上村達男氏のNHKガバナンス論の真贋~赤旗編集局への書簡(3/7)
- 2016年 10月 16日
- 時代をみる
- 醍醐聡
2016年10月16日
上村氏は議事録に残る会合でどのように発言したか
~美馬のゆり氏の発言を参考にして~
上村氏は経営委員退任後、籾井会長の言動を批判する発言を行っていますが、会長任免権を持つ経営委員在任中はどうだったでしょうか?
上村氏は、経営委員在任中の自らの言動の対外的発信方法について、「経営委員会に広報機能がない」と記しています(同上論文、p.91)が、そんなことはありません。「放送法」で作成と公表が義務付けられた「経営委員会議事録」は強力な広報機能を果たすものです。
現に、上村氏と在任期間が重なった美馬のゆり委員は定例の経営委員会で、たとえ1人ででも、誰に対してでも、しばしば堂々と持論を述べ、質すべきことを質しました(この節の末尾の【参考2】をご覧ください)。
その美馬委員は、今年の5月14にNHK函館放送局で開かれた「視聴者のみなさまと語る会 in 函館」に出席し、まとめの発言の中で次のように述べています。
「経営委員会は、第2、第4火曜日に開かれていますが、経営委員会で議論されたことは、資料とともに議事録という形で、かなり詳しく公表されています。本日の参加者の中にも、議事録をお読みになっている方がいらっしゃいましたが、議事録は毎回、次の経営委員会で承認され、その週の金曜日に公開されています。経営委員会の中で、私たちがどのような発言をして、執行部をどのように監視監督しているか、ということについて、興味のある方がいらっしゃいましたら、ぜひ議事録をお読みいただきたいと思います。
本日のご意見の中で『議事録の中に「今後考えます」「善処します」と書かれていても、その後、どうなっているのかがわからない』という貴重なご指摘がありました。
この点については、私自身もとても深く感じるところであり、毎回、膨大な量の、いろいろな議論がある中で、執行部からの回答を待つだけではなく、経営委員会としても積極的に、『どうなったのか』 『どのようにしていくのか』ということを確認していかなければならないと思います。」
(「視聴者のみなさまと語る会in函館、2016年5月14日、開催報告より)
こうした美馬委員の発言は、視聴者目線に立った貴重な意見と思えます。
では、上村氏は議事録に残る経営委員会の場で籾井会長の言動について、どのような発言をしてきたでしょうか?
籾井氏が会長就任会見の場で問題発言を連発してから最初の経営委員会(2014年1月28日開催。ここではNHK理事が入室後の会合)で籾井発言が取り上げられました。
冒頭、浜田委員長(当時)が「議論が複数ある事項について個人的見解を述べたことは、公共放送のトップとしての立場を軽んじたものであると言わざるを得ません」などと苦言を呈し、「放送法の趣旨にのっとり、覚悟を持って運営の手腕を発揮し、職務を遂行していただくことを強く希望します」と発言、それに続いて、室伏委員、美馬委員が籾井氏を諫める発言をしました。
さらに、小野副会長も「きのうまでに視聴者から3,300件の反響があり、きょうの午前中は1時間に500件を超える反響」があったことを紹介したうえで、「ある意味深刻な状態になっていると認識している」旨、発言しました。
しかし、この経営委員会に出席していた上村氏は議事録を見る限り、無言です。
上のやりとりの中で、美馬経営委員は、次のように発言しています。
「(美馬委員)きょう会長から先日の就任会見の際のご発言に対してご説明いただきましたが、今後具体的にどのようにして事態の収拾を図ろうとされているのでしょうか。個人的に、あるいは執行部の皆さんと相談して対応されることになると思いますが、具体的なアクションについてのお考えや計画をお聞かせください。」
この発言を受けて、美馬委員は次回、2014年2月12日に開かれた経営委員会で次のように発言しています。
「(美馬委員)会長にお聞きしたいと思います。きょう承認いただいた前回の経営委員会の議事録の中にある、私の質問についてです。今起こっている事態の収拾をどのようになさっていくお考えなのか、具体的なアクションについて質問させていただいたところ、放送法にのっとり職責を粛々と実行していきたいというお答えをいただきました。その後2週間の間にいろいろな動きがあったと思います。私自身は、これは組織における危機的事態だと認識しています。会長として、このクライシスマネジメントをどのような体制で行うのか、そしてその計画はどうなっているのかについてお伺いしたいと思います。欠陥商品あるいは不祥事などが生じた際、発生発覚後の対応によっては組織の信頼が失墜することがあるように、今回のことは、公共放送機関としてのNHKの存亡にかかわる事態に発展する可能性もあると考えます。そこで、具体的な今後の対策や組織体制等を教えていただければと思います。」
こうした美馬委員の質問に対し、籾井会長は自分の真意とはほど遠い報道がされた、ぜひ会見の議事録を通読してほしい、と応答しました。そこで美馬委員はすかさず、次のように問い返しています。
「(美馬委員)もう十分読みました。」
「(籾井会長)それでもなおかつ私は大変な失言をしたのでしょうか。」
「(美馬)その場での発言がどうだったかということを言っているのではなく、その後発生した今起きている事態に対して、組織としてどのように対応していくのかについてお尋ねしたのです。私は経営委員として、NHKがこれまでの信頼を回復して、ぜひとも世界に誇る公共放送機関として存続していただきたいと考えています。私もそこにかかわっていることから、組織としてどうしていくのかについてお聞きしたわけです。」
しかし、この場面でも、上村氏は無言のままでした。
その後、上村氏はいくつかの場面(理事の担務の変更をめぐる籾井氏の独断的決定など)で籾井氏を批判した例があったことは確かです。しかし、籾井氏の言動が最も先鋭に問われた上記の経営委員会で他の数名の委員が籾井氏を厳しく質す発言をした中で、上村氏が沈黙し続けた事実は重要です。上村氏は、経営委員退任後、マスコミにたびたび登場して籾井会長批判を展開するのなら、なぜ経営委員在任中のシリアスな場面で籾井氏を厳しく質す発言をしなかったのか、その当事者責任が問われて当然です。
———————————————–
【参考1】2014年4月22日開催、経営委員会でのやりとり
「(籾井会長)石田専務理事は、過去2年間放送総局長を担当している際に偏向放送など、いろいろなことを経験し、今度は番組の考査業務統括を担当していただき、コンプライアンスも統括していただきます。」
「(美馬委員)いま会長は、『石田専務理事はこれまで偏向放送の中で放送総局長としてやってきた』というように発言なさいました。会長は偏向放送があったとお考えなのですか。」
「(籾井会長)偏向放送があったと言われている、そういう経験も持っておられるということであり、偏向放送があったと申し上げているわけではありません。
考査は、制作から放送までをつかさどっている人が、一番ポイントがわかるわけです。偏向というのは必ずしも政治的な偏向だけではないです。いろいろな物の見方というのを、もう少し正していこう、放送法にのっとって、公正・公平をきちんと守れるようにするという意味で、非常に重要なポストです。」
「(長谷川委員)今のご発言について意見がございます。我々は、この1月以来、メディアがいろいろな意見を言い、その意見が現実にいろいろ経営に関することに響いてくるということを体験してきました。ですから、偏向放送という意見があったとき、誰がそれを言っているのだという反論は、余り成り立たないのです。偏向放送という印象を持つ人間がいた場合、それにどう対処していくのか、最後は会長のおっしゃるとおり、放送法にのっとって本当にこのとおり公正に事実に基づいて事実をねじ曲げないで放送していますということを言っていくほかないのです。」
「(上村代行)それはそうです。私は人事の分担表の説明のときに、偏向放送を経験したということを理由にされたから、それはどうですかという意味です。」
「(長谷川委員)「それは、会長がご説明になったとおりでしょう。私はこう理解しました。偏向放送だという批判は非常に厳しくあり、国会でも意見があったわけです。そういう場を経験した人なら、どうすれば一般の視聴者にも偏向放送というレッテルを張られないで、誰の目に見ても公正・公平な番組とわかるような番組がつくれるかがきちんとできる、と理解しましたが、籾井会長、間違っていますか。」
「(籾井会長)間違っていないです。」
「(長谷川)現実に偏向放送問題という出来事はあったわけです。」
【参考2】美馬のゆり氏の発言録
「(美馬委員)本日、会長におうかがいしたかったのですが、ご欠席ということでしたので、1点お伝えいただければと思います。4月1日の入局式で新人に対して、放送法をよく読むべきであるけれども、会長を辞めさせるための手続については読まなくてもよい、どうでもよいというようにおっしゃったことの真意をおうかがいしようと思っておりました。というのは、放送法の第52条で経営委員会は会長を任命して、第55条は罷免することができるということが書かれていますけれども、これは経営委員としてとても重要な役割だと認識しています。そのため、私としては、読まなくてもいいという発言は、入局式という新人に対してお話をする場で、経営委員会の役割を軽視しているとも思われる発言というように思えました。新人に対してなぜこのようなときにおっしゃったのかということをおうかがいしたかったのです。もし、これが冗談とするならば、その発言の持つ大きな影響をきちんと意識していただきたいと思いますので、お伝えいただければと思います。」
(2014年4月8日開催、経営委員会議録)
「(美馬委員)今回、「クローズアップ現代」の報道に関する調査報告書が出て、処分が明らかになったわけですが、今回、新しい理事の方にその担当であった方がいらっしゃいます。先ほどの理事のご挨拶では、このことについては一切触れられていませんでした。今このような報告を受けた上で、改めてお考えがあればお聞かせください。・・・・・」
(2015年4月28日開催 経営委員会議事録)
(以下、次回に続く)
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://chikyuza.net/
〔eye3705:161016〕
「ちきゅう座」に掲載された記事を転載される場合は、「ちきゅう座」からの転載であること、および著者名を必ず明記して下さい。