「イスラム国(IS)」イラク・シリアで壊滅(4)- エジプトの兄弟組織がモスクに大規模テロ ー
- 2017年 11月 28日
- 評論・紹介・意見
- イスラム国坂井定雄
本稿連載中の24日金曜日、エジプト東部のシナイ半島で、金曜礼拝で満員のモスクを車両5台に分乗した武装テロ集団「シナイ州のイスラム国(IS)」の25~30人が襲撃、礼拝中のイスラム教徒305人(うち子ども27人)が殺害され、百数十人が負傷した。単一のテロ攻撃としては、エジプト史上最悪の犠牲者だった。
犯人たちの多くも、追撃したエジプト軍によって殺された。「シナイ州のイスラム国」は以前からイスラエルと接するエジプト東部のシナイ半島で反イスラエル武装闘争を続けてきた「エルサレムの信奉者」と名乗る組織。2011年の「アラブの春」で民主的な選挙で成立したイスラム同胞団のモルシ大統領の政権が翌年、軍のクーデタで打倒された後、軍や警察に対する攻撃を繰り返し、軍が鎮圧作戦をつづけてきた。
14年にバグダーディが「イスラム国」樹立を宣言したのを受けて、忠誠を表明、「シナイ州のイスラム国」と自称を変えた。すでに「イスラム国」本体から資金と軍事訓練の援助を受け始めていた。2015年にはロシアの旅客機に爆弾を仕掛け、乗客・乗員224人が犠牲になった。その時も今回も、「シナイ州のイスラム国」の自称を表明しなかったが、彼らの犯行であることが確実視された。
アラブ人仲間であり、壊滅した「イスラム国」の残党が逃げ込むには好都合な集団だ。今回のモスク襲撃が、イラク・シリアでの「イスラム国」壊滅への報復の意思表示なのか、イラク・シリアからの脱出組が加わっているのかはわからない。チュニジア、リビアなど北アフリカからアフガニスタンまでそして欧州の「イスラム国」連帯組織が、「シナイ半島」のような凶悪な行動ではなくとも、何らかの大規模な報復行動を準備しているかもしれない。
さらに、「シナイ州のイスラム国」のテロ事件で、特に注目すべきことの一つは、攻撃されたのがイスラム教のスーフィー教団のモスクだったことだ。スーフィーはイスラム教の神秘主義的な宗派で、教えを内面化し倫理化して、無言の祈りや踊りで精神を集中して神との直接体験を求めていく。平和主義、禁欲主義が支配的で、イスラム信仰の敵に対しての聖戦を主張する「イスラム国(IS)」と正反対の宗派だ。アフリカから中国まで、スーフィーは数宗派に分かれるが、イスラム教徒の数割はスーフィーとみられ、エジプトでは、イスラム教徒の3割から半分近くがスーフィーだともいわれる。トルコに観光ツアーでスーフィーの祈りの踊りを見学した人も多いだろう。
イラク・シリアで「イスラム国(IS)」は壊滅した。前回書いたように、早めに脱出し、一部はシリアのラッカから大型車両を連ねて、政府軍と反政府勢力の戦闘が続いている地域に逃れ、消え失せたのもいる。こうして生き残った残党の一部は、シリア、イラク内に潜み、大部分は中東、アフリカ、欧州そして中央アジア、アフガニスタンなどに向け逃れた。その主な経路はシリアとの国境が長いトルコにまず入る。南側のヨルダン、海路エジプトさらにチュニジアに向かって脱出した残党もいるようだ。
しかし、イラクのモスルで樹立が宣言され、シリアのラッカが“首都”の役割を果たした「イスラム国(IS)」は、きわめて特別な経過、条件の中で成立した。米国中心のイラク戦争(多くのイスラム教徒から見れば侵略)で打倒されたサッダム・フセイン政権のしたたかな残党(軍とバース党)、イラクとシリアでのシーア派とスンニ派の宗派対立、アサド大統領とそのバース党政権の国家権力への執着と残虐な政治手法がもたらしたシリア全土を巻き込んだ内戦などだ。バグダーディの卓越した指導力とカリスマ性も否定できない。
イラクとシリアで壊滅した「イスラム国(IS)」の残党が、中東、アフリカ、中央アジアなどの反政府イスラム武装組織、テロ集団に逃げ込むだろうが、「イスラム国(IS)」が再建されることは、あり得ないだろう。(続く)
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