米国大統領選挙と民主党の敗北: カリフォルニア大学 ジェローム・キャバレ教授による論評「アウトサイダーの年」
- 2017年 2月 12日
- 時代をみる
- グローガー理恵
今、トランプ新大統領は、物議を醸し出す言動、大統領令などで世界中のメディアを騒がせている。右を見ても左を見ても、絶えることなく、トランプ大統領を巡る報道が流れる今日この頃となった。
一方では、大統領の上級顧問、ケリー・コンウェイ氏が、George Orwell著の “1984”をベストセラーに伸し上げた張本人となっっている;彼女は、NBC番組 “Meet the Press” の中で「大統領報道官が大統領就任式での観衆人数のスケールについて説明したことは、客観的事実とは違うのでは?」と問われたのだが、その際、「あれは “もう一つの事実 (alternative facts ) “なのです」と応答したのである。それ以来、米国では “1984”が、思い出されたように売れ始め、ベストセラーになったとのことである。これは、故George Orwell氏にとって喜ばしいニュースに違いない。
クリントンが敗北した大統領選挙の後、アメリカの知人から受け取ったメール
米国大統領選挙から数週間後、米国人の知人から下記のメールを受け取った。知人は教授職を経て大学総長を勤め、数年前に定年退職した方である:
「今、自分は、大統領選挙災害の後に襲われた意気消沈状態から脱出しようと努めています:なぜトランプのような者が選挙に勝ったのか (総得票数ではクリントンがトランプを上回っていたのですが)と、全くむかつく思いがするのです。アメリカの労働者階級の人々は、今、ヨーロッパや英国でスピーディに広まっている”ポピュリストの動き ”にとらわれてしまったのではないだろうかと、私は考えるのです。それと、ヒラリー・クリントンが、ほとんどと言ってよいほど、すべての人たちに猛烈に嫌われていたということです。私の友人の中には、ヒラリーがテレビの画面に現れると、すぐさま席を立ちその場から離れていく人たちがいるのです。こうなってしまった今、ただ望むことは、これからの4年間、アメリカの民主主義が損なわれることなく、なんとか生き延びていってくれるということです。トランプはデマゴーグです。彼が抗議やデモ(現在、アメリカでは毎日のように抗議運動が起こっています)を違法化したとしても、私にとって驚きではありません。彼は非常に危険な人物です。」
彼が民主党支持者であることは明らかだが、彼については、こんなエピソードもある:2009年にオバマが大統領就任した際、彼の息子さん(弁護士)がオバマ政権の下、司法省で働くことになったのである。その時、彼は誇らしげに、息子さんとオバマが一緒に写っている写真を送ってきたのだった。
選挙直前までメインストリーム・メディアはヒラリーの地滑り勝利を予言していたというのに、と嘆く人もいた。去年の夏アメリカを訪れたときに知り合った青年(情報数学者)がいるのだが、彼はこう言っている:「メディアがあちこちでクリントンの勝利は90%確実だと報道していたから、自分が投票しなくても大丈夫だと思って投票しに行かなかった」と。
民主党の敗北については、さまざまな疑問が浮かび上がってくる:なぜ、あれほどヒラリーは不人気だったのか?いかにしてトランプは白人労働者階級の心をとらえることができたのか?なぜ民主党は、あれだけの何百万人という支持者を集め、とりわけ若い世代の間で抜群の人気があったバーニー・サンダースを軽視して、ヒラリーをプッシュすることのみに専念したのか? - などなど….。これらは米国民主党の”在り方”そのものに対する疑問でもある。
ジェローム・キャバレル教授による論評 “アウトサイダーの年”
これらの疑問に対して簡潔で明確な返答を提供してくれている論評がある。”アウトサイダーの年 (The Year of the Outsider ”と題された論評である。論評の著者、ジェローム・キャバレル社会学教授は、適確な背景分析に基づき、非常に説得力あるアーギュメントを提示してくれている。
論評の和訳が “Le Monde diplomatique日本語版サイト”に掲載されてあるので、それをご紹介させていただく。コピーライトを考慮して、すべての和訳文を転載しないで始めの部分だけを転載しておく。翻訳者の茂木愛一郎氏が優れた和訳をしてくださっている。
和訳へのリンク:http://www.diplo.jp/articles16/1612-1outsider.html
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米国大衆が起こしたポピュリストの反乱
アウトサイダーの年
ジェローム・キャラベル(Jerome Karabel)
カリフォルニア州立大学(バークレー校)社会学教授
訳:茂木愛一郎
米国民は抜本的な変革を再び求めていた。そんな時、民主党は大統領選勝利に向け、長年政治に携わってきたインサイダーに頼り、固執すらしてしまった。[英語版編集部]
米国の大統領選は、ドナルド・トランプが僅差でヒラリー・クリントンに勝利したが、英国でのブレグジットの繰り返しのような驚くべき投票結果であった。トランプの勝利は、ひとつには世界的に広がる政治、金融、文化におけるエリート主義への嫌悪が生み出したものであり、もうひとつはグローバル化の過程で生じた経済・社会的混乱に対するポピュリストによる抵抗の表れであった。そのグローバル化のプロセスは、多国籍企業の利害によって左右され、規制緩和、減税、民営化、社会福祉サービスの削減、自由貿易、そして何ら規制されることのない資本移動という新自由主義のイデオロギーが優先されることによって一段と突き進められてきたものであった。
しかし、クリントンと民主党の敗北は米国に特有の政治的危機の結果でもあった。その根源は、その後長く続く白人層の共和党への支持政党の鞍替えが始まった1964年にまで遡る。その年の大統領選はリベラル派のリンドン・ジョンソンと保守派のバリー・ゴールドウォーターが争ったが、1932年以降米国政治を支配してきたニューディール連合に初めて亀裂が見られ始めたのはこのときだ。 …… 続きは こちらをクリック
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