脅される内部告発者(6/30 朝日新聞):公益通報(内部告発)は行政やビジネスを改善するには貴重な情報だ、でも現状の「公益通報者保護制度」では、この主旨は活かされず、むしろ逆効果である
- 2017年 7月 2日
- 評論・紹介・意見
- 田中一郎
- (耕論)脅される内部告発者 光前幸一さん、マイケル・ウッドフォードさん:朝日新聞デジタル
- 脅される内部告発者の画像
- iv) 告発者を被告発者に売り渡す行為をとり、告発者が不利益を被らない措置をとらず
下記サイトは、このほど朝日新聞(2017.6.30)に掲載されました「脅される内部告発者」という、タイムリーで事の本質を鋭く指摘するいい記事です。この内部告発(公益通報)の問題については、先般、「加計学園問題」をめぐり文部科学省内の文書の隠ぺいとその内部告発による暴露をめぐり、あろうことか義家弘介(ひろゆき)文科省副大臣が、内部告発した同省職員を処分するなどと「恫喝」「脅迫」を行ったことから社会的に大問題となりました。
http://www.asahi.com/articles/DA3S13011378.html
http://www.asahi.com/articles/photo/AS20170630000106.html
(関連)義家文科副大臣の発言は、「公益通報者保護制度」の主旨に反する「恫喝」そのものであり、まさに権力の乱用以外の何ものでもない いちろうちゃんのブログ
http://tyobotyobosiminn.cocolog-nifty.com/blog/2017/06/post-047d.html
今回の朝日新聞記事は、この問題を受けて、「公益通報者保護制度」とその改正問題に詳しい光前幸一弁護士の解説と、実際にオリンパスという大会社の巨額不正経理を、社長というトップの地位にありながら内部告発したマイケル・ウッドフォードさんの実体験に基づく「熱い議論」を紹介したものです。必読記事だと思います。
我が国の「公益通報者保護制度」は欠陥制度であり、その法律名とは裏腹に、公益通報をした人の利益も地位も処遇も守らず、逆に、これから公益通報をしようかなと思っている人々を委縮させ、「公益通報」による会社経営サイド・役所支配サイドのよろしからぬ業務の在り方を現状維持で守り通すためにあるような「ザル法」です。
だいぶ前から消費者庁が中心になって、この法律の改定が検討されているようですが、私が見るところ消費者庁の腰が引けていて、とりあえず重箱の隅を突っつくような小手先改定にとどめて、肝心なことにはフタをしたまま先送りしてしまいそうな情勢です。
現在の「公益通報者保護制度」の重大な欠陥は、上記朝日新聞記事にある光前幸一弁護士の解説により平易に理解できます。ポイントは次の3点かなと思われます(但し、3点目は私のオリジナル)。
(1)第一の欠陥は、公益通報者保護法の対象となるものが非常に限定されすぎていて、なんだかんだと言っては保護から外してしまっていること。私は法律には詳しくないですが、聞くところによれば、この法律の対象は罰則付きの一定の法律に限定されているということで、今般の「加計学園問題」と文部科学省の場合には「公文書管理法」違反なので、この「公文書管理法」には罰則がなく、公益通報者保護法の対象にはならない、とのことだそうです。こんな仕組みのどこに「納得性」がありますか? また、公文書管理法に罰則がない、などということも許されるものではないでしょう。
(関連)公益通報者保護法と制度の概要|消費者庁
http://www.caa.go.jp/planning/koueki/gaiyo/
(関連)公益通報者保護法において通報の対象となる法律について|消費者庁
http://www.caa.go.jp/planning/koueki/gaiyo/taisho.html
ただ、光前幸一弁護士の解説をみると、「しかし、公益通報者保護法の対象とならなくても、内部告発に関する判例の法理があります。内部告発で勤務先に損害を発生させたとしても、その告発が、「真実で」「公共性があり」「公益目的で」「手段が相当である」という四つの要件を満たしていれば、違法性はなくなります。2004年に保護法が制定されるより前から、裁判所はそうした内部告発を正当行為として免責してきていて、4要件は定着しています。」とあります。
であれば、消費者庁は、この「公益通報者保護法」見直しにおいて、もっと幅広くこの法律の保護の対象を広げるべく、この「定着した」4要件を反映する条文を盛り込めばいいのです。消費者庁は何をしているのかということです。
(2)第二の欠陥は、公益通報者の保護措置=不利益が及ばない仕組みにし、万が一不利益が及べば、その救済・代償措置を万全にする、という仕組みがないことです。
同じく光前幸一弁護士の解説を引用しますと、「内部告発する人は様々なリスクを背負っています。今の制度は「公益通報者を保護します」と言いつつ、具体的な保護措置がほとんどない。救済が認められたとしても微々たる損害賠償で、報復をした事業者の側への制裁は軽すぎる」ということです。
であれば、消費者庁は、この法律の見直しにおいて、この点を抜本改革すればいいものを、言葉遊びに終始して、肝心な点について見て見ぬふりをしているようです。
(3)第三の欠陥は、内部告発(公益通報)を受けた窓口の人間が、それを告発者の所属や氏名などとともに、当の告発された組織や役所や会社のトップないしは幹部などにひそかに水面下で「逆通報」することがあり、それが表面化しても平然と居直ることが許されていることです。この内部告発(公益通報)の被告発者への逆通知は、厳罰をもって対処すべき犯罪とすべき行為ですが、これもまた放置され、問題とされないまま、今日に至っています。最も悪質な具体例としては、東京電力の原発の定期点検手抜きを内部告発したGE職員を、告発を受けた経済産業省の役人が、それを東京電力の方に通知し、内部告発に対しては経済産業省(許認可官庁)として何 の対応もしないまま長期にわたり放置していた、というものがあり、このことは既に上記の私のブログに掲載しております。
(参考)東京電力の点検データ改ざん事件(1)隠蔽を暴く – 脱原発・放射能
http://blog.goo.ne.jp/jpnx02/e/9de4e3c0e3eeedaaa96e2d54ef2ded72
(一部抜粋)
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・通産省資源エネルギー庁は、2000.11.13に告発者から身元開示の同意を得ながら、GEへの調査は当面しないことを内部決定。にもかからず、2000.12.25に「この作業に携わったGEの担当者を教えてほしい」と東電に調査を指示し、告発者自筆のサイン入り検査記録や、告発者が福島第一原発の東電側点検担当者と交わした実名の会話記録などを添付し、告発者を被告発者に売り渡す行為を行った。いくら本人が身元開示に同意したとしても、この件では告発者の氏名を被告発者に知らせる必要性は全くない。告発内容の調査を行うべきであり、東電ではなくGEに直接照会すべき事柄である。
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本来、公益通報(内部告発)は行政やビジネスを改善するには貴重な情報です(例えば、食品表示偽装とか、食品衛生法違反などの、食品の安全と表示に関する事件は、そのほとんどが内部告発を契機に表面化したものです)。だからこそ、内部告発者(公益通報者)を法律で手厚く保護し、この制度がよりよき社会へ向けての様々な形での契機となるよう工夫がなされています。しかし、上記で見たように、現状の「公益通報者保護制度」では、この主旨は活かされず、むしろ内部告発を未然に抑止するような力が働きやすく、逆効果を持ってしまうという、まことによろしからぬ事態となっているのです。
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://chikyuza.net/
〔opinion6776:170702〕
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