「外国人の政治献金を禁止する」根拠を歴史から学ぶ
- 2011年 3月 9日
- 評論・紹介・意見
- 外国人の政治献金浅川 修史
アメリカ合衆国、連合王国(UK)、ドイツなど主要先進国は政治家が外国人(外国企業を含む)から政治資金を受け取ることを法律で禁止している。日本もほぼ同様である。外国人が国内政治に影響力を及ぼすことを懸念しての規制と考える。ただし、正確にいうと連合王国は選挙人名簿登録者が政治献金をすることができるという規定であり、選挙人名簿登録者には英連邦や欧州連合の市民もなることができるという。
前原誠司氏が在日韓国人から政治献金を受け取った責任をとり、外務大臣を辞任した件では、さまざまな議論が起きている。日本人と同じように社会にとけ込んで、生活してきた在日韓国人・朝鮮人が政治家への好意からの少額政治献金まで禁止するのはいかがなものか、という論議には説得力がある。
だが、筆者は外国人から政治資金を受け取ることを禁止している政治資金規正法にはやはり歴史的に合理的な根拠があると思う。
自由民主党がCIAから、日本共産党や日本社会党がソ連や中国から、事実上の政治資金を受けとっていたと歴史家は指摘する。筆者の知る範囲では、かつて日本が中国との貿易を制限していた時代、中国との貿易で利益を上げていた日本の友好商社が、日本社会党に献金している。だが、こうしたことは好ましいことなのか。
エジプトのムバラク前大統領が700億㌦の資産を持っていたと報道されて話題になった。ムバラク氏だけではなく、世界にはこうした日本人の想像を絶する資産家が存在する。ロシアのオルガルヒ(新興資本家)、中国の実業家(共産党員でもある)、アラブ世界の独裁者、米国の投資銀行家、ヘッジファンド運営者などが資産家として思い浮かぶ。北朝鮮の金氏一族も多額の資産を持っているに違いない。たぶんスイスの銀行にも多くの資産を預けているだろう。金正日氏のふたりの息子ともスイスの学校に通っている。
ここまで大物ではなくとも、スーダンの大統領クラスでも日本の政治家に影響力を行使できるくらいの資産は持っていると思う。日本は依然として世界有数の経済大国であり、ODAの供与国である。技術、ノウハウなどの無形資産も持つ。かりに外国の独裁者が多額の政治献金(もちろん目に見えないようにマネーロンダリングしながら)をしても元はとれるだろう。
こうした外国人が日本の政治家に政治献金を経由して影響力を行使するリスクを政治資金規正法により排除することは、はたして世界の趨勢に逆らう「排外主義」なのか。
ひとつ歴史的なエピソードを紹介したい。東三省(現在の中国東北地方)に張作霖という軍閥の頭目がいた。張作霖は日本に支援されて頭角を現すが、商才ある人物でもあった。私設の銀行をつくり、その紙幣で農民から大豆を買った。そうして集めた大豆を日本の三井物産などに売った。得た紙幣は円ではなく朝鮮銀行券だったが、タヌキの葉っぱのような紙幣が、当時は日本の信用が背後にある朝鮮銀行券に化けたのだ。
この金に日本の政党政治家も引き寄せられた。張作霖と面会した政治家は、「いくらあれば日本の首相をつくれることができるか」という内容の質問をされたという。張作霖程度の人物でも当時の大日本帝国を動かせる見込みがあると考えたのだ。
筆者は自然人でない法人や団体が政治献金することは好ましくないと思う。政治とは基本的には、生まれて死んでいく自然人のためにあると考えるからだ。日本で選挙権を持つ自然人が政治家にもっと献金できる仕組み(たとえば政治献金の税額控除の拡大)が民主主義との整合性があると思う。
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
〔opinion0367 :110309〕
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