ゼロ回答ではなく、「口利きの顛末」を報告した文書~安倍夫人付き政府職員発のFAX~
- 2017年 3月 25日
- 時代をみる
- 醍醐聡
2017年3月25日
「忖度」か? 「ゼロ回答」か?
23日に行われた森友学園・籠池理事長の証人喚問の中で、籠池氏が示した「籠池理事長宛ての安倍夫人付き官邸職員のファックス」(2015年11月送信)は森友学園の校地用土地取得への安倍夫人の関与を裏付ける数少ない物証として注目を集めている。
というのも、安倍首相は森友学園問題をめぐる国会質疑の場で何度か、自分、自分の事務所、昭恵夫人が国有地の取得に関わっていたとなれば総理大臣も国会議員も辞めると明言してきたからである。それだけに官邸もこの文書の位置づけを薄めるのに躍起になっている。
昨日(3月24日)の衆参予算委員会での質疑を見ると、野党議員はこうした官邸の公式見解を正面から質すには至らず、「忖度」を物語る文書だと追及するにとどまった。
これに対して、安倍首相、菅官房長官は、「このFAXは籠池氏側からの問い合わせに事務的に応答した文書に過ぎず、内容もゼロ回答であって忖度では全くない」と口をそろえて説明している。
忖度と言うなら、安倍夫妻が広告塔となったことで森友学園の案件が「首相案件」と受け止められ、さまざまな「忖度」を生んだことは官邸がどう言おうが政府職員の間では常識だろう。
しかし、国会の場で「忖度があったのではないか」と質すことにどれくらい意味があるのか? 「忖度などありません」と答弁されたらそれまでだ。
FAXの別紙に注目すべき
そうした押し問答で終わらないためには、昭恵夫人付きの政府職員が籠池理事長宛てに送信したFAX の本文だけでなく、「別紙」を注目することが重要だ。この別紙とは昭恵夫人付政府職員に宛てた「財務省国有財産審理室長・田村善啓氏からの回答である。ここには2つの注目すべき点がある。
売却時の価格に言及~国有財産の売却に安倍夫人が関与した証拠~
一つは次のような記述である。
「3 土壌汚染や埋蔵物の撤去期間に関する賃料の扱い
・・・・土壌汚染の存在期間中も賃料が発生することは契約書上で了承済みとなっている。撤去に要した費用は、第6条に基づいて買受の際に考慮される。」
ここで注目されるのは、定期借地契約で謳われた買受特約を将来、森友学園が行使する場合、埋蔵物の撤去費用は買受価格から差し引かれることを籠池氏側に、この政府職員が伝えている点である。
時系列でみると、森友学園が近畿財務局と当該土地につき、買受け特約を付けて10年を期間とした有償貸付契約を締結したのは2015年5月29日だった。この時の不動産鑑定価額は9億3200万円とされていた。
この返信FAXは、定借期間を10年超に延長してもらえないかという依頼だったが、昭恵夫人付きの政府職員からの回答は、それは難しいと「ゼロ回答」して終わりではなく、定借期間の延長の件とは別に、買受特約を実行した場合の価格にも触れているのである。
森友学園が買受特約の実行を近畿財務局に申し出たのはそれから4カ月後の2016年3月24日で、その13日前に森友学園は当該土地に杭打ちをした際、新たに地下埋蔵物が発見されたと近畿財務局に連絡していた。
森友学園が定借から買受に転換した理由はまだ不明だが、2015年11月の時点で、昭恵夫人付政府職員を通じて、財務局国有財産審理室長からの回答という形で、買受時には埋蔵物の撤去に要する費用が差し引かれると知ったことが買受への転換を判断する要素の一つになった可能性がある。
その点は推測の域を出ないとしても、安倍夫人付の政府職員が安倍夫人に寄せられた籠池氏の依頼を受けて財務局国有財産審理室長に問い合わせをした結果を籠池氏に伝えた文書の中で、将来の買受価格の算定に関する財務省の考え方が含まれていたことは、昭恵氏の関与が定借の条件変更にとどまらず、買受にも及んでいた事実を示すものであり、安倍首相が繰り返し否定した、「私の妻が国有地の売却に関与した」証拠として重大な意味を持つ。
政府の予算措置にも言及した事実の重み
安倍夫人付きの政府職員が籠池理事長に宛てて送ったFAXの「別紙」の中で、もう一つ注目すべき点は、森友学園が定借した国有地の土壌汚染と地下埋蔵物の撤去のために立て替えた1億3,000万円の精算の目途について次のように言及している点である。
「4 工事費の立て替え払いの予算化について
一般には工事終了時に清算払いが基本であるが、学校法人森友学園と国土交通省航空局との調整にあたり、『予算措置がつき次第返金する』旨の了解であったと承知している。平成27年度の予算での措置ができなかったため、平成28年度での予算措置を行う方向で調整中」
財務省国有財産室長名で森友学園に関わる政府の予算措置にも言及した情報が、安倍夫人付きの政府職員が籠池理事長に宛てて送ったFAXに含まれていたことは極めて重要である。このような回答が一政府職員からの問い合わせを介して、一民間法人たる森友学園の理事長に送られたのは首相夫人たる昭恵氏の肩書/関与抜きには考えられない。
このことは、籠池氏が要望した定借期間の延長に関しては「ゼロ回答」だったとしても、森友学園が立て替えた工事費の精算については、予算措置で調整中という具体的な対応を伝えていたという点である、この点で問題のFAXは「ゼロ回答」でないのはもちろん、「事務的文書」でもなく、森友学園に対して財務省内の国有財産所管部署が、首相夫人付きの政府職員を介した森友学園からの要望に対して、様々に対応していた事実を示す証拠として重大である。
FAXの「別紙」を見れば安倍首相の言いくるめは破たんする
安倍首相は24日の国会答弁で、問題のFAXは「国有財産に関する問い合わせに対する一般的な内容である」と内容の重大性を薄めるのに懸命になっている。
しかし、以上で紹介したFAXの「別紙」を吟味すると、財務省国有財産室長名の回答は、「国有財産に関する問い合わせに対する一般的な回答」どころか、定借期間の延長に関しては「ゼロ回答」でも、
①買受特約をする場合の売却価格に言及しており、その意味では国有財産一般ではなく、森友学園への当該土地の売却条件にも触れている。
②定借中に森友学園が行った土壌汚染、地下埋蔵物の撤去に要した費用の精算に係る政府の予算措置の見通しに言及している。この点でも、「国有財産に関する問い合わせに対する一般的な回答」どころか、昭恵夫人付の政府職員を介した森友学園からの要望に対する財務省の具体的な対応を伝えた文書であることは明らかである。
昭恵夫人付き政府職員から籠池理事長宛てに送信されたFAXの内容を以上のように検討すると、安倍首相自身の意思が働いていたかどうかは不明としても、首相夫人という肩書で昭恵夫人付政府職員が財務省の国有財産所管部署に問い合わせをかけ、それに対して当該部署が当該職員を経由して籠池理事長に、将来の国有財産の売却条件まで触れた回答をしていた事実が明確になる。
しかも、その売却条件というのが、8億円の値引きに繋がる埋蔵物撤去費用の扱いを伝えたものであったことは、昭恵夫人が「問題の国有財産の売却に関与していた事実」を具体的に示すものであり、安倍首相が国会で繰り返し明言した同氏の進退につながるといって差し支えない。野党は、今後、「忖度」云々の議論から脱して、物証のあるこの点を具体的に質していく必要がある。
初出:醍醐聡のブログから許可を得て転載
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://chikyuza.net/
〔eye3969:170325〕
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