「小沢一郎氏を強制起訴―脱小沢人事使えない菅首相」
- 2011年 2月 1日
- 時代をみる
民主党の小沢一郎元代表は1月31日、検察審査会の2度にわたる「起訴すべし」の議決を受けて東京地裁から検察官役に指定された弁護士によって土地購入をめぐる収支報告書虚偽記載容疑で強制起訴された。
資金管理団体「陸山会」の4億円の土地購入に絡み、既に起訴済みの3元秘書に小沢氏が関与した疑いによるものだ。小沢氏自身は昨年4回にわたる東京地検特捜部の事情聴取を受け、いずれも嫌疑不十分による不起訴処分となった。にもかかわらず、司法では素人の市民で構成する東京第5検察審査会が「起訴すべし」の結論を2度、下した結果である。
小沢氏は強制起訴が公表された直後、記者団に対し「何一つやましいことはない」「無実であることはおのずと明らかになる」と明言、「一刻も早く無罪判決をかちとりたい」として、強制起訴と全面的に対決する姿勢を鮮明にした。同時に引き続き「民主党の国会議員として誠心誠意取り組む」とし、党内や野党側が要求する国会での説明について「公開の法廷の場で真実を述べる。そちらを優先すべきは自ずと判断できる」と消極姿勢を改めて示した。
菅直人首相はこれに対し「起訴は大変残念だ。やはり国会で説明する必要がある。各党で相談してもらう」と年頭記者会見よりもトーンダウンした表現にとどめた。自民党など野党各党は一様に小沢氏の予算委証人喚問要求で足並みをそろえた。だが、批判の主な矛先は菅首相に向かい、政治倫理審査会にも予算委証人喚問にも応じる気配のない小沢氏への攻撃の手は、実現性の薄さゆえに弱まった気配だ。
▽攻防は司法の壁の中に
小沢氏を被告とする裁判開始は司法手続きの煩雑さから、早くて9月ごろになる見通しだ。小沢氏が無実を勝ち取ろうとする裁判での弁論が始まるのがその時期になる。その間に2011年度予算関連法案をめぐる国会攻防や4月の統一地方選が挟まり、小沢氏は無罪判決を獲得するにしても、そのスタートは秋以降となる。準備段階から公判にかけて、小沢氏が政治的影響力を再開できるのが、それだけ遅れ、少なくともその間、菅首相のいう「二重権力」は司法の枠内に留め置かれて小沢氏の政治力は弱まらざるを得ない。
半面、人事そのほかでカンフル剤として菅首相がフルに利用できた「脱小沢」路線もまた、行政の司法非介入という大義名分の壁に阻まれて菅政権発足直後のような効力は期待薄となる。これまで人事や政策で「脱小沢」色を出しさえすれば菅内閣支持率は多かれ少なかれ反転上昇してきた。
その小沢氏が被告となり、検事役の弁護士との攻防に専念している間は、判決が出るまで、菅首相の側から口出しや手出しはできない。
▽脱小沢と無関係なミス続出
国会内で小沢氏を守る勢力は昨年9月に菅対小沢で民主党代表の座を争った結果、国会議員に関する限り菅206に対し小沢200とほぼ互角である。
その後、数ヶ月、菅首相がいくつもの政治的功績を挙げ続けていればともかく、小沢氏との党内抗争とは無関係な分野で菅首相は国民的支持を増やしたケースは少なく、昨年末ごろから菅支持は急落続きで、ようやく小沢氏側に失点があれば、低落が微増に転じる程度となった。
小沢支持グループは昨年9月の代表選当時と比べれば数は減ったものの、中核部分の結束は固い。菅首相が自分のチョンボで支持を減らすたびに小沢支持の数は目減りしない。
それどころか、最近では米大手の格付け会社が日本の国債の評価を一段、落とした際に、菅首相は格付け問題に関しては不得意とも取れる一言―「疎い」―を発して、翌日の株式市場にマイナスの影響を与えた。内閣の大黒柱を自認していた仙石由人前官房長官は「自衛隊はある種の暴力装置」などとギスギスした元左翼風の失言をし、野党提出の問責決議を可決され辞任に追い込まれた。
後任官房長官に仙石氏仕込みの枝野幸男氏を据えたところ、わずか半年前に民主党幹事長として参院選敗北を導いた責任をまだ取っていない、と党内外から批判の火の手を浴びる結果を招いている。
▽冷え込む脱小沢の効果
つまり「脱小沢」はもはや打出の小槌ではなくなったのである。そして、小沢氏への強制起訴は、昨年10月ごろに東京第5検察審査会が2度目の「起訴すべし」議決を出して既に一種の既成事実化しており、1月31日にようやく公表されてももはや小沢「けしからん」の国会内外の感情は冷え込みつつあった。
容疑である「小沢氏関与」の疑惑の根拠は、昨年の初めごろ元秘書の石川衆院議員が逮捕された直後に思わず(?)発した供述(小沢氏の了解を得て4億円の支払い報告の時期をずらせたとの趣旨)と、一部ゼネコンから計1億円の提供を受けた容疑、の二点である。保釈後、石川氏はこの二点を強く否定し、起訴された際にもその否定を変えていない。逆に取り調べに当たった検事がこの供述を繰り返せば保釈時期が早まるとの圧力をかけた声の録音テープを石川氏側が保管している、との反撃材料をほのめかしている。
▽検察審査会見直しをも示唆
さらに小沢氏は検察のプロである東京地検特捜部の検事の事情聴取に計4回にわたり長時間の事情聴取に応じたうえ、自宅を含む関係数箇所の家宅捜索を強制的に受けた結果「不起訴処分」を下されたと繰り返している。その不起訴を素人の市民が未公開の場で点検し「起訴すべし」との議決を下したことの矛盾を再三、口にしている。
裁判にあたり小沢氏を弁護するのは厚生労働省の村木局長の無罪判決を勝ち取った弘中弁護士である。同弁護士は「裁判が終われば検察審査会そのものの制度見直しにつながるかもしれない」と早くも無罪判決に自信を示す。
▽小沢グループの造反で国会不調に
菅首相、岡田克也幹事長らが懸念するのは、判決前に小沢氏に対し国会招致に応じないことへの民主党としての処分を決めた場合、小沢氏グループから強い反発が出て、衆院で再可決に必要な与党3分の2の議席が絶望的になることだ。
現時点ですら3分の2を割っているのに、小沢グループから20―30人の反対者が出れば、多くの法案が再可決不能状態に陥る。そして与党が過半数を奪われている参院の最高実力者である輿石東・議員会長が、ぶれない親小沢の立場を固めていることも大きなネックである。(了)
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
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