壁は乗り越えられるだろうか
- 2016年 2月 16日
- 評論・紹介・意見
- 宮里政充普天間沖縄
普天間代替案はある
ドイツの全国紙が電子版で、翁長知事の国連人権理事会演説を紹介し、「(普天間移設問題で)妥協案は東京から出さなければならない」と国の責任を論評している。この明確な主張の意義は小さくない。論評は「辺野古移設に反対なら代替案を出せ」と理不尽な要求を突きつけてきただけの日本政府を苛立たせるだろう。日本政府の主張は思考停止しているのではないか。真に抑止力を目指すのであれば、代替案はある。海兵隊は辺野古ではなく、母港のある長崎県の佐世保に駐留した方が効率的である。長崎県議会ははやばやと安保関連法案の早期成立を求める決議をした。沖縄の海兵隊を受け入れる素地は十分にあるということではないか。私はもう一カ所移設先をイメージしている。自民党総裁安倍氏と副総裁高村氏の地元、山口県岩国基地である。総裁と副総裁は、抑止力を高めるために海兵隊基地を自分の地元に誘致し、新交付金で沖縄県民を分断しようとする工作は即刻やめるべきである。
上の文章は昨年10月2日の琉球新報「声」の欄に掲載された私の文章である。この主張は今も変わらない。が、その実現の可能性については極めて悲観的である。普天間基地の県外移設については小泉政権も鳩山民主党政権も手をつけようと試みたが、移設候補地の猛反発に会って挫折した経緯があるからだ。民主党岡田代表は昨年10月20日、翁長雄志沖縄県知事と会談した際「普天間飛行場問題の解決策については、民主党として対案がない中で無責任に辺野古移設反対とは言えない」と答えている。そして対案の模索についても「困難だ」と答えた(沖縄タイムス・10月22日)。
このように辺野古移設問題は本土の与野党、地方自治体の拒否に会って行き詰まっている。目下裁判闘争に持ち込んではいるが、今度は新たに司法権力が決定的な壁になる危険性は十分にある。
日米安全保障条約におよそ80%の日本国民が賛成し、米軍基地の必要性を認識していながら、自分の所に基地がやってくることには反対する。そしてその基地が沖縄に集中していることには無関心である。沖縄に関心を持ち、沖縄と連帯したいと思っている人たちも、米軍基地を積極的に本土に招き入れようという運動には二の足を踏む。この構図が崩れ去って新しい運動が展開される日がやってくるのを待ち望んでいていいものだろうか。
1月24日に行われた宜野湾市長選挙では自民党政権の意をくむ佐喜真淳氏が当選し、「オール沖縄」は破れた。菅官房長官は、オール沖縄は「オール」ではない旨の発言をし、島尻沖縄担当相は、翁長知事に対して選挙結果を尊重するよう要求した。ところが、投票当日の出口調査では辺野古移設反対の選挙民は57%で、その25%が佐喜真氏に投票している(沖縄タイムス・プラス)。つまり、佐喜真氏の当選は「普天間基地の固定化反対」がベースであって即「辺野古移設賛成」にはつながらないのである。その点で菅官房長官も島尻氏も選挙結果を都合のいいように解釈している。島尻氏はまた「翁長知事の仕事は辺野古移設問題がすべてではない」とも述べたが、私に言わせれば「島尻氏の仕事は辺野古移設がすべてではない」ということになる。今安倍政権は「普天間基地固定化の解決」=「辺野古移設」の一本で押し通そうとしている。今年1月30、31日に共同通信社が行った全国電話世論調査によると、辺野古移設支持が46%に達し、「支持しない」43.0%を上まわるようになった(2月1日沖縄タイムス・プラス)。
はじめに述べたように本土政権も地方自治体(日本国民と言い換えてもいい)もリベラル勢力も「辺野古移設は反対だが、普天間基地を自分の地元で引き取るのはいやだし、引き取る運動をするのもいやだ」というのが正直なところであろう。日米安全保障条約も日本国憲法もそういう姿勢の上に成り立っている。辺野古新基地建設問題は根本的にそういう本土のありようが壁になっているのだ。
ところで、山口県岩国市議会の桑原敏幸議長や沖縄県宜野湾市議会の大城政利議長らが昨年12月22日「首相官邸で菅義偉官房長官と会談し、沖縄の基地負担軽減を協議する地方議会の全国組織を立ち上げたいとの意向を示し、政府に協力を求めた。桑原氏は『沖縄の基地負担軽減は全国で考えないと前に進まない。全国協議会を立ち上げたい。米軍や自衛隊の基地がある自治体だけでなく、民間空港がある自治体なども参加してもらいたい』と趣旨を説明した。管氏は『沖縄の基地負担軽減を図るには負担をできる限り全国で分かち合う必要がある。政府としてできることは全てやる』と支援する考えを示した」という(2015年12月23日、沖縄タイムス・プラス)。しかし「辺野古移設が唯一の解決策」だとして沖縄の民意に耳を貸さない安倍政権が「政府としてできることは全てやる」と答えたにしても、沖縄県と日本政府が全面対決する裁判闘争を一時中断し、桑原氏らの協議会に全面協力する路線へ姿勢を変更するとは考えにくい。私はもちろん、協議会が全国の自治体を動かし、普天間基地がどこかの自治体へ移設されることを切望するものであるが、辺野古と裁判の現状を見ると、光明は見えてこない。
ただ、桑原氏は菅官房長官との会談の後で「翁長知事はもっと全国に基地負担軽減を呼びかけてほしい。協力する自治体はある。政府の言う『辺野古が唯一』ではない。本土の自治体でも沖縄の基地問題を真剣に考えている自治体もある」と語ったという。私も翁長知事に対して同じ要望をしたい。本土に対して遠慮することはないのだ。
私は本土の自治体とリベラル勢力に対して希望の光を見出していいのだろうか。悲観する必要はないと思っていていいのだろうか。ああ、かくあらんことを!
(2016.02.11記す)
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〔opinion5905:160216〕
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