改憲志向増すもなお9条を堅持 - マスメディアの全国世論調査 -
- 2017年 5月 13日
- 時代をみる
- 岩垂 弘憲法
5月3日は日本国憲法施行から70年にあたった。この日に向けてマスメディアは憲法に関する全国世論調査を行い、その結果を発表した。それを分析すると、改憲派が増えつつある傾向がみてとれるが、その一方で憲法9条(戦争の放棄、軍備及び交戦権の否認)を維持すべきだとする人たちが依然、多数派であることが浮かび上がる。
憲法に関する全国世論調査をおこなった新聞社、通信社、テレビ局は、調査にあたって「憲法を変える必要があるか」「憲法を改正する方がよいか」、あるいは「憲法を改正すべきと思うか」などといった質問を設け、現行憲法の改定について賛否を問うた。その結果は、以下の通りである。
調査結果をおおまかにいうと、毎日、共同通信、NHKの調査では改憲派が多数派を占め、読売と日経・テレビ東京の調査では、改憲賛成派と改憲反対派が拮抗、朝日調査では、改憲反対派が改憲賛成派より多い、ということになる。
各社の調査結果がこんなに違うと、憲法についての国民意識の確固たる全体像をしぼり込むのは難しい。だが、各社の調査結果を詳細に見てゆくと、国民意識の傾向が見えてくる。
まず、「朝日」。「憲法を変える必要はない」は50%だが昨年調査では55%、「憲法を変える必要がある」は41%だが昨年調査では37%だった。
同様なことが「毎日」の調査結果にも見て取れる。ここでは、「憲法を改正すべきだと思う」が48%、「憲法を改正すべきだと思わない」が33%だったが、昨年は「思う」「思わない」が共に42%だった。
日経・テレビ東京のそれも同様だ。今年は、「憲法を改正すべきだ」45%、「憲法は現状のままでよい」46%だったが、昨年は「改正すべきだ」が40%、「現状のままでよい」が50%だった。
つまり、これら3つの調査では、いずれも「改憲賛成」派が前年より増えているのだ。なぜだろうか。おそらく、昨年来、日毎に緊迫度を増してきた北朝鮮情勢が影響しているのではないか。すなわち、北朝鮮による核実験、度重なるミサイル発射実験が続き、これに対して米国が朝鮮半島周辺に兵力を差し向けるといった、いわば一触即発といった朝鮮半島情勢の展開に不安と危機感を抱いた人たちの一部が「現憲法維持」から「日本も憲法を変えて軍備増強を図った方がいい」との考え方に変わり、それが世論調査に反映したとみていいだろう。
だとすると、「9条堅持派」も減っただろうなと考えるのが自然の成り行きというものだが、マスメディアの世論調査はなんと意外な結果を示していた。マスメディア各社のうち何社かは改憲の賛否を問う質問と共に9条改正の賛否を問う質問を設けていたが、その回答は以下の通りだった。
「読売」調査も、「あなたは、憲法第9条について、今後どうすればよいと思いますか」という質問をしている。それへの回答は、「これまで通り、解釈や運用で対応する」が42%、「解釈や運用で対応するのは限界なので、第9条を改正する」が35%、「第9条を厳密に守り、解釈や運用では対応しない」が18%だった。となると、「9条改正賛成」35%、「9条改正反対」60%ということになろうか。
各社の世論調査の結果を見て、私は目を見張った。朝鮮半島情勢が緊迫化し、国民の間で改憲志向が増しているにもかかわらず、「9条堅持」がなお国民の過半数以上、あるいは過半数近くを占めていたからである。
もちろん、「9条堅持」派は増えてはいない。いゃ、減っている。例えば、「朝日」調査では、「9条改正反対」は前年より5ポイント、「毎日」調査では、前年より6ポイント減となっている。
しかし、日本の安全保障が厳しい局面を迎えているにもかかわらず、「9条堅持」派がなお、なお国民の過半数以上、あるいは過半数近くを占めているのだ。この事実は重い。日本国民の平和志向はなお根強いと言ってよく、これは、護憲派を勇気づけ、希望を抱かせるファクトだろう。
でも、護憲派はこれから先、難しい局面に直面するのではないか。というのは、安倍首相が5月3日、「2020年を新しい憲法が施行される年にしたい」と、9条に自衛隊の存在を明記した条文を追加することと、高等教育の無償化を定めた条文の新設を提言したからである。
護憲派の旗印はこれまで「9条堅持」であったし、これからもそうだろう。これに対し、自民党の改憲草案は9条を改変して(9条の2項=戦力不保持を削除して)国防軍を創設するというものだ。ところが、首相は9条の2項をそのままにして9条に自衛隊の存在を書き加えようというのである。
なんとも唐突で、自民党改憲草案とも矛盾する提言に驚くが、首相の狙いが、「9条堅持」の護憲派の切り崩し、護憲派の改憲派陣営への取り込みにあることは明らかだろう。護憲派の中に「9条を変えないと言っているから」「災害援助で活躍している自衛隊の存在を憲法で認めてもいいのでは」と、首相提言に傾く人たちが出てくるのではないか。
首相提言のまやかしをどう理論的に打ち破ってゆくか。そして、首相提言の狙いを広範な国民にどう伝えてゆくか。護憲派に課せられた課題は重い。護憲派にとっては、最後の正念場である。
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