書評 星紀市編「写真集 米軍基地を返還させた砂川闘争」
- 2011年 2月 6日
- 評論・紹介・意見
- 伊達判決塩川喜信砂川闘争写真集
「写真集 砂川闘争」(ヤマス文房発行、2,500円)が刊行された。編者の星紀市さんは島田清作さんなどと共に、「砂川を記録する会」で永年活動を続けられ、1996年に「写真集 砂川闘争の記録」(ケヤキ出版)、2002年にDVD[砂川の暑い日]、2005年に「砂川闘争50年 それぞれの思い」(ケヤキ出版)、など砂川闘争に関する記録を様々な形で出版されてきた方である。「写真集 砂川闘争の記録」が版元でも品切れになったため、また後で述べる「伊達判決を生かす会」の活動や沖縄での反基地闘争にとっても貴重な資料になりうるとのことで今回の出版となったと思われる。
1955年から57年にかけて戦われた砂川闘争は、地元の農民を中心に、労働者、学生、知識人、そして社会党、共産党など多くの戦線が統一して闘い、遂に米軍基地拡張を中止させたという、全国の反基地闘争の中でも、画期的な闘いだった。かっての米軍立川基地は、現在一部に自衛隊が駐屯するものの、昭和記念公園や広域防災拠点に姿を変え、朝鮮戦争当時は米兵であふれていた立川駅周辺は、多摩地域の商業拠点として大きく発展している。本書が「米軍基地を返還させた砂川闘争」とのタイトルを持つゆえんである。
本書は5部からなる構成を持っている。
第1部は、「砂川と基地」と題し、1921年(大正10)、陸軍の飛行場として土地買収が行われて以来、敗戦によって米軍の立川飛行場となり、朝鮮戦争を契機に基地拡張が検討され、砂川闘争へと続いてゆく経過と写真が掲載されている。
第2部は、「基地拡張と反対同盟の結成」。1955年の基地拡張計画に対し、砂川町の宮崎町長をはじめ、町ぐるみの反対運動が形成され、支援の輪も広がってゆく。
第3部は、「1955年最初の激突」。農民・支援の労働者と武装警官隊の激突が9月13・14に起こり、行動隊長青木市五郎さんの「土地に杭は打たれても、心に杭は打たれない」という叫びが、その後の闘いの合い言葉となった。
第4部「1956年10月 流血の砂川」。この年から、全学連が支援の闘いに加わった。砂川闘争のピークとなった闘いで、10月13日の衝突では、警官の警棒による暴行で多数の負傷者が出た。
14日の新聞は一斉にこの暴力による測量強行を非難、政府は測量中止に追い込まれた。
第2部から第4部は、民家の屋根すれすれに飛ぶ米軍輸送機、デモ隊と警官隊の対峙と衝突など当時の写真が多数掲載され、闘いの広がりと盛り上がりを示す貴重な資料となっている。
第5部「1957年以降」。 1957年6月から7月にかけて、基地内に所有していた青木市五郎さんの農地を強制収用しようとした政府に対し、労働者・学生は測量阻止のため基地のフェンスを倒して基地内に入り、2ヶ月後に23人が逮捕、うち7人が日米安保条約・行政協定にもとづく刑事特別法違反で起訴されるという事態が生じた。この裁判で、東京地方裁判所の伊達秋雄裁判長は、1959年3月30日、米軍の駐留を認めた安保条約は憲法第9条に違反するといういわゆる「伊達判決」を下し、被告全員を無罪とした。この際、当時の駐日米国大使マッカーサーが、外務大臣や最高裁長官と密談し、跳躍上告を勧めるなどの干渉を行ったことを示す公電などを、国際問題研究者新原昭治さんが米国国立公文書館で2008年に発見し、一部メディアで報道された。これをきっかけに当時被告だった土屋源太郎さんや坂田茂さんを中心に「伊達判決を生かす会」が結成され、外務省や検察庁に情報開示を請求、一部は開示された。新原さんが発見したマッカーサー大使から米国務省宛の公電、また外務省が開示した文書の一部は、本書145ページに掲載されている。
砂川闘争はその後も続く。今回の写真集には、1996年の写真集には掲載されなかった1960年代後半、ベトナム戦争反対闘争当時のフィルムが、早稲田大学カメラルポルタージュ研究会から多数提供され、また50年代の写真も新たに補充されている。
1969年米軍は立川基地拡張計画中止を発表、立川基地での飛行を停止し、77年基地を全面返還した。そして今は冒頭で述べたように公園その他となっている。
砂川闘争は、私が東京都学連執行委員になった直後に、21歳で参加した闘争であった。この写真集を眺めながら、感慨深いものがある。本書の末尾には、当時この闘いに参加した人たちの回想が、短い文章ではあるが掲載されている。また柘植洋三さんのベトナム戦争当時からの反戦塹壕などの闘いが簡潔に要約されている。
この写真集をなるべく多くの人々、特に若い世代に見てもらって、当時の闘いへと向かう素晴らしいエネルギー、基地全面返還に到る長い闘いの軌跡を感じていただけたら、そして日米安保条約とは何なのかを改めて考えていただけたらと思う。
なお、版元の連絡先は下記の通り。
「ヤマス文房」 190-0013 立川市富士見町5-6-15 YAMASUアパートメント1F
Tel 042-524-3268
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
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