核心は、「株式投資が優れた投資成果を得られる」か否かの問題である。GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)のサイトを見ても株式はそれを期待できるというだけで詳細な説明はない。
政府は、株式投資の成果に関する国際比較を含む検証と予測を行ない、その結果を詳しく平易に説明すべきである。以前に私は「投資対象としての株式」の適性について疑問はないと書いた。しかし現在では―少なくとも日本株式の投資成果には―疑念をもっている。その最大理由は日本経済の成長力低下とバブル崩壊以降の貧しい投資成果である。
《「長期投資だから」というのは呪文である》
年初以来の株価の急落と乱高下に関する政府の説明は「短期では大きく下げても長期的には問題ない」というに尽きる。このセリフは、株式市場において、「いつでも」「どこでも」「だれでも」が、使ってきた。私自身も、個人・法人の証券運用に関わったが、株価暴落時には顧客にそう説明した。これは説明に窮した時の「呪文」であって、何となく相手を納得させる言葉である。現に、国会で厚労大臣がそう答えると、私が上記「バクチ論」で述べたような、徹底検証を求める要求は野党から出てこない。何となく問答は結論なしに収束している。
それどころではない。安倍政権は、株価下落時には「短期的に一喜一憂しない」と言いながら、二倍以上になった株価上昇期を切り取り「アベノミクスの成功」とおのれの手柄にしている。首相の言う「長期」と「短期」の定義は何かという質問すら誰もしない。ここでも野党は「バクチ論」批判で引き下がるのである。
《池の中のクジラは動けないのである》
株式投資は最安値で買い最高値で売れば最大の成果が上がる。こんな当たり前なことがプロにもできない。株価を正確に予想することは誰にもできないのである。仮に予測が出来たとしても、資産規模が大きすぎて一挙の売買は困難である。巨大機関投資家―135兆円の公的年金はその典型である―は池の中のクジラである。池の大きさを市場の時価総額(個別企業の上場株式数にその株価を乗じたもの)と考え、資産中の日本株式をクジラと考えよう。前者は直近で約500兆円、後者は約32兆円(2015年9月末)である。
クジラが一挙に池から飛び出たり飛び込んだりすることは実務上不可能だ。株価の乱高下も大きくなる。だから公的年金の約90%が「パッシブ運用」をしているのである。「受身運用」とは、「市場指標(=ベンチマークという)と同じ動きを目指す」ことである。ベンチマークは「東証株価指数(TOPIX)」や野村総研、米投資銀行モルガン・スタンレーなどが作成する指標などを用いる。
《徹底した国民的課題とせよ》
本稿ではこの三つの論点に絞った。
年金運用は、受益者利益の為にのみ行われるべきことだ。Buy Abenomics!と叫ぶ政権のためには、絶対に行われてはならない。政権批判を急いだり、話を面白くするために、国会やメディアは、年金運用の「基本問題」と「株価下落」と「政権批判」とをゴッチャにしている。
問題を整理し政治家と専門家に任せずに国民的議論を行うこと。そこで得た共通認識を基礎に誰もが納得できる制度へ改善すること。平凡だが真っ当な対策はこれである。(2016/02/03)
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