安倍内閣の支持率はなぜ高いのか(8) ―自民党リベラル・小磯国昭・セールスマンの夢―
- 2017年 6月 23日
- 時代をみる
- 半澤健市安倍
《自民党リベラル派の発言》
■安倍総理が言う,「憲法改正は自民党の結党以来の党是」といったことはまったくの間違いということも指摘しておきたいと思います。/自由民主党は1955年に自由党と日本民主党が合併してきた政党ですが、当時、自由党はどちらかといえば護憲が多数で、民主党は改憲派が多かったのです。自由民主党の結党時に出した五つの文書の中で、特に重要な「綱領」などの三つの文書の中には憲法に関する記述は何も入っていません。残る二つの文章の中の最後の項目に入っているだけです。
結党から二〇年目に作られた政策綱領改定委員会には私も入って議論しました。/私が自民党総裁だった結党四〇年目には、後藤田正晴さんが党基本問題調査会長をつとめられ、改憲に関しては党大会で採択された「新宣言」の中で「新しい時代の憲法のあり方について国民とともに論義を進めていく」という文言でまとめられました。ですから、自民党が一貫して改憲を党是としてきたというのは嘘なのです。/■
これは元自民党総裁河野洋平のインタビューにおける発言の一部である。(「東アジアの危機をどう克服するか」、月刊誌『世界』、2017年7月号)
緊迫した東アジアの危機に関して、40年前の「福田(赳夫)ドクトリン」にも言及して平和外交の重要性を力説している。まことにハト派の面目躍如たるものがある。
問題は自民党リベラルが『世界』でしか発言できない現状である。福田赳夫のライン上にある福田康夫、細川護煕、鳩山由紀夫ら元首相の発言力も同様である。安倍一族一強体制の原因は、小選挙区制と官邸主導の確立にあるという。世界を覆うポピュリズムを小泉純一郎に次いで先取りしたのだという。自民党リベラル派はどこへ消えたのか。もともとリベラル派は存在しなかったのか。
《小磯国昭の弁明的発言》
■・・あなたは一九三一年の三月事件に反対し、あなたはまた満州事件の勃発を阻止しようとし、またさらにあなたは中国における日本の冒険に反対し、さらにあなたは三国同盟にも反対し、またあなたは米国に対する戦争に突入せることに反対を表し、さらにあなたが首相であったときにシナ事件の解決に努めた。けれども・・すべてにおいてあなたの努力は見事に粉砕されて、かつあなたの思想及びあなたの希望が実現することをはばまれてしまったということを述べておりますけれども、もしあなたがほんとうに良心的にこれらの事件、これらの政策というものに不同意であり、そして実際にこれらに対して反対をしておったならば、なぜにあなたは次から次へと政府部内において重要な地位を占めることをあなた自身が受け入れ、そうして・・自分では一生懸命に反対したと言っておられるところの、これらの非常に重要な事項の指導者の一人とみずからなってしまったのでしょうか■
これは東京裁判で、小磯国昭被告の口述書について、フィクセル検察官がのべた言葉である。小磯は、1944年7月から1945年4月の間、大日本帝国の首相であった。これに対する小磯の答えは次の通りである。
■われわれ日本人の行き方として、自分の意見は意見、議論は議論といたしまして、国策がいやしくも決定せられました以上、われわれはその国策に従って努力するというのがわれわれに課せられた従来の習慣であり、また尊重せらるる行き方であります■
《自民リベラル派の転向=一億総転向》
自民党リベラル派は、新自由主義の浸透とともに80年代から、次第に崩壊を始めて2017年の今日までの30年間で壊滅した。その過程で「自分の意見は意見、議論は議論」といいながら転向したのである。自覚なき転向である。
「新自由主義」という弱肉強食、「日米同盟深化」という対米隷従、「積極的平和主義」という大国主義・軍事ケインズ主義が、「いやしくも決定せられた国策」となった。小選挙区制や官邸主導や「共謀罪」は、トータルな「国策」の重要な戦術として成功しつつある。この国策生成過程の根っこには、国境を越えた既得権集団があり、国策はその新式のイデオロギーとなっている。弱体化した国民国家の名前において国策は実行されている。
自民党リベラルの「転向」を批判するのが私の主目的でない。事実としてこう認識するのが大事だというのである。「安倍政権の支持率はなぜ高いのか」を論ずると、必ず出てくる説明は「野党がだらしがないから」であり、「安倍よりマシなのがいないから」というものである。それは有権者の転向を反映している。自民党リベラルの転向は有権者の転向を反映している。それを客観的に証拠立てるのは難しいが、私的な経験と感想を述べて私の説明としたい。
職場時代の仲間との会話によく出るのは、「マイホーム+二千万円」死守と排外的ナショナリズムの論理である。自分も含めてなるべく客観的にしゃべっても、ローンを完済した「マイホーム」の価値は、例えば三千万円と考えている。「二千万円」を退職金額または、金融資産残高と考えている。勿論、所帯別の残高には大きな格差があるだろう。大企業退職者なら年金額が公的・私的を併せて月額50万円に近くなるケースもある。
かくして高度成長とバブル時代を駆け抜けた企業戦士は、おのれの一代限りの小市民生活を楽しんでいるのだと自認している。窮乏化と格差是正は否定しないし、現に自己破産した人間もいるが、総じていえば解決は次世代でやってくれとシレッとしている。日本に追いすがる新興成長国への抜きがたい蔑視と嫉視が存在するが、日本経済が再度高度軌道に乗れるとは考えていない。
《セールスマンの夢は覚めない》
スキャンダルが発覚しても安倍内閣の支持率が依然高い。
それは元企業戦士が、仕組まれた「愚者の楽園」を生き延びようとしているからである。すでに「セールスマンの死」の時代は来ている。しかしウィーリー・ローマンの幻想は、我々の多くを捉えて離さず、自分の世代まではその夢を見続けられると考えているのである。世代エゴイズムは新たなポピュリズムの火種になるかも知れない。(2017/06/13)
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