「報道の自由度」世界72位の国からみた、41位の同盟国の大統領記者会見、情報公開度
- 2017年 1月 16日
- 時代をみる
- ジャーナリズムトランプ加藤哲郎
◆2017.1.15 新サイトに移って初めての更新です。もうすぐアメリカ合衆国第45代大統領・ドナルド・トランプの就任式です。でもこれまでのツイート政治と1月11日の選挙後初の記者会見を見れば、たとえ就任演説そのものは殊勝に無難にこなしても、トランプ政権の危険性に変わりはありません。99団体20万人が就任式におしかけ抗議デモをすること自体、前代未聞です。当面のポイントは、トランプが「偽ニュース」と罵倒したロシア政府が持っているという「不都合な個人情報」。一応ロシア政府も公式に否定しましたが、ハニートラップ等この種のインテリジェンス情報は、決定的な時に効果的に使われるのが常道。それも発表されるという意味ではなく、むしろ情報を握る側が重要な取引材料にするわけです。米ロ関係も米英関係も米中関係も霧の中、日本やメキシコは、そうした諜報戦に翻弄され、為替も株価も乱高下でしょう。名指しで質問拒否されたCNNはもちろん、米国メディアも世界も総批判。そのためこちらも重要な、トランプ次期大統領の利益相反問題は、かすんでしまいました。
◆CNNの対極でしばしば右派・トランプ派とされるFOXニュースも、さすがに「我々はフォックスニュースでCNNの報道(の正否を)を確認することはできませんが、我々の見解は以下の通りです。CNNの記者はジャーナリストの規範に従っており、彼らだけでなく、他のどんなジャーナリストも、米国の次期大統領による誹謗中傷に屈してはなりません」ーーこれが、普通のジャーナリズムです。もっとも、「トランプ劇場」は、その辺も織り込み済みで、まだまだ続くでしょうが。17日からスイスで始まる世界経済フォーラム(WEF)ダボス会議に出席する、中国・習近平主席の発言と、世界の政財界エリートの反応に、ご注意。
◆「トランプ劇場」のおかげで、日本の新聞では小さく扱われた、外務省外交記録24冊の初公開。 概要はpdfにもなっていますが、「ポツダム宣言受諾関係」等一つ一つが重要です。 その注目の仕方にも、各メディアの特徴が現れます。「外務省が外交文書を公開 戦後ソ連の日本軍捕虜「赤化工作」が明らかに」は、案の定、産経ニュース。「引き揚げ名簿に「命のビザ」杉原千畝氏も」「日中関係、蜜月時代の幕開け 80年代、文書に高揚感」が朝日新聞。「中国 日本の自衛力増強に理解 83年の首脳会談で」がNHK。「83年の中曽根首相初訪問時 米、安保資金負担を要請 」は東京新聞、なぜか日経新聞も「米、安保で財政負担要請 中曽根元首相83年訪問時 」と同じ注目。「「米に施政権」秘密覚書…沖縄援助巡り両政府」は毎日新聞の突っ込み。「 中曽根政権など 外交記録文書を公開 」とおとなしいのが読売NNN、…… 。
◆こうした問題を、それぞれ自分の関心にあわせて、まずは自分で調べ、ついでに国立公文書館アジア歴史資料センター(アジ歴)などで歴史的背景まで調べれば、いっぱしの歴史認識初級編。アジ歴では今後、1972年までの公文書数千万画像をデジタル公開し、ダウンロードできるようにするとのことです。 でも、なぜ今年の外交文書公開が今回の24件のみなのか、もっと重要な非公開資料があるのではないかと疑うのが、中級の歴史研究者。それを情報公開法などで自分で請求できれば、ほとんどプロです。琉球新報1月14日社説「外交文書公開 日米の非公表体質明らかに」が、プロの証しで、ジャーナリストの眼です。
◆でも、最も注目すべき今年の公文書公開についての報道は、1月2日の西日本新聞のスクープ「外務省が「核密約」非公開要請 米公文書で裏付け」という調査報道です。地方新聞記者のスクープのためか、琉球新報1月5日社説「核密約非公開要請 国民の「知る権利」に応えよ」以外は、共同・時事の配信報道も、大手メディアの後追い取材もないようですが、「日本の外務省が1987年、米政府に対し、核兵器の持ち込みに関する密約を含む50年代後半の日米安全保障条約改定交渉など、広範囲にわたる日米関係の米公文書の非公開を要請していたことが、西日本新聞が米情報自由法に基づき入手した米公文書で明らかになった。密約などについて米側は要請通り非公開としていた。米公文書公開への外務省の介入実態が判明したのは初めて」という、12日の外交文書公開の意味そのものを問い直しうる、重大な問題です。西日本新聞は、引き続きこれをおいかけているようですし、外務省公開についても「決定的証拠、安保理で賛同集めず 83年の大韓機撃墜事件」と独自の視点を示しており、今年の注目メディアです。
◆アメリカの「トランプ劇場」を、嗤うわけにはいきません。国境なき記者団の2016 年180か国「報道の自由ランキング」で、アメリカは41位と先進国では高いとはいえません(ドイツ16位、イギリス38位、フランス45位)。それでも韓国70位よりも低い、72位の日本から見れば、あのFOXによるCNNの言論の自由擁護のような健全性があります。しかも日本は、2010年最高位11位が、2012年22位、2013年53位、2014年59位、2015年61位から16年72位と、劇的な自由度後退です。いうまでもなく、アメリカの記者会見とは異なる記者クラブ制度に加え、秘密保護法など安倍内閣下で着々と進む情報統制、報道画一化を反映したものです。「安倍劇場」の裏では、大手メディアの有力幹部が首相を囲みほとんど毎月会食、それが大ニュースにならない国に、私たちは、くらしているのです。隣の芝生より、まずは足元を見つめよ、です。
初出:加藤哲郎の「ネチズン・カレッジ』より許可を得て転載 http://netizen.html.xdomain.jp/home.html
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