2011年の選択ー「日米同盟」か、東アジア平和共同体か
- 2011年 2月 20日
- 評論・紹介・意見
- 「日米同盟」伊藤成彦東アジア平和共同体
1.「日米同盟」にのめり込む菅政権
2011年、21世紀の11年目に入ったが、今年は新年早々からキナ臭い報道が多い。今日、1月7日の朝日新聞夕刊一面に、「米、核爆撃機新開発へ」という4段抜きの見出しがゴシック活字で立っている。ワシントンで6日に、ゲーツ米国防長官が核兵器を搭載できる新型の長距離爆撃機開発に国防費を重点的に投入する方針を明らかにした」というニュースだ。これは「敵空域に深く侵攻できる核搭載可能な長距離爆撃機」で、「遠隔操作可能な無人機を検討していることを明らかにし、レーダーに捕捉されにくいステルス性能を備えるとみられる」という。この新型爆撃機の開発構想はブッシュ前政権時代に浮上したが、「財政難の中でいったん、実際の計画としては先送りになっていた」ものだという。
ブッシュ前政権時代に比べていっそう財政難にあえいでいる筈のオバマ政権が、これほど高価な兵器の開発に踏み切る背景には、「空軍・海軍力やミサイル攻撃能力を増加させている中国の動き」への意識があるだろう、とこの記事を書いた記者は推測している。
「核兵器のない世界をめざす」と宣言してノーベル平和賞を受賞したオバマ大統領が、なぜアジアの平和を脅かす、こういう危険な兵器の開発を認めるのか、と誰しも考える。実際この記事には「〈核なき世界〉逆行も」というサブ見出しが立っているが、記者によれば、「オバマ政権は昨年4月に出した今後10年間の核政策の指針『核戦略見直し』(NPR) で、核弾頭の長距離運搬手段として爆撃機や大陸間弾道ミサイルなどの能力を〈維持・発展させる〉との方針を示していた」という。これで、「核なき世界をめざす」という政策を掲げて登場したオバマ大統領が、早くも軍産複合体の支配下に置かれていることがわかる。
朝日新聞1面のもう1つの記事は、「日米、共通戦略を見直し」という3段見出しの記事だ。この問題はマスメディア各紙に掲載されているが、朝日新聞の報道によれば、6日にワシントンで前原誠司外相とクリントン米国務長官が会談して、「中国の海洋進出や北朝鮮情勢など安全保障環境の変化を受け、次回の外相・防衛担当閣僚会合(2プラス2)で2005年策定の『共通戦略目標』を見直すことで合意した」という。それは「菅直人首相が今春訪米し、オバマ大統領と発表する共同声明に盛り込みたい」からだという。こうしてここにも「中国の海洋進出や北朝鮮情勢など」が出てくる。それを口実にして2005年策定の『共通戦略目標』を見直し、「菅・オバマ共同声明」の中身にするのだという。
では、2005年策定の『共通戦略目標』とは如何なる内容のものか。記者によれば、その概略は、「台湾海峡問題の平和的解決や北朝鮮に関連する諸懸案の平和的解決などの目標を明記」したものだったという。つまり、ブッシュ政権はイラクとアフガニスタンで戦争をしていたためにアジアでの軍事行動を避けたのか、紛争の平和的解決を『共通戦略目標』としていた。それを見直すということは、「平和的ではなく」、つまり紛争に対して軍事的に対応することを『共通戦略目標』とするということではないか。そのために、中国や北朝鮮が頻繁に引き合いに出される。そしてこうした「物騒な『共通戦略目標』」を「菅・オバマ共同声明」で固めようということではないか。毎日新聞によれば「物騒なこと」は他にもある。その1つは沖縄の米軍基地だ。前原外相は米軍普天間飛行場の移設問題について、「昨年5月の日米合意通り、同県名護市辺野古へ移設を進める方針に変更がないことを表明」し、第2に、「環太平洋パートナーシップ協定(TPP)や貿易自由化などの促進」を約束したという。
「菅・オバマ共同声明」の主内容となる『共通戦略目標』はアジアの平和にとってキナ臭いものであり、名護市辺野古への基地新設と「環太平洋パートナーシップ協定」は国内に強い反対論があり、特に沖縄の普天間基地の無条件撤去と辺野古への基地新設反対は、沖縄県知事選挙で「民意」が明確に示されている。
それにもかかわらず菅政権は、国民の意向を無視して日米同盟にのめり込んで行こうと
しているのだ。
2.マスメディアも「日米同盟」一辺倒で漂流
このように日本国民多数の意向を無視し、遠い米国に追随してアジア近隣諸国との友好関係に配慮しない菅政権の方向が、国民生活に破滅をもたらすことは明らかだ。それにもかかわらず、菅直人が「支持率1パーセントになっても首相は辞めない」と豪語していられるのは何故か。
菅直人は小泉純一郎に似て、米国の庇護があれば世界の他の国々との関係もすべて巧く行くと能天気に考えているようだが、小泉純一郎は郵政民営化を美化して選挙に大勝するポピュリズムを身につけていたが、菅直人にその才能はなく、余りにも自分に都合のよい目先の利益を追い求めるので、人望も支持もない。そうであるだけにますます米国政府に縋って「日米同盟」にのめり込むが、菅直人が縋る米国は小泉純一郎が頼ったブッシュ時代とは違って、帝国の終末期を迎えつつある。
そうした中で、菅政権が国内で第1に頼っているのは財界だ。菅内閣が新年に掲げた法人税の減税と消費税の増税をワンセットにした「税制改革」も、前原外相が米国で約束した「環太平洋パートナーシップ協定(TPP)や貿易自由化などの促進」も、昨年末に発表した「新防衛大綱」での「基盤的防衛力構想」から「動的防衛力構想」への転換と、中国に近い日本の南西部での空・海軍事力の増強もすべて財界と米国の意向に従ったものだ。
しかし、こうした「平地に波瀾を呼ぶ」ような軍拡政策は、当然相手国を刺激して緊張を高める。そうした財界と米国の意を受けた政府の緊張激化政策を批判して、緊張緩和と平和創造への道を指し示す役割を負っているのがメディアであるべきなのだが、現在のマスメディアは「中国・北朝鮮が日本を脅かす」という情報を一方的に流して「日本国粋主義」を煽り、米国・財界・菅政権の三位一体化を支えている。
例えばここに2本の論文がある。その1つは朝日新聞1月5日号に掲載された若宮啓文(本社コラムニスト)の「漂流する日本丸」と題した論文で「ボーダーを超える発想を」という注文がついている。文章の冒頭で、「日本丸はいま漂流中。さてどこへ向かうのか考える一助にと、東へ西へ朝日新聞の社機で日本列島の両端を飛んでみた」という。「日本列島の両端」とは、北の歯舞群島と南の東シナ海と与那国島だ。北では「北方領土」問題に触れて、「政府は何をしてきたのか」という根室市長の怒りを伝え、「国境を超えるボーダーレス交流が当たり前のこの時代、帰らぬ島は〈外国〉ではないゆえに普通の往来も交易も許されない。皮肉な現実が地元を沈滞させると市長は嘆く」と伝える。
一方、南の東シナ海では中国が「春暁」と呼ぶ白樺ガス田の作業現場と尖閣諸島を見下ろして「ビデオに映った巡視船への衝突シーン」を思い出しながら記者の中国像を描く。「国内総生産(CDP)で日本を抜く経済力。ルールを逸したナショナリズム」「はるか北へ地図をたどれば、東シナ海は北朝鮮の砲撃で緊張した黄海につながるが、北の核は日本にも脅威である。ロシアへの不信。中国や北朝鮮への不安。最後の頼りになるのは日米同盟ではあるが、普天間基地の移設問題で沖縄の波は高い」
一体これがプロの新聞記者の文章か、と呆れるほどに支離滅裂な文章だ。「漂流する日本丸」と題された論説だが、この記者自身が漂流している。「最後の頼りになるのは日米同盟ではあるが、普天間基地の移設問題で沖縄の波は高い」とはどういうことか。「普天間基地の移設問題で沖縄の波は高い」と感じるのは、辺野古に移設しようとするからで、普天間基地の移設先が日本になければ、グアムでもハワイでも米本土にでも移転すればよいではないか。「最後の頼りになるのは日米同盟」だと言うのであれば、米国に任せればよいではないか。
3.『朝日』も『毎日』も「日米同盟」依存で中国敵視
もう1つの論文は、1月3日に毎日新聞に掲載された「外交軸定め漂流止めよ」と題した社説だ。この論文も現在の日本を漂流中と見て、次のように始まる。
「21世紀の最初の10年が終わり、国際社会の政治・経済構造が大きく変化する中で新たな年を迎えた。冷戦後の世界で〈唯一の超大国〉として振る舞ってきた米国は力の陰りを見せ始め、代わって中国を筆頭とする新興の国々が大きな発言力と影響力を持つようになった。経済のグローバル化も進み、国情の違いを超えて相互依存関係がますます深まっている。日本が国土の安全を確保し、経済の低迷から脱して国民生活の安定を維持して行けるようにするには、何よりも国際社会の中で孤立せず、変化に的確に対応していくことが肝要である」
ここまでの冒頭部は間然するところのない文章だ。ところが「中国を国際協調路線に」という小見出しがついた部分から、論調が変わる。「日中両国は歴史的にも深いつながりがある一衣帯水の隣国同士だ。08年の日中共同声明は、両国が〈アジア太平洋地域及び世界の平和、安定、発展に対し大きな影響力を有し、厳粛な責任を負っている〉とうたった。世界に対する日中の責任を明記した点で画期的なものだったが、尖閣諸島沖の漁船衝突事件はその理想と現実の間にまだ大きな乖離があることをみせつけた。中国は自己主張を強めている。急速な経済成長と軍事力の増強を背景に自信を深めているのだろう。だが、その自信ぶりは周辺国には〈力まかせ外交〉に見える。漁船衝突事件で日本に見せた強硬姿勢はその一例にすぎない」
こうしてこの論文もまた、中国を「急速な経済成長と軍事力の増強を背景に自信を深めている」自信過剰で尊大な国になったと見て、「漁船衝突事件で日本に見せた強硬姿勢はその一例にすぎない」と断定する。この論文の筆者もまた尖閣諸島を「日本固有の領土」と一方的に主張する菅政権の立場に同調して、1978年10月の日中平和友好条約の批准書交換に来日した登 小兵副首相と福田首相との間で「尖閣諸島の領有問題は当面棚上げにして取扱いを次の世代に委ねる」という約束を無視している。その上で、「昨年暮れ、6年ぶりに改定した日本の『防衛計画の大綱』も中国を〈地域・国際社会の懸念事項〉と明記した」と「基盤的防衛力構想」から「動的防衛力構想」への転換を行った新防衛計画の大綱を支持しているが、このような日本の軍拡政策が中国の軍拡を誘っているとも言えるので、メディアはアジアの平和創造の立場から、このような軍拡競争の悪循環を抑える役割を果たすべきだ。ところがこの論説は、「日米同盟の意義を語れ」という小見出しをつけて、「日本は憲法の規定で軍事力には制約がある。そうである以上、日本の安全保障の足らざる部分を米国に頼らざるをえない。日米同盟はそのためのものである」と、この社説もまた具体的な検証をすることなく日米同盟依存で結んでいる。
このようにかつて憲法9条を擁してアジアの平和創造の立場に立っていた朝日新聞も毎日新聞も、尖閣諸島を「日本固有の領土」として中国政府を弾劾する国粋主義の立場から中国を敵視し、日米同盟に依存する精神分裂を起こして菅政権同様に漂流している。
4.「日米同盟」を日米平和友好条約に代えて東北アジア平和共同体へ
ここで根本的に問うべきことは、菅政権もマスメディアも、なぜ中国、韓国、朝鮮など近隣のアジアの国と真の友好関係を作らずに、遠い米国に安全保障を求めるのか、ということだ。2009年8月の総選挙で民主党は、マニフェストの外交欄に、「緊密で対等な日米関係を築く」という公約と、「東アジア共同体の構築をめざし、アジア外交を強化する」という公約を掲げていた。アジアに位置する日本国の政党としては至極当然な政策である筈だが、ようやく米国追随から自立し、アジア共同体に目を向けたかとそれが新鮮に感じられて政権交代につながったと見ることが出来る。鳩山由紀夫前首相は確かにこの公約を実現できずに退陣したが、しかし公約は鳩山由紀夫前首相個人の私的な公約ではなく、民主党の党としての公約だから、政権を継承した菅首相も当然この公約を誠実に実行すべきだ。しかし、菅政権の現実の政策は、ここまでに具体的に述べてきたように、公約とは正反対の米国追随で、しかもその実態は自民党政権にも増して、「恥も外聞もない」ものだ。従って、菅政権がこの道を進み続けるならば、民主党を信頼して支持した有権者に対する大きな裏切りで、民主党員全員が個々に責任をもって菅内閣への賛否を示すべき時であろう。
その上で真摯に検討すべきことは、国会審議を通った条約の裏付けのない「日米同盟」が果して日本の安全を保障し、アジアの平和創造に寄与できるかどうかということだ。
すでに紙幅も尽きたので、私の考えを端的に述べれば、現在の「日米同盟」は1951年に占領米軍の居座り用として一方的に強制された「日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約」の延長で、民主党が公約に掲げたような日米対等とは程遠いものだ。しかも東アジア平和共同体を作る時にアジアに軍事同盟を持ち込むことは共同体創造の趣旨に反するので、日米安保条約も「日米同盟」も廃して、日米平和友好条約に代えて真の日米友好を目指し、同時に全朝鮮民族に対する植民地支配を完全に清算して日韓、日朝とも平和友好条約を結んで先ず東北アジア平和共同体の形成をめざすことではないか。これこそが2011年の日本の選択であるべきだと私は思う。
*「マスコミ市民」2011年2月号
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
〔opinion0346:110220〕
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