「インターネット時代のネットワーク型革命」に、 世界と日本の若者は、どのように応える?
- 2011年 2月 17日
- 時代をみる
- インターネット時代の地球市民革命の可能性エジプト革命ソーシャル・ネットワーク加藤哲郎
2011.2.15 この間毎週金曜日の夜は、寝不足でした。日本の新聞、テレビは相変わらず相撲の八百長や永田町政治中心で頼りにならず、CNN TV及びネット上のアルジャジーラのライブ放送で、エジプト情勢ウォッチングです。1月25日から2月11日ムバラク退陣までのエジプト革命、皆さんはどう受け止められたでしょうか? 私流には、前回予測した21世紀型情報戦、「インターネット時代の地球市民革命」の端緒です。冷戦崩壊・共産主義凋落をもたらした「テレビ時代のフォーラム・円卓会議型革命」のヴァージョン・アップであり、ソーシャル・ネットワーク型です。もちろんまだ始まったばかりで、エジプトの権力は軍に委ねられた状態です。エジプトの若者たちが渇望した自由、貧しい人々の方を向いた政治が実現できるかどうかは、なお不透明です。背後にアメリカとイスラエルがあり、ムスリム同胞団の態度も不分明です。ましてやチュニジアの「ジャスミン革命」から始まりエジプト革命を実現した波が、中東の「民主化ドミノ」を引き起こすか否かは、まだまだ不確実です。
インターネット上には、Facebook6億人突破やGoogle地域幹部ワエル・ゴニムさんの果たした役割についての情報が溢れています。イタリアでは買春疑惑のベルルスコーニ首相退陣を求める100万人のデモに早速応用されましたが、今回は「モーニングスター」という投資サイトの2月4日号に掲載された、中国における地殻変動についての記事を紹介しておきましょう。小見出しに「1億2500万人の『つぶやき』と検閲の限界」とあります。
2010年は中国にとって草の根レベルで言論の自由化が進んだ年だった。最近、中国の友人や研究者が異口同音に話すのを聞いて驚いた。中国と言えば、共産党政府によるメディアや一般大衆の言論・情報統制があまりに有名だ。まして、2010年は民主活動家である劉暁波氏のノーベル平和賞受賞をめぐり、いっそう政府による国内外での自由・民主化を求める動きに対する締め付けが厳しくなったとの印象が強い。
しかし、地殻変動が起こっていたのは、インターネットの空間においてだった。ネットの世界でも中国政府はGFW(グレート・ファイアーウォール・オブ・チャイナ)と呼ばれる強力な検閲システムを構築し、人々の目に触れさせたくないような国内外のサイトへの接続を遮断するほか、コンテンツや書き込みへの監視の目を光らせている。しかし、ここにきてマイクロブログ(中国語で「微博」)がGFWの壁を乗り越える形で台頭し、社会的に大きな影響力を持ち始めた。
マイクロブログとは200文字足らずの短い文章を投稿する簡易版のブログで、ツイッターなどが知られる。ツイッターがGFWでブロックされている中国では、国産の「新浪微博」がおよそ70%と断突のシェアを持ち、ユーザー数は1億2500万人に及ぶ。マイクロブログも当然、政府の規制対象だが、現状では瞬時に寄せられる膨大な量の「つぶやき」に政府の監視が追いついていない。投稿された内容はマイクロブログの「リツイート」機能やコピーによる他ブログへの張り付けなどによって短時間で広範囲に拡散する。マイクロブログのタイムライン上に「つぶやき」が流れた状態が7秒続くと、もはや政府の統制は及ばなくなるという。政府の監視能力に限界がみえるなか、現在の中国では検閲下で有力メディアが伝えなかった「事実」がマイクロブログを通じて伝わり、民衆の問題意識、権利意識を触発している。
ちょうどエジプト革命の進行する2月6-11日、同じアフリカのダカールでは、世界社会フォーラム(WSF)の大会が開かれていました。ATTAC Japanなど常連参加者の皆さんの参加記が、すでに出始めています。日本のマスコミは全く無視しましたが、ボリビアのモラレス大統領も参加し、 「チュニジアとエジプトの民衆蜂起を支持する。変革の兆しだ」と5万人がデモをしたそうです。アフリカや中東の若者たちは、新時代の情報戦の武器を手にして、新しい社会変革のあり方を切り開いています。もちろんそれだけ、社会の構造的問題、貧困・失業・格差、差別・抑圧の厳しさがあります。自由と共に、正義や公正といった価値が、若者たちを行動に駆り立ています。インターネットや携帯電話、フェイスブックやツイッターは、それらの表現手段であり、ツールに過ぎません。それでもそのツールが、若者に希望を与えられない権力に対しては、強力な武器になったのです。階級・階層や人種・民族、宗教や文化の問題が、消えたわけではありません。表現形態とツールの有効性が、歴史的に変化してきたのです。世界社会フォーラムの年次大会自体は、世界の社会運動の祝祭、出会いの場としての意味を、以前より弱めているようです。しかし、21世紀初頭に反グローバリゼーション、イラク戦争反対の地球的連帯のなかから生まれた、「もうひとつの世界は可能だ」「多様な運動体によるひとつの運動」「多様なネットワークによるひとつのネットワーク」「差異の解放」「対等の連鎖」「生命系デモクラシー」等の理念と思想は、チュニジアにもエジプトにも、貫かれているようです。
こんな世界史の転換点のなかで、日本政治の貧困は深刻です。昨年の尖閣問題が尾を引いているなかで、菅首相の「北方領土」問題でのロシアへの「許し難い暴挙」発言。国内向けの受けを狙ったのでしょうが、ソフトパワーとしての外交では、交渉以前に相手側の窓口を閉ざす、歴史的に拙劣な「暴言」です。そのうえ国会運営では行き詰まって、性懲りもなく社民党に秋波を送り、沖縄の普天間基地移設問題関連経費の予算案計上見送りを口に出す無責任。それなら日米合意そのものを再検討すべきなのに、そんな基本政策見直しの勇気も力もなく、たんなる国会対策の方便です。内閣支持率20%割れも、むべなるかなです。ここでも大手マスコミよりも、沖縄ジャーナリズムの奮闘が目立ちます。エジプト革命に日本でいち早く声をあげたのは、琉球新報2月1日社説「逆ピラミッドの民主化を」でした。2月13日付けで、鳩山前首相に普天間問題の反省を迫り、「抑止力は方便だった」という本音を引き出したのも、琉球新報、沖縄タイムスの地元紙インタビューでした。池田香代子さんのブログで教えられましたが、琉球新報ワシントン特派員与那嶺路代さんの「ワシントン便り」には、いわゆるジャパン・ロビーとは異なる、アメリカ政官学界指導者たちの辺野古移転問題についての率直な意見「普天間は一刻も早く閉鎖しなければならない」が出ています。日本の若者たちのなかに、こうした弱者の声に敏感で、行動参加をよびかける流れが生まれ広がった時、世界の「多様なネットワークによるひとつのネットワーク」に、追いつき加わることができるでしょう。
この間、ゾルゲ事件研究のファイルが増えてきたので、本カレッジ「情報学研究室」カリキュラムに、情報学研究<専門課程2ーー世界史のなかのゾルゲ事件> を追加。名古屋方面の方には、上海東亜同文書院ゆかりの愛知大学で、2月22-23日開かれる愛知大学国際問題研究所ワークショップ「アジア主義・イスラミズム・インターナショナリズムの再検証」をご紹介しておきます。日本女子大学臼杵陽教授の「アジア主義再検証ーー大川周明を中心に」と共に、私は「インターナショナリズム再検証ーー上海のゾルゲ・尾崎秀実を中心に」を報告します。フェイスブックに再登録して、そのソフトパワーに驚き使い始めましたが、ハード面での最近の感激は、ScanSnapというデジタル情報整理機。もともと名刺管理用に買って時間をとれずにいたのですが、電子ブック作成の新兵器として使えるというので使い始めたら、手元の資料や論文のpdf化に驚くべき威力、その簡便さとスピードにすっかりはまり、旧い論文も、次々とpdf にできました。その出来映えチェックも兼ねて、前回アップしたゾルゲ事件2010年墓前祭の講演記録「新発掘資料から見たゾルゲ事件の実相」(日露歴史研究センター『ゾルゲ事件関係外国語文献翻訳集』第28号、2011年1月)に続き、日本経済評論社の新著、加藤哲郎・丹野清人編「21世紀への挑戦 7 民主主義・平和・地球政治」序論「情報戦の時代とソフト・パワーの政治」の草稿段階での講演記録、「アメリカニズムと情報戦」(『葦牙』第36号、2010年7月)を新規アップ。菅孝行・加藤哲郎・太田昌国・由井格「鼎談 佐野碩ーー一左翼演劇人の軌跡と遺訓(上)(下)」(『情況』2010年8・9月、10月)も、あっという間にpdfになりました。
「加藤哲郎のネチズンカレッジ」から許可を得て転載 http://www.ff.iij4u.or.jp/~katote/Home.shtml
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
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