≪上級者向け≫FSBを知らなければロシアは理解できない
- 2016年 11月 7日
- 時代をみる
- 塩原俊彦
ひと月ほど前から、「スプートニク日本」のサイト内でブログを開始した(https://jp.sputniknews.com/blogs/shiobara_toshihiko/)。どこまで筆者の意見をそのまま掲載してくれるかを注目していたのだが、今回、「なかなかやるじゃないか」ということがあったので紹介することにした。それは、「閑話休題:≪上級者向け≫プーチン政権の裏事情」という拙稿がそのまま掲載されたことに関係している。これを読んでもらえばすぐにわかることだが、プーチン政権の足元でなにが起きているかについて結構、辛辣に批判している。それにもかかわらず、拙稿をそのまま掲載してくれたことに率直に評価したいと思う。だが、やや舌足らずの分析部分もあるので、ここで少しだけ補足しておきたい。なお、「≪上級者向け≫FSBを知らなければロシアは理解できない」というタイトルにしたことからおわかりのように、あくまで≪上級者向け≫の論考であり、拙稿「閑話休題:≪上級者向け≫プーチン政権の裏事情」をお読みいただいていることを前提に話を進めていきたい。
筆者は、「The Economist (Oct. 22nd, 2016)は、Special Reportとして14頁にのぼるロシア特集を組んでいる。そのなかで「権力構造」の項目を設けて、セルゲイ・コロリョフとデニス・スグロボフの話を紹介している。この二人を取り上げたことは実に的確なのだが、この二人の名前を聞いてピンとくる専門家は日本にはいないだろう(まあ、筆者くらいか[笑い])」と書いておいた。その説明として表を掲載しているのだが、そこには、「2014年2月」として、「FSB内部安全保障サービス傘下の第六部長イワン・トカチェフの指揮下で、内務省経済安全保障・腐敗対抗総局長デニス・スグロボフやボリス・コレスニコフ同副局長を収賄、権力濫用、犯罪グループの組織化の容疑で逮捕。内部安全保障サービス副長官オレグ・フェオクチストフが作戦を担当していた。後にコレスニコフは自殺」と記述されている。
本文中にあるように、デニス・スグロボフはドミトリー・メドヴェージェフが大統領であった2011年7月27日に、内務省の新設ポストである「経済安全保障・腐敗対抗総局」のトップに任命された人物だ。彼を強力にプッシュしたのがエフゲニー・シュコロフ内務省次官兼経済安全保障部長であった。スグロボフはその後、アナトリー・セルジュコフ国防相の腐敗の現場となったアバロンサービス事件捜査や、ソチ五輪準備に際しての予算資金横領事件などで辣腕を振るった。だが、忘れてはならないのは、同じころ、連邦保安局(FSB)の内部安全保障サービスの副長官を務めていたのがオレグ・フェオクチストフであったことだ。彼は、アンドレイ・ホレフという内務省経済安全保障部の副部長を上記の新設ポストの長に据えようと画策したのだが、失敗してしまう。いってみれば、2014年2月のスグロボフ逮捕はこのときの挫折のリベンジという面をもっていたことになる。
このフェオクチストフは2004年にFSBの内部安全保障サービス傘下の第六部設立当時、当時のイーゴリ・セーチン副首相と交流をもち、それが縁で、2016年9月にはロスネフチの安全保障担当の副社長に就任している。FSB内部安全保障サービス第一副長官からの横滑り人であった。
なお、フェオクチストフが内務省経済安全保障・腐敗対抗総局長に推挙しようとしてホレフは2011年7月、当時のメドヴェージェフ大統領令によって内務省経済安全保障部副部長を解任された。彼は、不法なアルコール類の生産に従事していた「ロトス」と関係をもつなど、フェオクチストフとの「薄汚い」関係に呼応する人物であったとみられている。
このように、FSB人脈を詳細に研究することこそ、ロシアの政治研究の出発点でなければならない。
だからこそ、筆者がFSBに拉致された事実は重大な意義をもっている(詳しくは拙著『プーチン露大統領とその仲間たち:私が「KFGB」に拉致された背景』を参照)。にもかかわらず、いま現在も日本国民への人権蹂躙についてなんら事情聴取もしない日本政府はおかしい。ましてや、その事実さえ報道しようとしないマスメディアはその役割をまったく果たしていない。
最後に、拙著『ガスプロムの政治経済学(2016年版)』が上梓された(https://www.amazon.co.jp/%E3%82%AC%E3%82%B9%E3%83%97%E3%83%AD%E3%83%A0%E3%81%AE%E6%94%BF%E6%B2%BB%E7%B5%8C%E6%B8%88%E5%AD%A6-2016%E5%B9%B4%E7%89%88-%E5%A1%A9%E5%8E%9F%E4%BF%8A%E5%BD%A6-ebook/dp/B01M4SCK0N/ref=sr_1_6?s=books&ie=UTF8&qid=1478502125&sr=1-6)。これを読めば、もう少し基礎的なところからロシアの政治経済の現状が理解できるだろう。
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://chikyuza.net/
〔eye3746:161107〕
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