改悪「盗聴法」の裏事情
- 2016年 6月 12日
- 時代をみる
- 『改悪「盗聴法」その危険な仕組み』盗聴法足立昌勝
盗聴法改悪、司法取引の導入、取調べのほんの少しの可視化を義務付ける刑訴法改悪法案が、5月24日、衆議院本会議で可決され、成立した。1998年の盗聴法の制定にときには多くのマスコミも批判的記事を書いていたが、今回の改悪では、大手マスコミは、政党紙である「しんぶん赤旗」を除いて、新聞・テレビを問わず、ほとんど報道することはなかった。それが、現代社会の実相である。
今回の刑訴法改悪は、捜査の名による警察支配の貫徹を容易にするものであり、昨年成立した憲法違反の戦争法を裏で支え、国民を、社会を戦争へと駆り立てる役割を担うものである。
今回の成立は非常に残念であり、断固として弾劾しなければならないが、我々は、もう少しの闘いで成立を阻止することができたのであった。
5月19日、参議院法務委員会は、刑訴法改悪法案を可決した。その伏線は、12日のヘイトスピーチ対策法案の法務委員会での可決にあった。
昨年の通常国会で、衆議院法務委員会は、66時間58分の審議の末、一部を修正して可決した。それを受けた参議院法務委員会には、民主党が、刑訴法改悪法案が継続する以前に、ヘイトスピーチ規制法案を提出した。ここに、ヘイトスピーチ法案と刑訴法案との絡みが生じ、この絡みの解消なくして刑訴法案の審議は実現されることはなくなったのである。
今年の通常国会での成立は困難との見方を、マスコミ各紙は伝えていた。それは、法務省の分析であろう。もしこの国会で参議院を通過しなければ、刑訴法案は、廃案の運命であった。これは、今年の参議院の特殊性に関連している。今年は選挙の年であり、半数の構成員が変わることになる。その場合、会期の終了と同時に、参議院で継続審議とされた法案は廃案となったのである。
日弁連執行部や連合指導部を巻き込んだ刑訴法案を断念するわけにはいかなくなった与党は、ヘイトスピーチのみを規制する理念法の検討に着手し、まず、4月4日に自民党案を、5日には自公案とし、8日に参議院に提出した。同日、自民党と民主党の国会対策委員長会談で、両方のヘイトスピーチ法案についての修正協議を行うことで合意し、法務委員会での審議を行うこととした。
これらの絡みの中で、両法案は次のような審議が行われた。
3月22日ヘイト法案(野党)参考人意見陳述、4月5日ヘイト法案(野党案)審議、4月14日刑訴法案審議、19日午前ヘイト法案(自公案)審議、午後刑訴法案参考人、26日午前刑訴法案参考人、午後ヘイト法案(自公案)審議、28日午前刑訴法案参考人、午後刑訴法案審議、5月10日刑訴法案審議、12日ヘイト法案採決・刑訴法案審議、19日刑訴法案採決
このようにして行われた刑訴法案の審議時間は、27時間40分であった。
両法案の絡みとその処理について、自民党の西田昌司筆頭理事と民進党の有田芳生理事がYouTubeで懇談し、次のように述べている。
有田:さきに来た野党のヘイト法案を審議し、そのうちに与党からヘイトスピーチに特化した法案が出て、先入れしたものを先に出す。それが全会一致で可決されたから、次にやらなければならないのは刑訴法です。
西田:刑事訴訟法改正案は衆議院でかなり時間がかかり、参議院に送られたのがかなり遅れてしまった。それと、その前に野党側の議員立法が審議されてしまったので、こんがらがってしまったので、それを整理した。私が有田先生に話したのは、整理しましょうということ。刑訴法も議論しなければならない。刑訴法は衆議院で民進党も(修正のうえ賛成し)通ってきているわけだから、刑訴法については最初からなにもなかった。
この二人の発言は、全く事実と異なっている。すでに述べたように、法務委員会では、刑訴法案とヘイト法案が絡みつつ審議されていた。また、昨年の参議院本会議での趣旨説明に対する代表質問で、小川敏夫議員は、反対の立場からしつこく質問し、再質問どころか、再々質問を行った。また、法務委員会での質疑においても、小川議員とともに質問に立った真山勇一議員も反対の立場からの質疑を展開していた。
参議院は参議院の立場から議論するのが筋であって、衆議院で賛成したから参議院でも賛成しなければならないというのは、「参議院無用論」につながる危険な発想である。
参考人の意見陳述を含めた、参議院法務委員会での質疑時間は、衆議院のそれと比較し、たったの41.3パーセントにすぎない。このような少ない時間で、基本的人権に大きくかかわり、捜査の基本構造を大きく変革させる恐れのある法案を、「刑訴法案の採決は5月19日がギリギリの日程だったのです。そこで処理しておかないと国民生活に深く影響する残りの法案は今国会で処理できなくなります。しかもあえていえば民進党(当時は民主党)は衆議院で賛成しています。法案内容の評価とは別に、この立場は変わっていないのです。」(有田芳生「フェイスブック」5月28日より)という理由で可決させたことは、絶対に許されるものではない。これについては、後世の歴史が正しく評価するであろう。
(今回改悪された「盗聴法」の諸問題の解明は、拙著『改悪「盗聴法」その危険な仕組み』
社会評論社刊で詳細に行っています。なお、同書の刊行を記念して講演会が6月16日18時より早稲田の日本キリスト教団で開催されます。詳細はちきゅう座の催し物案内の6月8日付記事を参照してください)
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
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