青山森人の東チモールだより…与野党の対立が深まり、政治家の言葉が軽くなる
- 2017年 11月 30日
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青山森人の東チモールだより 第361号(2017年11月29日)
与野党の対立が深まり、政治家の言葉が軽くなる
野党連合の声明
大統領が予定した「歴史的な指導者たち」との会談は、肝心のシャナナ=グズマンCNRT(東チモール再建国民会議)がチモール海における領海画定と「グレーターサンライズ」ガス田の開発交渉を海外でおこなっており出席できないため(意図的に出席を避けているという見方もある)、フレテリン(東チモール独立革命戦線)のマリ=アルカテリ首相はシャナナ抜きでは「歴史的な指導者たち」との会談にならないとして、11月15日に予定したこの会談は大統領による各要人との個別会談になりました(前号の東チモールだより)。
もしかしたらマリ=アルカテリ首相はシャナナ=グズマンCNRT党首に何かしらの提案・譲歩を示すことによって(領海画定担当の特別高等大臣の地位を与えたいと発言していた)、少数政権としての窮地を救ってくれるかもしれないという淡い期待を抱いていたかもしれません。ついこのあいだの前政権ではシャナナ元首相が首相の座をはじめ主要閣僚の座をフレテリンに分け与えてくれたし、自分をZEESM(飛び地・オイクシの経済特区開発事業)の責任者に任命してくれた人物なのですから、マリ=アルカテリ首相がシャナナCNRT党首は完全に自分を突き放すことないだろうと思ったとしても、それは自然の想いといえましょう。
ところが11月第三週目の週末、上記の交渉がおこなわれていたシンガポールでシャナナ=グズマンCNRT党首は、PLP(大衆解放党)のタウル=マタン=ルアク党首そしてKHUNTO(*)のジョゼ=ナイモリ顧問と会い、野党3党の代表者としてすでに各党幹部によって10月12日に署名されたAMP(国会多数派連盟)形成に改めて合意をしたのでした。
(*)KHUNTO(クフント):テトゥン語を直訳すれば「チモール人の団結の美しき結実」となるが、政党名らしくとりあえず「チモール国民統一強化」と訳しておく。
そしてシャナナCNRT党首はタウルPLP党首とナイモリKHUNTO顧問に挟まれて座わり、動画で東チモール国内へ次のような内容の声明を発信しました。
東チモールの国民のみなさん、KHUNTOとPLPの仲間たちへ、今日、KHUNTOのナイモリ氏、PLPのタウル=マタン=ルアク氏、そしてわたし自身から、みなさんに信頼と安寧のメッセージを送りたい。国内情勢をふまえて、われわれは国益のための大きな責任を感じている。われわれは、ル=オロ大統領を全面的に信頼しているし、国家機関にも祝辞を申し上げたい。われわれはいまの困難な状況に対応する用意がある。われわれは政治政党として準備しなければならない。ル=オロ大統領はわたしに手紙をくれ、この情勢は市民に憲法論議を促し始め、国家建設の過程を認識させるという正の側面をもっていると述べていた。わたしも、タウル=マタン=ルアク氏もナイモリ氏も大統領のこの意見に賛成だ。いまのこの状況は、みなさんに国家建設の過程についての理解に導いている。われわれ三人は、この状況の打開策はル=オロ大統領の手中にあると思っている。憲法が遂行されるならば、みなさんは心配することはない。ある者はこういう、シャナナとタウルは最近喧嘩していたのに、いま合意するとはどういうことか、と。国の利益のまえにはわれわれ二人の問題は小さいものなのだ。3党の違いについてわれわれは国と国民に奉仕するために勇気を持って乗り越え妥協したのだ。国家がわれわれを必要とするならば、われわれは責任を受け入れることを約束する。わたしはみなさんが落ち着いていること知って、とてもうれしく思う。われわれは、誰かに何かを押し付けたりはしない、とくに大統領に、そして憲法に反することをするように押し付けたりはしないことも約束する。AMPが政治的に信頼されるなら、国と国民に奉仕する責任を受け入れる用意がある。AMPはこの状況に対応する準備しなければならないし、われわれは準備している。(シャナナは二人の手を握り)今日われわれ三人は前進するために責任を受け入れたいことをみなさんに申し伝えたい。
正確に再現したわけではありませんが、だいたい以上のような内容です。つまり、ル=オロ大統領が決断するならば自分たち野党勢力が政権を担う用意があるという明確な意思表明であり、シャナナCNRT党首がマリ=アルカテリ首相を完全に突き放した内容となっています。
首相の反発
翌週(20日の週)、TVニュースでもシャナナCNRT党首によるAMP代表としてのメッセージ画像が流れました。そして国会では20日、補正予算案が審議そして採決され、野党多数により否決されました。野党は、10月19日に否決された「政府計画」が憲法の定め通りに30日以内に再提出されず補正予算案を議題にもちだされたことに反発し、日本でいうところの内閣不信任案を国会に提出しました。おそらく「独立宣言の日」(11月28日)の行事の余韻が過ぎ去った以降、12月初旬に政府にたいする不信任案が審議にかけられるでしょう。そして野党多数によってこれが可決されれば、いよいよ政府が倒れることになります。
シンガポールからのシャナナCNRT党首による声明で突き放されたことを自覚したであろうマリ=アルカテリ首相は、シャナナCNRT党首にたいし平身低頭だった姿勢(少なくとも表面上は)からこう反撃に転じました――指導者たちは国内で話し合うべきだ、海外から指導するべきではない、かつて(抵抗運動時代)わたしは24年間海外にいたが、解放闘争の指揮権は常に国内にあった、いま独立して、大統領・内閣・政府・裁判が国内にあるというのに海外で指揮しようというのか、非論理的だ――。マリ=アルカテリ首相は解放軍の総司令官であったシャナナCNRT党首と参謀長であったタウルPLP党首の、海外から政治声明を発信する姿勢を突きました(シャナナはチモール海にかんする交渉でそこに滞在していたのだから、そんなに鋭い指摘とは思えないが)。
そして補正予算案が野党によって否決されたことについて首相は――大きな事件も小さな事件も起きていない、社会は安定している、しかし経済はあまりよくない、お金がなくなり始めている、なぜか、野党が政府に非協力的で国民生活のことを考えず35議席を権力奪取のためだけにつかっているからだ、AMPは制度的危機を引き起こそうとしている――と野党連合を非難しました。
ソモツォ防衛大臣の失言
補正予算案が野党によって否決されたことについて、22日、大統領との会談後の記者会見でジョゼ=アゴスチーノ=セケイラ=ソモツォ防衛治安大臣(以下、ソモツォ防衛大臣)は、政情を緊迫化させている野党連合を「わたしは恥ずかしい、わたしは恥ずかしい」と感情をこめて批判し、こう述べました――軍も警察もお金がないので緊急事態に対応できない、なにか事が起こったらわたしは軍も警察も対応させず、野党35議席に事態を委ねる――。
この発言は野党のみならず市民団体からも市民の生活を脅かしパニックを引き起こす発言として非難の砲火を喰らっています。野党連合は、防衛大臣の資質に欠けるとしてソモツォ防衛大臣の辞任を要求する声明を発表しました。
ああ、なんてことを言うのでしょうか、普く国民生活を守らなければならない立場にあるソモツォ防衛大臣は。かつて森の中で故コニス=サンタナ司令官の側近として民族解放闘争に身を捧げていた人物ともあろう者が、対立を深める与野党の狭い了見に水準を合わせて、つまらない失言をしたものです。
政治家は嘘をつく
野党によって緊急性が否定され反対多数によって否決された補正予算案について、ル=オロ大統領は同案の通常性について検討するよう国会内の分課委員会に求めましたが、野党はこれに応じないため同案は行き詰りました。野党の姿勢にたいし与党だけでなく、学生団体も批判しています。選挙結果が出た当初、CNRTとPLPは建設的で教育的な野党になると宣言したのに話が違うではないかというのが学生の指摘です。ソモツォ防衛大臣は野党を批判するならこうした見方を見習うべきです。
タウルPLP党首は、インドネシアのかつての独裁者スハルトを引き合いに出すほど強烈に批判した相手であるシャナナCNRT党首と連合を組みましたが、それは党員や有権者の支持を得られる行為でしょうか。政権に就いてこそ自らの政策を実現できるのだという考え方のみがこの種の“妥協”を正当化するかもしれませんが、大規模開発を推進しようとするシャナナCNRT党首と組んで、いかにして大規模開発に反対する政策を実現しようとするのか、タウルPLP党首は政治家として支持者に整合性を説明しなければなりません。
シャナナ=グズマンCNRT党首にいたっては、政権を獲るなら他党と連立を組まないで単独で獲ると選挙前に発言していたし、CNRTは野党に徹すると選挙後に発言しました。そしていま野党連合を組んだことについて国益のために妥協したのだといいます。
東チモールの人びとはこの政局から何を学んでいるでしょうか。憲法や国づくりの過程について認識を深めている側面もあるでしょうが、それよりも政治家は当選するため・権力を獲るため平気で嘘をつくものだという事実を学んでいるはずです。
軍事占領下では解放闘争の指導者が住民に安易な期待を持たせて失望させたり、自ら語るところを実践しなかったりすると、住民から支援(食糧や隠れ場所)が得られなくなり、たちまち生存の危機に直面することになりました。独立したいまはそんなことはありません。安易な期待をもたせる軽い言葉を発し、自ら語るところを実践しなくとも、ともかく議席・権力を獲ることができればそれでよいのです。日本や多くの国ぐにでよく見られるような政治的言動が東チモールでも見られるようになりました。果たしてこれは東チモールの独立したゆえの進歩なのか、それとも退化なのか、どちらでしょうか。
~次号へ続く~
青山森人 e-mail: aoyamamorito@yahoo.com
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://chikyuza.net/
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