(メール転送です)原賠法の見直し + 若干の私見
- 2016年 10月 18日
- 評論・紹介・意見
- 堀江鉄雄田中一郎
以下はメール転送です。
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Subject:原賠法の見直し
堀江鉄雄です。重複ご容赦ください。転送・利用可
原子力損害賠償法(原賠法)の見直しがされています。この見直しは、実際に実施、適用されている原子力損害賠償・廃炉支援機構法(支援機構法)と共に、東電の損害賠償から具体的な問題点を整理するべきだと思います。
福島震災事故は、東電の想定していた地震動及び津波への対応策が不十分であったため、想定を超えた原子力災害になってしまいました。その損害と損失は、当初より東電の資産をはるかに上回るものでした。
東電は、「想定外の津波が原因」だとし原賠法3条但し書きの免責条項(異常に巨大な天災地変)を主張して、「損害賠償責任」を回避するつもりでした。しかし、損害賠償責任は回避できても損害と損失は、東電を破綻企業とするのに十分なものでした。東電は「仕方なく」、被害者支援優先を名目に「損害賠償責任」を認めた上で、原賠法16条の「資金援助」を要請したのです。
1 事業者として賠償責任のある東電は、損害賠償責任を取っていない
① 損害賠償責任を認め「資金援助」を要請した東電は、損害賠償責任を全く取っていません。
東電の損害賠償金の支払いは、原子力損害賠償補償契約「保険金」及び原子力損害賠償「交付金」の「税金」で全額支払われています。東電は、損害賠償請求を受付、身銭を切らず税金を請求者に支払っているだけです。東電は、損害賠償金縮小の窓口業務をやっているだけで、損害賠償責任を全く果たしていません。
② 原賠法16条の「資金援助」は、損害賠償金の全額を援助することにはなっていません。支援機構法41条は、税金を「贈与」する交付金だけではなく、「債権」としての貸付金、手形割引などの援助もあります。決して東電の損害賠償責任を免責するような「交付金による全額支援」にはなっていません。「交付金」での東電への「資金援助」は止めるべきです。
③ 支援機構法成立時の附帯決議(添付資料)では、「東電救済法案」ではないと明言しています。
二 本法はあくまでも被災者に対する迅速かつ適切な損害賠償を図るためのものであり、東京電力株式会社を救済することが目的ではない。したがって、東京電力株式会社の経営者の責任及び株主その他の利害関係者の負担の在り方を含め、国民負担を最小化する観点から、東京電力株式会社の再生の在り方については、東京電力福島第一原子力発電所事故の収束、事故調査・検証の報告、概ねの損害賠償額などの状況を見つつ、早期に検討すること。
四 今回の賠償に際しては、原子力事業者による負担に伴う電気料金の安易な引上げを回避するとともに、電力供給システムのあり方について検討を行うなど、国民負担の最小化を図ること。
八 国からの「交付国債」によって原子力損害賠償支援機構が確保する資金は、原子力事業者が、原子力損害を賠償する目的のためだけに使われること。
十三 機構及び政府は、機構の活動状況及び財務状況、特別資金援助を受ける原子力事業者の特別事業計画の実施状況等を国会に対して求めに応じ定期に報告し、機構運営の透明性を担保するとともに、国民負担の最小化や安易な電気料金値上げの回避に努めること。
十五 原子力損害賠償の特別事業計画の策定に当たっては、福島原子力発電事故の収束がいまだ見えない中、長期的な視点に立って、原子力事業者による被災地域の土地の買取りや放射性物質で汚染された土壌やがれき等の処理などの検討を含め、国の責任により迅速かつ適切な損害賠償の枠組みを構築するように万全を期すこと。
④ 八には、交付金は「・・・原子力損害を賠償する目的のためだけに使われること」とあります。ところが支援機構法の主旨に反して、支援機構法を変え東電の事故処理、廃炉(事故炉)処理の費用のために交付金は使われています。まさに「東電救済」のために税金を湯水のごとく使っているのです。
2 東電が損害賠償責任を取らないので、東電のステークホルダーも責任を取っていない
① 東電は、まず借入、資産処分、リストラなどにより資金を捻出し損害賠償金に充てるべきです。
② それでも資金不足であれば、「リスケジュール」により金融機関等への債権放棄などの負担を要請すべきです。
③ ところが東電は、緊急融資の2兆円と増資1兆円を優先的に社債償還、借入返済などの金融資金に充て、捻出した資金を事業支払などの運用資金と事故処理費用に廻しました。何故できたのか、7兆7000億円の損害賠償は、支援機構からの交付金(税金)で全額支払ったからです。
④ 今回の原子力損害賠償と損失は、一度事故になれば「債務超過」「債務不履行」によって事業破綻することを証明したのです。したがって、自費で損害賠償できなければ、会社更正などの「事業整理・清算」手続きをして社会的責任を取るべきです。
⑤ 破綻企業東電の社会的責任を取らずに「事業存続」していることで、東電のステークホルダーの取るべき責任をも免責にしています。特に金融機関は、債権放棄するどころか私募債への借換により無担保を有担保にして、何の負担もすることなく安全に資金回収し金利も稼いでいます。
3 各電力会社の支援機構への「負担金」は、実質的には東電の損害賠償交付金の返済であって原賠法4条の「責任の集中」に違反する
① 支援機構から東電への「資金援助10兆円」の税金の「穴埋め」を、各電力会社は支援機構への「負担金」で負担させられています。
支援機構への負担金は、形式上は東電への「損害賠償交付金9兆円の返済」ではなく、東電への資金援助10兆円を国と金融機関から借入れた「支援機構の借入返済金」の負担金となっています。
ですから形式的には、各電力会社は東電の借入返済の肩代わりをしているのではなく、支援機構の借入返済の肩代わりをしていると言うことです。しかし、実質的には、東電への「資金援助金10兆円」の借入返済の肩代わりさせられているのです。
② 各電力会社が東電の負債を肩代わりする法的義務も、法的根拠もありません。これは原賠法4条の「責任の集中」違反です。各電力会社に東電の損害賠償の負担をさせるのなら、その前に東電のステークホルダーである金融機関に債権放棄をさせ、損害賠償金の支払をさせるべきではないでしょうか。
③ 新しい再処理出金制度は、東電が破綻企業となったことから「原子力事業者の破綻を前提」としてできた法律です。原賠法の見直しも「事業社の破綻」を前提とした制度にする必要があります。
まずは具体的に東電を整理清算し、清算後の被害者を救済できる原賠法に見直しにするべきです。
④ このまま東電の「事業存続」などと言っていれば、東電への資金援助は際限なく続けられ東電と東電のステークホルダーは何の損害賠償責任を負わないことになります。東電の現状は、そのことを証明しています。
4 東電の損害賠償金の負担は、電力会社の負担から電力消費者の負担へ
① 東電の損害賠償の負担(支援機構の借入金返済)を何故、各電力会社の負担にしたのか。それは電力会社の負担にすれば、「総括原価方式」により電力消費者から電気料金で回収できるからです。
現在、各電力会社の電力消費者は、その支払う電気料金の中で東電の損害賠償金の負担(支援機構の借入金返済)をさせられているのです。
② 本来、損害賠償費用を総括原価として電気料金に入れること自体が問題なのです。損害賠償金は発電費用ではありません。損失なのですから電気料金に算入することは許されないはずなのです。この点を明確にして、損害賠償金の電気料金算入を拒否しましょう。
③ 東電の損害賠償の負担は、東電の除染、汚染水処理、事故処理、廃炉(事故炉)へと広がり、再処理費用、核サイクル費用の負担へ拡大します。原子力不良債権の負担です。
そして「総括原価方式」に替わり「託送料金」で、電力会社の電力消費者だけでなく新電力の電力消費者からも東電の不良債権負担、原子力不良債権の負担をさせられることになるのです。
④ ですから現在、実施されている東電の損害賠償金を各電力会社の電気料金で、電力消費者に負担させていることは、損害賠償責任の集中(原賠法4条)に反し、総括原価方式の原則に反するとして電気料金から除外させることが重要です。
5 原賠法の目的(原賠法第1条目的)
① 原賠法の目的には、「被害者の保護」と「原子力事業の健全な発達」があります。
原賠法の主な目的は「被害者の保護」です。「原子力事業の健全な発達」は、事業者に損害賠償責任を果たさせるため、また、事故による事業損失への影響に備えて保険加入を強制したものです。
原賠法は、東電が即座に破綻するような事故を想定していなかったことは、保険金1200億円の設定で明らかです。原子力事故災害は、実際に事業者破綻が起きたのですから事業者破綻を前提とした保険設計にする必要があります。
② 「原子力事業の健全な発達」などと言って資金援助をしても、今回の東電ように損害賠償責任を何も取らない現状では、資金援助の意味はありません。支援機構法は、破綻企業東電の救済法でしかありません。目的の「原子力事業の健全な発達」は削除するべきです。
③ 事業者破綻、清算後の国の「被害者救済」条項を明確にする必要があります。
6 原子力損害賠償保険金の1200億円は桁が違う
「原子力損害賠償責任保険契約(保険契約:民間)」、「原子力損害賠償補償契約(補償契約:政府)」共に保険金1200億円と自然災害等の免責条項の撤廃は必須です。
① 東電の原子力損害及び損失は、現在までで12兆円以上になっています。今後、20兆とも30兆円とも試算されています。東京都の豆腐屋さん1兆2兆3兆でも桁が違います。
まずは保険会社による東電の損害・損失査定を行うべきです。保険金は最低でも現在の賠償・損失12兆円以上になります。もし、保険会社が保険契約を拒否するのであれば、原子力事業から民間企業は撤退するべきです。
② 福島第一は現在も、再び「東日本壊滅」危機状態になる可能性があります。無保険状態であり1200億円を「供託」しています。直ちに保険会社で査定をして保険加入するべきです。保険加入できなければ、東電は直ちに整理、清算をして、原子力事業部門は国の管理にするべきです。
③ 再稼働をするには、保険の見直しをしてからにするべきです。原子力災害によって多大な損害・損失が実際に起きたのです。そして、東電は破綻企業となり損害賠償・損失の責任を取れず、その責任と負担を国民と消費者に押し付けているのですから、事故の「自己責任」を取れるように損害賠償保険の保険金を見直し、再加入してから再稼働するべきです。
④ 原賠法6条「原子力事業者は、原子力損害を賠償するための措置を講じていなければ、原子炉の運転等をしてはならない。」
以上、上手く整理できていませんが、原賠法見直し論議の材料になればと思います。
追:<原賠法見直しに関する資料>
第13回原子力損害賠償制度専門部会(議論まとめ)
http://www.aec.go.jp/jicst/NC/senmon/songai/siryo13/index.htm
日弁連「原子力損害賠償制度の在り方に関する意見書」
http://www.nichibenren.or.jp/activity/document/opinion/year/2016/160818.html
上記は、東電株主代表訴訟の堀江鉄雄さんからいただいたメールです。よくお調べになって核心を突く議論をされています。私はその議論におおむね賛成です。みなさまにもご覧いただきたく拡散させていただきます。下記には、私の方から補足的に若干のことを付記させていただきました。あわせてご覧いただけますと幸いです。(田中一郎)
1.東京電力が福島第1原発事故による賠償責任をきちんと認めているかどうかは極めてあいまいです。政治的には原賠法にある「免責」条項の全面適用を放棄せざるを得ませんでしたが、今度は個々の賠償問題各論の中で実質的に拒否していく、すなわち、(1)賠償請求をしてこない被害者に対しては賠償はしない(無視する)、(2)賠償請求されたものについては、自分たちと経済産業省=つまり加害者側で決めた賠償ルールからはみ出したものは拒否して裁判へ持ち込み、持久戦にして極力圧縮を図る(和解等)、(3)「原子力損害賠償紛争審査会」の指針や「原子力損害賠償紛争解決センター」に対しては慇懃無礼に対応する(最低限のお付き合いしかしない・所管の文部科学省を通じて賠償額の拡大を封じ込める)、などの態度に出ているように思えます。政策や制度については、今後の原子力推進のことを考慮に入れて、東京電力自身が直接手を下さずとも、原子力ムラ及びその代理人・代理店が動いている場合も多いと思われます。名を捨てて実を取る方針とでも言えばいいでしょうか。
2.福島第1原発事故の賠償責任について申し上げれば、加害者・東京電力のみならず、個々の原発や電力会社への許認可を握り、管理監督責任を担ってきた事故責任者・国にも、当然のことながら賠償責任はあるのであって、それを東京電力へ丸投げして、「私は賠償の支援者です」のような「第三者ズラ」をしていることは許されるはずもありません。最終負担の調整は後日、東京電力と国が行うことにして、まずは国が福島第1原発事故の被害者に対して万全の賠償補償を行うべきでなのです。それが被害者優先救済の原則です。(そういう法制化をしたらどうですか?)
3.賠償の対象(者)範囲や賠償金額から判断して、事実上、福島第1原発事故の被害者損害は踏み倒されています。現段階はまだ「物損」及び「精神的被害(慰謝料)」の段階ですが、この段階でも、きちんとした賠償を行えば、数百兆円レベルの話です。更に、今の調子で行きますと、放射線被曝による健康被害が多発してきそうですので、医療費を含む身体被害の損害賠償が、また、同じくらいの巨額になるでしょう(この話はこれからです)。しかし、それらの金額がいくらになろうとも、国はこれに責任を持って対処しなければなりません。金額が巨額だから賠償しなくていい、という話にはならないのです。国が責任を持つということは、言い換えれば、有権者・国民・市民もまた、この被害者賠償に巨額の国庫金が使われることを覚悟せよ、ということでもあります。原発を推進するということは、そういうことです=つまり、必ずや起きるであろう過酷事故に対して、巨額の賠償その他の費用が国民負担となるということです。
4.政府から原子力損害賠償(廃炉等)支援機構を通じて東京電力に交付されているカネ(国債)は、政府によるといずれ東京電力から返却してもらうもの、とされておりますが、他方で、当事者の東京電力の方は「もらったもの」として、損益計算書上は「特別利益」として計上するというチグハグな形になっています。東京電力が負担すべき費用を国が肩代わりして出すというインチキ行為をゴマカスために行っていることがゴマカシになっておらず、天下の大泥棒行為が白昼堂々と行われ、でなければ、史上まれにみる粉飾決算が東京電力によって行われているということです。
5.沖縄を除く地域独占の電力会社が原子力損害賠償(廃炉等)支援機構に納めている「負担金」には根拠はありません。日本型「奉加帳」方式などとマスコミは報道しています。堀江さんがおっしゃるように、こんなものが総括原価となって日本全国の電気料金に付加されることは許されるはずもありません。ただ、現在の原発には、大事故が起きた際の賠償支払いのための損害保険(補償保険)が民間・公的ともに全く不十分のまま放置されています(各1200億円が限度)。それを補うものとして「公的保険」の追加分として法制化されれば、それはそれで根拠を持つでしょう。銀行で言うところの預金保険機構のようなものです。しかし、現在の金額水準の「負担金」では話になりません。金額無制限の民間・公的両保険が用意されるべきで(前者は過失事故あるいは自損事故、後者は無過失事故あるいは巨大自然災害等)、もしそれが用意できないのなら、堀江さんがおっしゃるように原発などやめるべきです。もしもの時は責任が取れませんと言っているのと同じですから(以前にも申し上げましたように、原発コストの最大のゴマカシは、この過酷事故対策保険料の不払いにあります)
6.この原子力損害賠償・廃炉等支援機構のスキームは、菅直人民主党政権の時代に、被害者を切り捨て加害者を救済する形で創設されました。その際、その加害者側には、東京電力の株主や東京電力への大口債権者(金融機関など)がありましたが、これもあわせて一緒に救済する形がとられました。ですから、堀江さんがおっしゃるように、本来なら、東京電力には会社更生法が適用されて更生会社となったうえで、株主に対しては100%減資による出資全額の負担、金融機関に対しては、無担保・有担保の別に、通常の会社更生による債権カットが行われてしかるべきだったのです。その額は、総額で概ね4~5兆円くらいだったであろうと推定されます(うち、有担保は社債がほとんどでしたが、これはたとえば分社化した送配電会社の債務や出資に張り付けるなどして対処することは十分に可能でした。菅直人民主党政権のこのスキームに対する言い訳=「東京電力には有担保社債があってつぶすわけにはいかなかった」というのは嘘八百です)。また、この時の経験から電力会社に対しては「ゼネラルモーゲージ」(全会社資産担保方式)という制度を廃止すべきでしたが、廃止されずに今日に至っていますので、再び同じこと=つまり、加害者救済・被害者切捨ての原発過酷事故後のスキームは繰り返されることになるでしょう。菅直人民主党政権の福島第1原発事故に関する最大の罪はこれ=つまり被害者を切り捨て、他方で加害者側を救済したということです。絶対に忘れてはいけません。
7.堀江さんと私がちょっと違うのは、東京電力は更生会社にはできても「清算」や「会社整理」はできないし、しない方がいい、という点です。株主や金融機関等に応分の負担をさせて後は、賠償や廃炉のための費用はどこからも出てきませんので、国が責任を持ってやっていくしかありません。あえて言えば、東京電力の通常の電力料金に上乗せした料金で賄うということでしょうが、それも限度があります。ですので、株主・金融機関の責任と、幹部役職員の責任を徹底追及したのちは、東京電力を更生会社として新しく生まれ変わらせ、人心を一新したまともな新会社としてスタートさせ、賠償・補償はもちろん、廃炉や除染、その他の福島第1原発事故の後始末に責任を持って対処させていくほかありません。東京電力の電気料金をどれくらい高くできるか、それは電力自由化の中で、非常に悩ましい問題となるでしょう。しかし、今現在のように、株主も、金融機関も、幹部役職員も、誰の責任も不問のまま、ゾンビ会社の東京電力を、だらだらと活かし続けるような形での国からの出費=税金・国庫資金の浪費は許されるはずもないのです。ケジメをつけろ、ということです。
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔opinion6303:161018〕
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