似た者同士、トランプ・アベの「日本核武装化新時代?」
- 2016年 11月 13日
- 時代をみる
敬愛するドナルド・トランプ次期大統領閣下。
貴国の従属的同盟国の総理・アベでごさいます。
大統領選の結果判明のその瞬間まで、私ども官邸は閣下を当選の見込みない泡沫と決めこんで、貴国の次期大統領はヒラリー・クリントン氏と予定した行動をとっておりました。これは、ワタクシの無能な部下の愚行とご寛恕いただきたく、閣下に非礼をお詫びための拝謁の機会を得たくご連絡するとともに、併せて厳粛に属国並みの忠誠を誓約申しあげます。
思えば、ワタクシと閣下とは、人種差別の心情や反知性の粗暴な人格において、また反リベラルの右翼思想においても、排外的なナショナリストとしても、似た者同士と申しあげてよろしいかと存じ、僭越ではありますが、頗る親近感をいだいております。ホンネのところで、これほどぴったりと価値観を共有する同盟国の首脳は他にないとの思いを強くしているところでございます。
閣下同様ワタクシも、従来の保守・中道政権が国民から飽きられたことを奇貨として、右翼を基盤に政権を獲得したのでございます。政権の支持基盤が極端に右傾化しましたから、ワタクシもリベラル派からは悪評噴出して「私の首相ではない」「私たちの政権ではない」「アベ政治を許さない」と悪評さくさく、反発は今なお根強いところでございます。とりわけ、ワタクシの政権になって以来、ヘイトスピーチ・ヘイトデモ・ヘイトクライムが、社会に蔓延いたしました。これも、閣下の場合と兄弟相和するものとして、親近感を強くする所以のひとつなのでございます。
そのような思いから、属国の身をかえりみず、多少はお役に立つべきことを申しあげたいと存じます。
今、閣下は、合衆国大統領への就任を目前として頗る緊張のご様子とお見受けいたします。しかし、ナニ、ご心配には及びません。ワタクシごときに日本国首相が務まるのです。文字通り浅学非才、人格低劣、政治的見識皆無。単なる「右翼の軍国主義者」に過ぎないワタクシにおいてです。閣下に大統領職が務まらぬはずはありません。政策の立案・実行は、すべてしかるべき官僚が行うのですから、御輿の上の木偶人形が緊張したり心配したりの必要はございません。トップというものは、しゃべって物議を醸す生身よりは、しゃべらぬ木偶の方がずっとマシなのでございます。
ただ、これだけはやっかいです。閣下の支持基盤の中核は右翼ないし極右です。激しい人種差別の感情に駆られた排外主義者が貴政権の最も熱狂的な支持者となっています。この支持者の熱狂に応えたいのが、閣下の真意ではあろうと忖度申しあげますが、実はそれがなかなかやっかいなこと。「公約を破るのか」「選挙民を欺したのか」「おまえには何枚舌があるのか」という非難を覚悟で、この右翼勢力を宥めなければなりません。ここがたいへんに難しいところ。
ワタクシも靖国派や日本会議や、諸々の極右勢力の支援によって政権に就きました。この勢力の要望こそがワタクシの政治信条のホンネなのです。ですから、直ぐにでも9条改憲を実現したい。天皇の元首化をはかりたい。全国民に国旗国歌尊重を強制したい。核武装もしたい。沖縄を押さえつけて米軍基地の拡充を実現したい。「神武は実在した」「南京事件は幻だ」という教科書を津々浦々に普及したい。NHKを官邸の広報チャンネルとして純化したい。全閣僚の堂々の靖国神社参拝を実現したい。…願望は、やまやまですができないのです。第1次アベ内閣当時、ワタクシは権力の座にあればなんでもできると思っていまして、憲法改正の序章と位置づけた教育基本法改正には手を付けましたが、それも不十分なままで、結局はそれまで。それ以上のことはできなかったのです。結局は選挙に負けて、前代未聞のみっともないありさまで政権を放棄しました。是非、その轍を踏まれることのないよう、ワタクシを反面教師としてご用心ください。
ところで、問題は日米軍事同盟です。閣下は、選挙期間中日米軍事同盟の片務性を大いに問題にし、「アメリカが日本を守ってやっているのに、日本はそのコストを払っていない」「コストの全額を払わないなら米軍は撤退する」「日本は、核兵器でも何でも持って自国を守るべきだ」と繰り返して来られました。
失礼ながら、閣下が日米軍事同盟やガイドライン、そして沖縄を中心とする目下の基地問題にどれだけ通暁しておられるのか懸念なしとはしませんが、おっしゃっていることには一理あると感服しています。
とりわけ、日本の核武装の問題。日本国民の核アレルギーにはなかなかに根の深いものがあり、残念ながら直ぐには実現する見通しは薄いと考えざるをえません。しかし、これまでの貴国大統領とはまったく立場を異にし、我が国に核武装を促すとは、さすがに見上げた見識。閣下とワタクシとで、日本の民衆の核アアレルギー解消を目標とする「新日米同盟関係」を打ち立てることにご賛同いただけたら幸甚に存じます。
おっしゃるとおり、中国のみならず北朝鮮までが核をもっている北東アジアの軍事環境下で、日本が核に関して丸腰では軍事バランスを欠いて平和が危ういと言わざるを得ません。日本をめぐる国際環境が核開発を許すのなら、幸いに日本はプルトニゥム保有大国です。一部は貴国の要請に応じて返還したとは言え、未だに核弾頭5000発分と見積もられているプルトニゥムは他の用途なく、処理に困っておるところでございます。潜在的核保有国と言われる我が国が、核武装することにさしたる時間は要しません。核爆弾の運搬技術は種子島で実験を重ね、完成した技術を有していますから北朝鮮に対して核優位に立つことはいともたやすいこと。
これこそ、新しい核の抑止力に基づく平和を切り開く、「トランプーアベ親密外交新時代」。是非とも国民の核アレルギーの払拭を通じての核抑止力均衡に基づく積極的平和の実現に向かってともに努力を重ねていこうと、かように愚考いたしております。
誠惶誠恐頓首々々謹言
(2016年11月12日)
初出:「澤藤統一郎の憲法日記」2016.11.12より許可を得て転載
http://article9.jp/wordpress/?p=7687
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://chikyuza.net/
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