「豊かな国」で起きた民衆デモ 米国が憂慮するバーレーン情勢
- 2011年 2月 20日
- 時代をみる
- バーレン情勢浅川 修史
エジプトはアラブの盟主であり、政治、文化、流行の発信基地である。そのエジプト「革命」がアラブ世界に波及することは当然である。アルジェリア、リビア、イエメン、バーレーンなどで民衆蜂起が起きている。リビアでは40年も続くカダフィ独裁政権が崩壊の危機を迎えている。カダフィ大佐は世界の左翼・リベラル派の間で人気があるが、実態は決してほめられたものではない。連合王国の経済誌「ジ・エコノミスト」誌2011年2月3日号にアラブ主要国の民主化度、腐敗度、報道自由度のランキングが掲載されている。
このランキングによると、リビアはそれぞれの項目でワースト3に入っている。つまり民主化されておらず、腐敗しており、報道の自由がない国である。
すでに軍隊とデモ隊との衝突で多数の死者が出ているリビア情勢の行方が注目されるは当然のことだが、筆者が注目するのはバーレーンの情勢だ。バーレーン情勢について、米国政府は「非常な懸念」を表明している。米国はエジプトの政権移行を支持する楽観的な声明を出したことと比べると非常に対照的な態度である。クリントン国務長官は「綱渡り」という用語すら使っている。
バーレーンはペルシャ湾(別名アラビア海)に浮かぶ人口111万人の小さな島国である。バーレーンはドバイ、カタールに次ぐ中東のビジネスセンターとして発展している。だが、GDPの規模は日本の鳥取県と同規模だという。
この小国の行方をなぜ米国が憂慮するのか。その一つにバーレーンの地政学的重要性がある。バーレンは北のイランと南のサウジアラビアという地域大国の挟まれた位置にある。戦略的に非常に重要な位置にある。サウジアラビアとは全長25㎞の海上橋でつながっている。バーレーンはサウジアラビアと同じくスンニ派イスラム教の王国である。国内にシーア派住民を抱えて、潜在的な対立があることでも共通している。バーレーンで「革命」が起こり、バーレーンのハリーファ王家が倒れることになると、サウド王家にも波及することが想定される。このためサウジアラビアはバーレーンに軍隊を派遣する可能性があることを表明している。
バーレーンに米海軍第5艦隊の司令部があることも、米国の危機感を高める理由になっている。第5艦隊はアラビア海を担当する。司令部と母港はバーレーンの首都マナーマにある。バーレンのとなり、カタールに駐留する米国中央軍(陸海&海兵隊統合軍)の傘下に第5艦隊はある。 サウジアラビアにあった兵力と基地を撤去した米国にとって、バーレーンとカタールは中東の主要な軍事拠点になっている。もし、イラン核開発をめぐり、米国がイランを攻撃する事態になれば、バーレーンとカタールが出撃基地になることは容易に想像される。
バーレーンはアラブ世界の中ではまともな国だと筆者は考える。先ほどリビアに関して紹介した「ジ・エコノミスト」誌による民主化度、腐敗度、報道自由度ランキングでは、バーレーンは民主化度、報道自由度では他のアラブ諸国レベルの低さだが、リビアよりはずっとましである。腐敗度はカタール、UAEに次いで小さい国として扱われている。
バーレーンは2002年に立憲君主制に移行した。憲法と議会を持つ国である。ひとり当たりGDPは2万7068ドルと高いレベルにある。バーレーンでは所得税などは無税である。
アラブ諸国ではまともに見えるバーレーンでなぜ民衆デモが起きたのか。最大の要因は、王家など統治階級が属するスンニ派とシーア派の対立である。バーレーンはドバイと同じく海外から多数の出稼ぎを受け入れている国である。人口111万人のうち、もともとの住民は50万人ほど。そのうちシーア派が70%を占めている。シーア派住民が多い理由はイランのサファヴィー朝に統治された歴史があるからだ。バーレーンの宗教、文化はイランに大きな影響を受けている。イラン保守派はバーレーンを「イランの14番目の州」と呼ぶ。
ところが多数派のシーア派だが、医療、福祉、公共投資などで差別されてきたと考えている。この不満が今回の民衆デモにつながった。早速バーレーン政府は、一家族当たり2650ドル支給すると発表して、民衆の懐柔に動いている。
アラビア半島の東海岸は歴史的にイランの影響を受けてきたことから、シーア派住民が多い。バーレーンだけでなく、ドバイ、サウジアラビア東海岸部などシーア派住民が多い。
サウジアラビアにはシーア派住民が15%いる。サウド王家は飴と鞭で抑え込んできた。バーレーンの王家が倒れると、サウジアラビアにその影響が波及する可能性がある。イランに再びペルシャ湾岸で「シーア派世界革命」の野心を抱かせるかもしれない。
米国がバーレーン情勢に他のアラブ諸国にはない危機感を感じている。
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
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