『青葉の森へ(三)』(短歌ハーモニー合同歌集)が出来上がりました
- 2016年 8月 14日
- カルチャー
- 内野光子・歌人
今年2016年1月に短歌ハーモニー歌会は150回目を迎えました。2002年に千葉市女性センター(現、男女共同参画センター)の短歌講座の修了者によって立ち上げられた歌会でした。2006年に合同歌集『青葉の森へ』を、2011年には『青葉の森へ(二)』を刊行しました。今回は11人の参加となりました。メンバーは少しづつ入れ替わりましたが、当初からの会員たちからは励まされる思いでした。青葉の森公園に近い千葉市ハーモニープラザを会場に、毎月第三木曜日の午後のひとときを過ごしています。各自近作から50首 の選歌、タイトルや小題、構成をどうするのか、イラストを自作にするのか選ぶのか、表紙の色や注文の部数まで、皆さん、迷いながらも楽しそうでした。取り まとめと印刷所との交渉などてきぱきと進めてくださる会員たちのおかげで完成しました。近隣の図書館にも寄贈させていただきますので、手にとってご覧いた だければさいわいです。 歌集の一部を紹介したいと思います。
秋元京子「野の花咲く道」
「この道」を唄いながら野の花を握りしめた車椅子の母
人も去り彫刻の森は眠りにつきオレンジの灯をやさしくつつむ
少年は口唇かみしめ弟を背負い焼場に直立不動(原爆写真展)
大堀静江「酔芙蓉」
白昼夢はほたるぶくろに蛍入れランタンとなし里山歩く
米寿なる恩師の元に集いたるわれらも傘寿共に祝わん
七〇年時代がもどる空気あり孫子の代に残さるゝは何
岡村儔子「篠懸の実」
波しずか海光照らす東京湾小さくフェリー止まりいるごと
街路灯あかりの中を舞うごとく初雪はらはら路面に消える
旅客機は夕日を浴びて一線を上昇しつつ光を放つ
加藤海ミヨ子「ナンジャモンジャの木」
純白のこの花ナンジャヒトバタゴ今年も咲いた青葉の森に
ただ一人歩み始めた老いの坂なだらかなれと願いて進む
苦しさを投げ出したくなる悲しみも齢と共に薄れゆくなり
鈴木佐和子「生きる」
考えて考えて出す我が一歩すべらぬように転ばぬように
ふと見上ぐリハビリの窓に冬の空清らに澄みてしばし安らぐ
咲きだした水仙一つ墓に置くもしやもしかに思い出せばと
鈴木美恵「蘇る鐘」
気がつけばバスから手を振る幼子に吾も思わず振りこたえたり
瑠璃色の弁天沼に映し出す紅き櫨の木秋を集める
湖に浮かぶ小島の教会に蘇る鐘ひとつ撞いたり
竹形三枝「悲喜こもごも」
家を出た子の捨てゆきし本の中に世の中を見る鋭さを知る
ノートルダムの震災のミサに与りて復興を願いあれから五年
老いて子に従いますと住みなれし町をはなれゆく友の手つめたく
藤村栄美子「羽ばたけ 未来へ」
公園や移動の時も駆け回るショパンのワルツの子犬のように
(姉八歳二カ月、妹六歳7カ月)
静けさを引き裂いて飛ぶ戦闘機防災訓練に参加するはなぜ
(二〇一三・九・一)
国会を大包囲してヒューマンチェーンを結んだ手の温かきこと
(秘密保護法反対)(二〇一四・一・二四)
美多賀鼻千世「シンフォニー」
ピストルの合図と共の湧き上がる子らの歓声風に乗せられ
初場所の土俵の取り組み下に見る光る背中に赤みが増して
足元のすらりと伸びた若いひと薄色のスカートひるがえして
渡辺洋子「時巡り」
指折りに帰る日数え暮らす日々思えば寒い日本の冬よ
二つ三つ蕪の頭に青葉出てキッチンの隅にも小さき息吹きは
観覧車すがたを消して時巡り山の木芽吹き日ごと色増す
内野光子「焼け跡のダリヤ」
寝たきりの犬の身を返せば手のひらに触るる骨のかたち寂しむ
したたかに咲き継ぎたりしポンポンダリヤ焼け跡耕す畑の隅に
マンションの廊下の灯り列なせり三月十一日など忘れたかのように
なお、『青葉の森へ』の第一集、第二集については、以下の記事がありますので合わせてごらんください。
第一集について
http://dmituko.cocolog-nifty.com/tankahanonikasyuudekiagarimasita.pdf
第二集について
http://dmituko.cocolog-nifty.com/utino/2011/10/2-bde0.html
初出:「内野光子のブログ」2016.08.12より許可を得て転載
http://dmituko.cocolog-nifty.com/utino/2016/06/post-167c.html
記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔culture0309:160814]
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