Brexit(続)
- 2016年 7月 1日
- 交流の広場
- kimura-m熊王信之
英国のEU離脱を巡って、この国では、労働者層等の非知識階層が、極右政党等の虚偽宣伝を真に受けた非合理的選択であり、投票後には、後悔が始まるであろう等と嘲笑する人が多数のようです。 従って、私等は、英国人では無いものの、同じく無学の労働者層に分類されることに為り、自身の社会階層分類を噛みしめている次第です。
しかしながら、改めて、英国議会内の各政党構成を云々するまでも無く、極右政党等は、この国とは違い、社会的に大した影響力も無く、議会内で、時の首相に国民投票を迫ったのは、与野党を問わずの議員でした。 キャメロン首相は、その勢いに負け自身の思惑では、勝ちに出た賭けに負けた訳です。
残留派は、米国オバマ大統領まで動員した脅迫紛いの金銭勘定づくで、英国民にEU残留を迫りました。
世界からの経済的脅迫を受けた中で、経済制裁紛いの国際的懲罰を受けるかも知れない恐れを知りながら、それでも、英国民自身が、離脱を選んだことは、重く、厳然とした事実です。
でも、それ程、英国民の選択は、非合理的でしょうか。 私には、離脱こそが合理的、と思われるのです。 経済的にも、です。
少数ですが、この国の経済学者にもそう判断される方が居られます。 野口悠紀雄氏です。
氏は、安倍政権のアベノミクスの根幹である日銀の金融緩和を「財政ファイナンス」と切って捨てられた方ですが、時の政権の思惑も顧みずに、学問的に真実を語ることにおいては、余人を持って代え難い方、と畏敬の念で著書を拝読しております。
野口悠紀雄氏:インフレ目標2%は達成不可能 You-Tube
https://www.youtube.com/watch?v=2D34Z7pbiks
氏は、論稿の始めに以下のとおりにこの国の一般常識に異を唱えられます。
?「多くの論調は、ヨーロッパ統合を目指すEUの理念は絶対的に正しく、また単一市場が経済的に望ましいとしている。
?だから、「イギリスの行動は自国中心主義、孤立主義であり、ヨーロッパにとっても世界経済にとっても望ましくない」という結論になる。
?しかし、以下に見るように、統合がつねに正しいという考えには、再考の余地がある。」
その結論は、この国のEU賛歌に疑問符が付くものです。
「今回のイギリス離脱の最大のポイントは、「EUという組織に重大な疑問がつきつけられた」ということなのだ。
?イギリス離脱に触発されて、スウェーデンとデンマークが続くのではないかと言われる。さらに、イタリア、フランス、オランダでも、国民投票を求める声が出ている。
?EU離脱は、イギリスという特殊な一国に限定された問題ではないのである。」
イギリスのEU離脱は経済的に合理的な選択だ 野口悠紀雄 [早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問] DIAMOND ONLINE
http://diamond.jp/articles/-/93901
更に、先に、私が持ち出した、英連邦の存在価値を高く評価される方も居られるのです。
EUのような高度に組織化された緻密な官僚制に基礎を置いた中央集権的機構では無く、緩やかな自主的国際組織としての英連邦の存在価値は、今後とも、高まりこそすれ減じることは無いでしょう。
英EU離脱で「英連邦」が超巨大経済圏として出現する 上久保誠人 [立命館大学政策科学部教授、立命館大学地域情報研究所所長] DIAMOND ONLINE
http://diamond.jp/articles/-/93364
今回のBrexit。 私の得意分野の戦史に例えると、第二次大戦時の「英国の戦い」(Battle of Britain)に例えられるかも知れません。
ダンケルクの海岸から辛うじて退却し得た英軍が、英本土上陸作戦前の航空決戦で、ドイツ空軍を迎え撃った際には、冷静に彼我の空軍機の消耗が均衡を破った際に勝敗が明らかになる、と計算し、始めてドイツ空軍の来襲が無い日を迎える、と英空軍の静かな勝利が基地で待機中のパイロット達にも自得されるのでした。
その昔、その決戦時の日々の戦闘詳報を記録した大部の書籍を紐解きながら、彼等には、勝利の確信があったのかも知れない、とふと思ったのでした。 この国の特攻隊とは全く正反対の、科学的計算に依る戦いの様相を感じたからでした。
(平成28年6月30日記)
「ちきゅう座」に掲載された記事を転載される場合は、「ちきゅう座」からの転載であること、および著者名を必ず明記して下さい。