リビア内戦、カダフィ大佐が反撃 NATO軍介入が想定される段階に
- 2011年 3月 4日
- 時代をみる
- リビア内戦浅川 修史
3月4日時点では、首都トリポリの陥落を防いだカダフィ大佐率いる政権側が、ベンガジなどリビア東部を占領した反政府勢力への反撃に出ていると報道されている。これまでに多数の死者が出ている。政権側には航空機、武装ヘリ、戦車があるが、反政府勢力にはない。ソ連製の自動小銃・カラシニコフやRPG(ロケットランチャー)というベトナム戦争当時使用された旧式の武器しか持っていない。ソ連軍と対峙していたアフガニスタンの反政府勢力と異なり、リビアの反政府勢力には外国からの武器や資金援助がない。国連はリビアに対する制裁を検討しているが、すぐに効果は出ない。リビア国軍がカダフィ大佐から離反する動きも限定的である。治安部隊やアフリカ系傭兵を駆使して、政権を死守する覚悟を固めているカダフィ大佐が、何万人もの民衆を血の海に沈めて、「秩序」を回復することすらありうる。このままではシリアのアサド大統領(故人)がムスリム同胞団と同調した民衆を虐殺して政権を維持したハマー事件(1982年)の悲劇を繰り返す。
カダフィ大佐を打倒して、民衆の生命を救うにはもはや国際社会の軍事介入しかない段階に入っている。軍事介入する主体はエジプト軍を主体にするアラブ連盟有志軍がもっとも政治的摩擦が少なく望ましい。だが、アラブ連盟22か国がリビア軍事介入でまとまることは考えにくいうえ、エジプトが政治的再編成のさなかにあるので、可能性は低い。
リビアはイタリアの植民地だった時代がある。リビア産原油は欧州に輸出されている。経済的関係も深い。こうした関係を考えると、欧州を主体にするNATO(北大西洋条約機構)軍が米軍と、形だけでもエジプト軍と共同で介入することが選択肢のひとつになる。 ところが、経済危機が続く欧州が及び腰であるうえ、リビアに権益を持つフランスのトタルやイタリアの石油資本がリビア軍事介入でカダフィ政権を倒すことを望むかといえば、その反対だろう。NATOの軍事介入には、有力な加盟国トルコやロシアが反対だと伝えられている。
米国の方針も見えない。ぶれている。米国にとって、「リビアは欧州のマター」と考えている節がある。米国はリビアではなくペルシャ湾岸のバーレーンとサウジアラビアの王制の存続を重視している。米国にとってこちらほうが戦略的重要性がある。
原油価格上昇の根本原因が米国の金融緩和政策QE2にあることは明白だが、リビアの内戦が長期化すれば、中東・北アフリカ危機を相場の材料にして、原油価格は上昇し続ける。原油価格上昇の「責任」もアラブ情勢に転嫁できる。原油価格上昇には米国にとってプラス部分が多い。ドルを基軸通貨として支える柱のひとつが、「原油価格はドル建てで表示され、ほとんどがドルによって売買される」というペトロ・ダラー体制である。ペトロ・ダラー体制によって、ドルには超過需要が生まれ、基軸通貨としての地位を保つことができる。ドル防衛をはかるには原油を上げることが手っ取り早い。原油価格上昇によって産油国にドル資金が貯まるが、そのドル資金は米国債投資、プラント投資、武器購入などを経由して米国に戻る。ドルというペーパー・マネーで原油を買える米国にとって、一石二鳥の効果がある構造である。
しかし、原油価格上昇はインフレを招いて欧州などの世界経済に悪影響を与える副作用がある。途上国の政情不安も加速する。この効果の両面をにらみながら米国はリビア内戦の収拾をはかることになるだろう。
しかし、筆者はリビアの内戦を早期に収拾して民衆の生命を救うために、NATO軍がリビア領内に飛行禁止区域を設定するなどの軍事介入をすることが想定される段階に入っていると考える。
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
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