中東への軍事介入を急拡大する米国 アハマド・ラシッド「中東のトランプー新たな野蛮」から(1)
- 2017年 4月 8日
- 時代をみる
- トランプ中東坂井定雄
トランプ政権発足から3か月、中東のイラク、シリア、イエメンで、そしてアフガニスタンで米軍の作戦が拡大、民間人の死傷者が急増している。米軍の作戦拡大はアフリカのソマリアでも始まっている。
米議会、メディアへの説明も、同盟国、中東当事国・友好国との協議もなく、米空軍による爆撃と海兵隊、特殊作戦部隊まで含む地上部隊の戦闘参加が拡大。イラク第2の都市モスルでは、2年10カ月になるイスラム国(IS)支配からの政府軍中心の奪回作戦が進むなか、一般市民の犠牲を最小にするために政府軍の作戦が慎重に行われている一方で、3月17日には米軍機の“誤爆”により1地区だけで200人以上の住民が死亡した。
イラク、シリア、イエメンへの爆撃の主力は、ペルシャ湾に派遣されている空母機動艦隊で、その中心の空母ジョージW.ブッシュに積載している74機の攻撃機はフル稼働だという。しかし、同機動艦隊はイランへの先制攻撃の態勢も整えている。イランの核開発疑惑は2016年、IAEA(国際原子力機関)との交渉が合意し、欧米と国連の対イラン制裁解除が発効、実行されたが、米国だけが一部の制裁を続けている。トランプ政権は、イランに対する敵意を隠さず、制裁を新たに拡大した。
本欄でもたびたび紹介した、国際的に高く信頼されているパキスタンのジャーナリスト、アハマド・ラシッドは、NYブックレビューやロサンゼルス・タイムズなどに最近掲載した綿密な分析「中東のトランプ:新たな野蛮」を次のように締めくくっているー「私たちは、紛争を終わらせるのではなく、煽り立てる米国とともに残されている。その米国は、いかなる観点から見ても世界に対する責任を放棄し、国際的な合意を尊重しない。米国の同盟国は、もはや米国のリーダーシップに依存することができない新たな時代が始まったのだ。それは、われわれの世代が見てきたなかで、最も危険な期間になるだろう」
アハマド・ラシッドの「中東のトランプ:新たな野蛮」を以下に紹介しようー
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ドナルド・トランプ政権スタートから数か月、包括的な対外政策を示すものはない。しかし、実際に起こっていることは、中東における米国の政策の劇的な軍事化であり、そのほとんどは、米国の同盟国との協議なしに実行され、ほとんど公的に論議されたことはなかった。イエメンにおける軍事攻勢、イラクとシリアにおけるイスラム国(IS)への作戦の場合、それは、とくに米国にとっての安全保障と中東の安定のためのものだった。
トランプの大統領就任(1月20日)のわずか数日後、イエメン中央部の国際テロ組織アルカイダ支配地を米軍が攻撃、米海軍特殊部隊SEALの兵士一人、一般住民20人以上が死亡。以後、米軍によるイエメン攻撃が拡大している。3月の1カ月間に米軍機、無人機の爆撃が2016年1年間の爆撃とほぼ同数に達した。イラクとシリアでは、米軍の爆撃で多数の一般住民が死亡している。
一方、偏狭なイスラム過激派「イスラム国(IS)」の“首都”ラッカを奪回するため、砲撃陣地を築く米軍部隊400人がシリアに向かっている。別の1千人の部隊が、攻撃予備軍としてクウェートに向かう。すでにイラクには5千人の米軍がいるが、さらに兵力が増強される。アフガニスタンには現在8,400人の米軍がいるが、米国防総省はさらに兵力増強を要求している。
イエメンで米国が行っている作戦は、ほとんど米議会でも討議されず、NATO同盟国との協議なしに進められている。イエメンでの政府軍とシーア派のフーチ反政府勢力との内戦は、湾岸アラブ諸国が政府軍を支援し、イランがフーチ勢力を支援している。この内戦のなかでイエメンは、国連高官によると「世界最悪の人道危機」のさなかにあり、1,800万人に緊急支援が必要だ。しかし新たな米軍の派遣は、紛争の平和解決への交渉を米国がリードする意思を示すことなく進められている。
3月26日のワシントン・ポストは、国防総省がホワイトハウス(大統領府)に対して、イランが支援するフーチ勢力と戦っている湾岸のアラブ諸国への軍事援助を無制限にするよう要求した、と報じた。すでに規模不明の米特殊作戦軍(SOF)がイエメンに限らずアフリカと中央アジアの多数の国々で活動している。(続く)
(坂井注)イエメンは中東アラビア半島の南端、紅海の出口に位置するアラブ国家。かつて英帝国のアジア進出への最重要中継拠点だった。人口は2,747万人(2016年国連推計)。2011年に民主化運動が高まり、独裁者サレハ大統領が辞任、12年の選挙で隣国サウジアラビアが支持するスンニ派のハディが大統領に選ばれ就任した。しかし、新憲法制定の賛否がきっかけになって、イランが支持する少数シーア派組織のフーシが反乱を開始、内戦状態になった。内戦はフーシ派が優勢に進め、15年には首都サヌアを占領、ハディ大統領の政権は南部アデンに移り、サウジアラビアはじめ湾岸スンニ派諸国の支援を受けている。内戦の混乱の中で、国際テロ組織アルカイダが拠点を築き、米軍がアルカイダ支配地域への爆撃を始めた。一般住民の被害がさらに拡大、国連機関によると、15年3月から16年8月までに住民約3,800人が死亡している。
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