2017年ドイツ紀行(2)日本の諸物価は高すぎないか?
- 2017年 7月 7日
- カルチャー
- 合澤 清(ちきゅう座会員)
天気とお酒の話
ドイツでは(少なくともここニーダーザクセン州では)、相変わらずのぐずついた「梅雨空」が続いている。といっても、一般的にはドイツに「梅雨」はないといわれているのだが。
リュックやカバンの中に傘と少し厚手の長袖のシャツぐらいを持っていないと、いつ何時天候が急変するかもしれず、とんでもない難儀に出会うことにもなりかねない。
われわれも一再ならずそういう場面に遭遇している。にもかかわらず先日、またも同じことを繰り返してしまった。
朝、スーパーマーケットに買い物に行く時まではよかったのだが、帰ろうと表に出たら、最初は小雨、その内猛烈な雨が降り始めて、あわててスーパーに逆戻り。確か傘を売っていたはずだがと、店内を探したが見当たらず、店員に尋ねて一緒に探してもらったのだが、生憎品切れ(?)状態。仕方なく、店の脇の喫茶店で雨宿りする羽目になってしまった。
われわれより先に、中年のおばさんが朝食(コーヒーとサンドウィッチ)を摂っていた。その後、可愛い女の子を二人連れた、若いお母さんが入って来て、女の子のぬれた髪を最初はキッチンペーパーで拭っていたが、その内店の女性が布を持ってきたので、それで丁寧に拭っていた。活発な女の子たちは、買ってもらったパンにすぐにかじりついていた。
それから、少し年配の職人風の男が入ってきたが、その子達の身内(父親か、あるいは祖父か)らしく、隅っこにひと塊りになって簡単な朝食を摂っていた。
最初にいたおばさんが出て行き、外に止めていた営業車らしいライトバンで去るのと入れちがいに男女の一組が入って来た。
雨宿りの2時間ほどで、客はその程度である。われわれが注文したコーヒー(なかなかおいしかった)は、大きいコップのもので1.5ユーロ(約180円位)だった。
ゲッティンゲンの街中の喫茶店だと、大体2.5ユーロ(300円程度)。日本の立ち飲み店と同じくらいである。
コーヒーよりももっとわれわれになじみ深く、かつ魅力的なビールの値段はどれくらいであろうか。
われわれの行きつけの居酒屋がこの辺ではおそらく一番安いと思われるが、樽生500mlで2.7ユーロ(340円位)。他の店では、同じ分量の樽生が、大体3.2~3.6ユーロ程度である。
もちろん、ドイツにも高い店はある。そんなところには行けないので値段は判らないが。
今回ドイツへ出発する直前に、ちきゅう座編集委員のMさんと飲みながら話をしていて、ドイツのスーパーでは500ml入りの缶ビールが、安いのでは40円程度で買えると話したら、のん兵衛の彼は眼を丸くして驚いていた。今回念のため、スーパーで缶ビールの値段を調べてみた。面白いことにビール各社で値段が違うのである。安いのでは一缶0.27ユーロ位から高くても0.45ユーロ位であった。日本円で35円から60円程度だろうか。
日本は高すぎる!ビール好きのわれわれは、毎回高額の税金を取られている!低所得者からこんなに税金を取るな、と強く訴えたい。
前にも書いたことがあるが、ドイツのビール税は南のバイエルン州辺りでは8%(一般食品と同じ扱いのため)で、その他は20%だという。
序でにビールの味について触れる。行きつけの居酒屋は、Warsteiner(ヴァールシュタイナー)という銘柄のドイツで一番大量に出回っているビールで、少し甘口である。それ以外によく呑まれるのは、Beck’s(ベックス)やKrombacher(クロムバッハ)や前回紹介したEinbecker(アインベッカー:かの有名なボックビール、特に5月に仕込んだマイボックが有名)などである。しかし、われわれの友人のドイツ人は、わざわざチェコのビールを愛飲している。その名もBudweiser(ブドヴァイザー)-同名のアメリカの「バドワイザー」は全くの紛い物。商標を買っただけの別物-というが、これはすごいコクのある名品である。今回、飲み物専門のスーパーで、このブドヴァイザーの瓶(しかも黒もあった)を見つけた。330 ml入り6本で4ユーロほどだった。早速今度試そうと思う。
それではワインはどうだろうか。安いのである。3.5ユーロも出せば、かなり良質のワインが飲める。1ユーロでテーブルワインが一本(720ml)買える国である。
物価の話
ビールとワインの話が出たので、次には生活必需品の物価について気付くままに書いてみよう。以下、すべて内税だから、レジで改めて税金が加算されることはない。
ご存じのようにドイツは物によってかなり高い消費税をかけている。例えば、われわれがついてすぐに買う必要があるトイレットペーパーやキッチンペーパーなどである。これには19%の消費税がかかっていた。それでも、トレペ1パック(10ロール)が、税込みで2.74ユーロ、キッチンペーパー4ロールで1.35ユーロである。質的にはドイツの方が丈夫で上だと思う。日本に比べて高いとは思えない。
食料品への消費税は7%だが、食品は日本に比べて格段に安いのではないだろうか。
例えば、玉ねぎ1㎏が1.29ユーロ、キャベツ1㎏が1.19ユーロ、白菜1㎏で1.59ユーロ、パプリカ(ピーマン)の大きいのが3個入って1.99ユーロ、シャンピニオン(マッシュルーム)1パックで1.59ユーロ(これは分量もたっぷりあって、日本では考えられないほど安い)
きゅうりは、かなり大ぶり(直径5cm、長さ30cm位)なものが大半で、0.49ユーロ。
トマトなど、日本では高すぎて滅多に口に入らないが、こちらでは量り売りでいつでも安く食べられる。米なすも安い、大きめのもので0.98ユーロだ。じゃがいもは、もちろんドイツの特産物である。スーパーでも3㎏入りのネットで1ユーロ、直売所では5㎏で1ユーロのところも見かける。
鶏卵は、L玉とかM玉とかで値段を変えてはいない。10個入りパックで1.09ユーロである。
常食のパンBrot(ブロート)、カリっとしていて癖になるほど美味しい。これは一個が0.13ユーロ(時々安売りがあって、5個で3個分の値段になる)。
乳製品やソーセージ、生ハムなどは、日本で買うのがばかばかしくなるほど安い。チーズやハムやソーセージは多品種あって、なかなか比べようがないからいちいち挙げるのはやめるが、例えばMozzarella(モッツァレラチーズ)は、一袋0.55ユーロである。ヨーグルトやバターなどは推して知るべし。
以上は日本の食品物価の高さと比べてもらうために、手持ちのスーパーのレシートを参照しながら書きならべたものである。その際、1ユーロ=122円として概算した。
これ以外に、電気料金や電話料金など、今、具体的なデータは持ち合わせていないが、聞くところによれば日本に比べて比較にならないほど低額だという。もちろんドイツは既に原発廃止を決めている国でもある。原発に頼らないと電気料金は高額になるという、でたらめな脅し宣伝に乗せられて、危険な原発を再稼働し、しかもその廃炉費用(天文学的な額になるといわれる)までも電気料金に加算され、将来に大きな禍根を残す我が国と引き比べて考えてみるべき大問題であろう。
ドイツで、当座、これは高いのではないのかと思えるのは、交通料金(列車の運賃と都市と田舎を結ぶバスの運賃-例えば、今住んでいるハーデクセンからゲッティンゲンまで、約35分程度を走るバスの運賃は、8ユーロもする)である。車を持つ家庭が増えるわけだ。
また、ドイツ人の友人の話だと、このところハンブルクやミュンヘンの土地の値段がバカ高くなっているとのことである。明らかに土地バブルだ。ゲッティンゲンはそれらの大都市には比較できないが、それでもかなり値上げが酷いという。
それにしても日本は物価が高いな、とつくづく思う。庶民は中間搾取され、騙され続けているといえるが、反面では、そのことを真剣に知ろうとしない庶民の側の責任でもある。庶民の側の責任という側面を等閑視して、為政者や業者の側の無責任さや腐敗堕落などをあげつらってもどうにもならないだろう。
ドイツではまだ若者の間に世の中の変革を求める情熱が生き続けている。日本では、20代前後の若者の保守化、無力化、刹那主義化が目立つ。彼我の大きな違いを感ずる。
(7月2日の「東京都議選選挙」でアベの自民党が「歴史的敗北」を喫したというニュースが飛び込んできた。やっと都民も少しは…。いや、まだ安心するのは早すぎる)
バンベルクの運河にかかる石橋
アインベックの彫刻のある古い建物
友人たち
Petraさんには今年も本当に世話になっている。一部屋自由に使わせてもらった上に、お勝手も調理道具もお皿やコーヒー沸かし器や洗濯機や、もちろんお風呂場やトイレも好きなように使わせてもらっている。まるで自分の家にいるように気楽に住まわせてもらっている。有り難いことだ。
また行きつけの居酒屋に行けば、古いなじみの友人たちが何人もいてお互いに声を掛け合い、握手し、時折は同席して話が弾む。もっとも、こちらはいい加減ドイツ語を忘れているため、最初のうちなんとなく息苦しさを感ずるのだが、そこはビールの力を借りて何とか乗り切るのである。
先の水曜日、昨年の別離以来久しぶりに友人3人と落ちあった。二人は物理系の仕事をしている人で、一人は大学でローマ時代の古典学を教えている人である。
実はこの日のために一枚のペーパーを用意していったのである。「ヘーゲルの就職テーゼ」と呼ばれるもので、1800年に彼がイエナ大学に就職しようとして提出した12項目よりなるテーゼである。なぜこんなものを用意したのか、などと野暮なことは聞かないでもらいたい。もちろん、まともに会話する自信がないから、ヘーゲルで煙に巻いてやろうという魂胆からである。
ところが意外にも理系が専門のくせに、このテーゼはすごく面白いなどとぬかして、テーゼのⅢに当たる部分(Ⅲ.Das Quadrat ist das Gesetz der Natur, das Dreieck das des Geistes.四角形は自然の法則であり、三角形は精神の法則である)について、この部分は非常に共鳴できる。君はこの箇所についてどう考えているのか、などと質問してきたのである。ヘーゲルは三角形(三という数字)が好きだったからだろう、といい加減に答えたら、いやそうではないんじゃないか、と今度は専門の物理学の話をし始めたため、今日は酔っているのでその話はやめよう、と慌てて話を打ち切りにした。
とんだ藪蛇だった。(この同じ意味のドイツ語は「スズメバチの巣をつつく」in ein Wespennest stechen)というそうである。
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔culture0503:170707〕
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