選挙が終わって日が暮れて
- 2017年 10月 27日
- 評論・紹介・意見
- 選挙阿部治平
――八ヶ岳山麓から(238)――
総選挙の結果は、立憲民主党がひとり躍進したが、護憲・リベラル派全体では3分の1を取れなかった。特に共産党の比例区は半減した。敗北というほかない。
長野県の小選挙区は全国情勢とは異なり、与野党せめぎ合いとなった。改選前自民党は3議席だったが2に減少し、民進党系が無所属1、希望の党2の3議席を得た。
わが4区(諏訪・塩尻・木曽)は、もともと3区から出るはずの希望の党の元職がまわされて来たために自民後藤・共産毛利・希望寺島の三つ巴となり、その結果、自民6万8673、共産4万0898、希望4万0863票となって自民勝利。共産・希望を合計すると自民を1万2000票近く上回っている。自民党は漁夫の利を得たのである。信濃毎日新聞の出口調査によると、立憲民主支持層が共産毛利氏(52%)と希望の寺島氏(41%)に割れてしまったのだ。
わが村での比例代表の各党得票を見ると、投票者数4438人のうち、自民・公明の合計は1684票である。これに対する立憲民主・共産・社民3党合計は1656票であった。保革は均衡している。
そこで、わが村の選挙の話をしましょう。
選挙をひかえた村の市民会議では、わが4区では護憲派の候補者がほかにいないのだからと、共産党毛利栄子氏を推すことになった。ところが私が友人たちに聞くと、2,3の人が「選挙区は共産党に入れるしかないが、比例区は立憲民主党でいく」という。この話を共産党の人にすると、「そういう人が多くて困る」といった。わが村レベルでも共産党は縮んでいた。
選挙運動中盤になって希望の党の寺島氏は、党の路線とはまったく逆の「安保法制反対、憲法9条を守る」といいだした。なんとまあと驚くうちに、寺島応援に民進党の杉尾秀哉参議院議員がやって来た。彼は参院選長野県区の野党統一候補として当選した人だ。つい2ケ月前海抜1200mのわが村にまで来て国会報告会をやり、護憲・安保法制反対を訴えたばかりだった。私はおもわず「節操のない連中だ。羞恥心というものがないのかね!」といってしまった。
思いがけず嬉しかったのは、元村長清水氏が「憲法九条を守る村民の会」の会報に談話を載せたことだ。彼は「憲法を改正しようという勢力がある。どうして改正しなければならないのか、私にはよくわからない」「戦争を知らない今の政治家は、危なっかしくて見ていられない。憲法を変えようなどと、人類の理想を捨てかねないことを平気で口にする」とはなはだまっとうな主張をした。
かれは20年ほど前、共産党村議小池氏と村長の席を争ったとき、自民党の応援を得て、「共産党に村政を引っ掻き回されていいのか!」と宣伝カーでどなっていた人である。
17日には市民連合の人が、上諏訪駅前の共産党演説会に連れて行ってくれた。比例の藤野候補も毛利候補も話の内容はありきたり。藤野氏は党政策委員長として自衛隊予算を「人殺し」と発言して批判を浴びた人だが、自己批判の弁はなかった。
志位委員長に至っては、よくいえば淡々。赤旗日曜版に書いてある程度の公約の説明だった。わたしはメモを取っていたが飽きてしまった。支持者が4、5百人集まっていて、ときどき「そーだ!」とか掛け声をかけるが、なかなか盛り上がらない。
駅前だから高校生も一般の人も通る。せめて「ご通行中の皆さん、立ち止まって私の話をちょっと聞いてください」くらいのことをいえないものか。志位さん、正しいことをいっていれば票が集まるというものじゃありませんよ。
半世紀前、この地方に林百郎という共産党代議士がいた。この人は村の立会演説会では、政権与党(今でいうと自公)批判から宇宙開発までを話題にした。面白いからみんな拍手をする。すると「ありがと。だが手をたたくだけじゃあこまる。百郎とおれの名前を書いてくれなきゃ」といって、また喝采を博したものだ。
わが村の半分は、かなり頑固な自民支持者である。
自民党はかつて米価を高レベルに維持することによって農家の支持を得ていた。農政転換後、水田経営だけでは20ヘクタールでも苦しい。これで村の自民党支持基盤は脆弱になったはずである。ところがコメに代るセロリー・キャベツなど新商品の導入があって、農家はつぶれずにすんだ。したがって既成の小農民的保守主義も維持された。「代々我家は自民党」という慣行がかなり残ったのである。
もうひとつ。わが村の農業の担い手は65~70歳だ。大都市からの移住者の大半がこれまた定年退職の高齢者だ。日本では金融資産の7割は高齢者が保有している。マイナス金利の今日、定期預金などの利息はあてにならない。そこで高齢の新来村民はもちろん、原住村民も意外に多くが投資信託や株式投資をやる。
かなり古い話だが、専業農家の友人は3000万円だかを投資信託に回した。そのうち3割か4割をリーマンショックで失い、損を取戻さないうちに亡くなった。こうなれば森友・加計問題であろうが、北朝鮮情勢であろうが、非正規雇用が40%になろうが、そんなものはどうでもいい。生きているうちに株価が1円でも上がればそれに越したことはない。
安倍晋三氏はこれをよく知っているから、選挙運動期間中、景気の昂揚・就業率の好転を宣伝した。都合のよいことに株式市況は、投票日直前の十数日空前の高値がつづいた。そこで新旧の高齢住民は、安倍政権のふるまいに不安は感じながらも自民党に一票を投じることになる。しかもわが村と限らず、高齢者は投票率が高い。かくして与党勢力は高齢者層に支えられるのである。
村のリベラル勢力にも問題がないわけではない。
市民連合の集まりが土曜日の昼間開かれたことがあった。村は「土日百姓(第二種兼業)」が多い。したがって土日は稲の収穫や野菜の出荷で忙しい。九条の会であれ市民連合であれ、活動家には移住してきた新村民が多いのだが、この人たちは原住村民の農繁期など関心がない(まあ、呼びかけても原住村民はなかなか集まらないからだけれども)。
しかも活動家には、なんといっても共産党員が多い。彼らの地を這うような努力を高く評価しないわけにはゆかない。だが共産党に対しては、新来村民であれ原住村民であれ、かなりの心理的抵抗がある。そこでリベラル派拡大のためにはどうしても共産党のイメージを好転させなければならない。
では共産党のイメージを好転させるにはどうすればよいか。
とりあえずは党名変更を検討してほしい。「共産党」は、党員にとっては誇り高い党名であろうが、世間じゃ暗い冷たいイメージをもっている。
次に、あなた方は社会主義をめざしているというが、ほんとうにそれでよいかも検討してほしい。いま開かれている中国共産党19回大会を見てご覧なさい。習近平氏は思想弾圧をし、競争相手を蹴落として、強権政治の頂点に登ろうとしている。これが「中国の特色ある社会主義」ですよ。
日本共産党は中国とは違うというだろうが、共産党だの社会主義という名称に変わりはない。それで日本の将来は社会主義が好いと思う日本人が何人いるか?明々白々のことと思うのだが。
今日(23日)、共産党の人たちが「ご支援ありがとう」と挨拶に来た。私が「志位和夫氏は辞任するんでしょうね」と聞いたら、驚いたようだった。彼らのもってきた赤旗のコピーを見ると、志位委員長は「……正確なたたかいをやった」といっている。ふつう議席を半減させたリーダーがこんなことをいうかね?
なにはともあれ、自身の党が埋没した原因がなんだったか、我々支援者の前に反省の弁を語るのが常識ではなかろうか。だがいつもの総括、「政策は正しかったが現場の力量が足りなかった。これから本気で党建設をしよう」というのは勘弁してほしい。(2012・10・23記)
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