鳩山証言の重要性
- 2011年 2月 25日
- 時代をみる
- 宇井 宙本土メディア沖縄メディア鳩山証言
私は自分ではツイッターを利用したことはないのだが、ちきゅう座編集部の方が2月17日に掲載されていた孫崎享氏のツイッターからの引用は勉強になった。それを読んで改めて、いわゆる鳩山「方便」発言を報じた沖縄タイムスと琉球新報の記事を読み返した。そこでわかったことはこうだ。
普天間基地を県外または国外へ移転することを真剣に考えていたのは、鳩山前首相を含めて数人しかおらず、閣僚も大半は自民党と同じ従来の発想に閉じ込められていたために、新しい発想を受け入れようとしなかった。また、首相に仕えるべき外務・防衛両省の官僚は、数十年来の発想に凝り固まっていて、動かなかった。それゆえ、オバマ大統領と直接交渉する前に、閣内を「県外・国外」でまとめることさえできず、政権返上と相成った、と。大変正直な告白である。そしてまた、鳩山氏は、沖縄県民の信頼を損なったことを「本当に申し訳ない。大変残念だ」と何度も述べている。この言葉には嘘は感じられない。それに引き換え、鳩山氏を狂ったように叩き続ける本土のメディアは沖縄県民の思いを考えたことがあるのか。読売社説は何も触れていない。朝日社説は、「菅政権が引き続き日米合意の実現を目指すというなら、海兵隊の抑止力や沖縄駐留の必要性について根本から、丁寧に説明し直すことが不可欠だ」と述べ、日経社説もほぼ同様で(カンニング?)「菅政権に求められるのは行動だ。まずは在日米軍が日本の安全に果たしている役割をもっと詳しく国民に説明し、沖縄をはじめとする人びとの理解を得る努力を尽くす必要がある」と述べている。朝日社説は、責任を負わないための予防線なのか、まるで他人事のように「菅政権が…日米合意の実現を目指すというなら」と仮定形で述べているが、朝日社説自身が「日米合意の実現を目指すべきだ」という立場に立っていることは、これまでの言説から明らかである。つまり、朝日も日経も、「日米合意の実現」が至上命令であって、そのために引き続き沖縄県民は我慢し続けろ、と言っているにすぎないのである。そこには、鳩山氏が述べたような、沖縄県民に犠牲を強い続けていることに対する呵責の念は微塵もない。「丁寧に説明し直」せば、沖縄県民の「理解を得る」ことができるとでも思っているのか?
それに対して、沖縄の新聞は何と言っているか?
沖縄タイムスの黒島美奈子記者は、「沖縄に丁寧な説明で理解を求めるべきだ」という朝日などの社説について、鳩山「発言の焦点は、そんなところにはない」と断じ、「今問われるべきは、海兵隊の「抑止力」の検証と、沖縄に基地を集中させてきた固定観念を変えることだ」と明言している。さらに、「鳩山氏は発言の中で基地問題を取り巻く国家体制やメディアへの疑問を呈したが、それは今回の「方便」批判を通して具現化されたと言わざるを得ない」と喝破している。また、琉球新報の松元剛政治部長も、「鳩山証言が照らし出した核心は(1)沖縄に新たな海兵隊航空基地を押し付ける論拠にした「抑止力」は虚構(2)公約に掲げた「県外移設」実現を目指したが、自らの戦略、指導力の弱さを突かれ、対米追従を断ち切れない閣僚と官僚支配の軍門に下った構図(3)沖縄に基地を押し付ける差別的構造の温存―であろう」と指摘。「言葉の軽さはあったにせよ、鳩山氏の証言に偽りはない。退陣に追い込まれた鳩山包囲網の内幕を、わずか8カ月後に明かしたのは前代未聞だ。(・・・)鳩山氏は驚くほど赤裸々に証言した。その内容は真実性、迫真性に富む。日本の戦後政治史に刻まれる首相経験者の告白と言っていい」と高く評価しているのである。
以上のような、鳩山退陣の内幕と、沖縄メディアの報道を見れば、「驚きあきれる」(朝日社説)ほかなく、「背筋が寒くなる」(日経社説)ほど「無責任かつ不穏当な発言」(読売社説)であり、「放置できない」(日経社説)のは、鳩山証言ではなく、日米合意の見直しを目指そうとした鳩山氏を叩きまくり、米国の奴隷となって沖縄県民に犠牲を押し付け続けている本土のメディアであることはあまりにも明らかである。
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
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