(メール転送です)注目:高嶋伸欣琉球大学名誉教授(東京都杉並区在住)が杉並区教育委員会を相手取り「請願権」訴訟を提起されています
- 2017年 12月 25日
- 評論・紹介・意見
- 田中一郎
- 日本国憲法
歴史研究家の高嶋伸欣琉球大学名誉教授(東京都杉並区在住)が今般、杉並区教育委員会を相手取り「請願権」訴訟を提起されています。詳細は下記の奥様からのメールや別添PDFファイルの陳述書をご覧いただきたいと思いますが、この提訴の内容は、おそらくは、みなさまの取組んでおられることとは直接的には別のものだと思います。提訴の原因となったのは(杉並区)教育委員会の「請願」にかかる手続きのことであり、かつ杉並区教育委員会が採用した教科書に記載されている「請願権」の説明文章がおかしい、という点です。しかし、こと「請願権」は広く市民運動・社会運動に共通した「権利」と思いますので、ご参考までにご紹介申し上げたいと思います。
「請願権」は高嶋伸欣氏がおっしゃるように、日本国憲法(第16条)で保障された基本的人権の1つであり、教育委員会がそれを勝手な規則をつくって制限したり歪めたりすることは許されません。また、義務教育の学校教科書が「請願権」について誤ったおかしな記述をしていることは、それと同じく看過できないことだと思います。
昨今は「請願権」のみならず、さまざまな形で有権者・国民や在日外国人の人権を制限したり侵害したりしてはばからない政治・行政・優越的地位の濫用がはびこりはじめています。そうした風潮にストップをかける意味でも、この裁判提訴は大きな意味があると思います。ご注目ください。
第十六条 何人も、損害の救済、公務員の罷免、法律、命令又は規則の制定、廃止又は改正その他の事項に関し、平穏に請願する権利を有し、何人も、かかる請願をしたためにいかなる差別待遇も受けない。
別添PDFファイル、及び以下はメール転送です。
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Subject <報告・「請願権」裁判①>第1回法廷の口頭陳述で和解提案をしました
みなさま、髙嶋道です
18日に夫の伸欣が杉並区教育委員会を訴えた裁判が始まりました。そのご報告です。提訴への思いも述べており、詳しくて長いので、どうぞお時間のある時にお読み下されば幸いです。重複ご容赦ください。
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皆さま 高嶋伸欣です
遅くなりましたが、「請願権」裁判の報告①です。
まず次回(第2回法廷)は2月19日(月)午後3時615法廷です
1 裁判所から一方的に期日指定された12月18日の第1回口頭弁論(東京地裁)には、急なことでしたが25人もの皆さんに傍聴においで頂きました。ありがとうございました。
2 被告の杉並区教育委員会側は、「答弁書」で6人の代理人(弁護士。こちらは一人)を立てていて、当日は3人が出廷していました。
3 開廷時、裁判官も被告代理人も、傍聴席がほぼ埋まってるのを見て驚いているようでした。
4 審理では、型どおりにこれまでの提出書類を陳述したとみなすとの確認をした上で、原告(高嶋)の口頭陳述を5分間の条件付きで認められたので、急きょ作成しておいた「意見書」の内容について、陳述を私がしました。
*「意見書」を添付しました。長いですが争点が読み取れます。
5 さらに代理人の大口弁護士が、「意見書」にある、高校生が授業内容についてクラス単位で要望事項をまとめて教員に対応を求めたことで、高嶋が教員としての能力・資質を高められたという経験談に注目するように、と補足の申し立てをしました。
6 その後、被告側はどう対応するかを尋ねられ、「2月9日までに答弁書を作成する」と応じ、次回の審理は双方の都合を調整して2月19日(月)3時615法廷と決まりました。
7 被告側の対応はまだ分かりませんが、添付の「意見書」にあるように、こちらは金銭的な補償にはあまりこだわっていません。それよりも「請願権」について誤った認識が日本中に蔓延している状況を是正するための第1歩にしたいと、私は考えています。
8 そこで被告側が受け入れやすいように「訴状補正書」で提案したのが、区の広報『杉並だより』(毎月1・15日発行、全戸配布)に「高嶋への違法行為のおわびと『請願権』についての正しい解説を掲載すれば、和解してもよい」という具体的な事柄です。これであれば、被告側は賠償金という新たな公金支出を抑制でき、担当の教委事務方などの業績評価の深刻化を多少は回避できます。それに広報への掲載であれば新たな予算措置も回避できますから、被告側としては負担が軽くてすみます。
9 最初からこのように被告側に配慮した「和解」案を提示するなど「軟弱すぎる!」と言われそうです。
10 でもここであまり時間を掛けたくないのです。今、杉並区立中学3年に在籍している生徒は、「意見書」にあるように「請願権」について間違った内容を記載した公民教科書を教育委員会が採択して使用を強制したために、そのままで学ばせられています。せめて現3年生が卒業する来年3月までに、教員が「教科書の記述は誤りで、正しくは『杉並だより』にある通りだ」と生徒に語れるようにしたいのです。
11 杉並区の学校では、「つくる会」の教科書(扶桑社版)を採択して以来、教育委員会によって「教科書批判をするな」との指示が出されて、教員が自主的に教科書の誤りを是正するのは難しい状況が続いているとのことです。
12 そこで上記10のこだわりが生じているという次第です。この点も「意見書」に明記してあります。
13 裁判長も「意見書」のこの部分について意識している模様で、次回期日を決める際に「原告の側では3月までにまとめたいとの要望もあるようですから」と被告側に話しかけていました。何か次回の法廷では前向きの進展がありそうな期待感があります。「甘い、やはり軟弱!」といわれそうですが。
ここまでが第1回法廷の報告です。
以下は、今後に向けての考えです。
14 法廷後の報告会でも説明しましたが、第2歩以後のこととして考えているのは
(1)杉並区以外の全国の自治体で、同様の違法な「請願権」制限規定を設けていないかの点検を広く呼び掛ける
*全国各地の市民運動、マスコミの調査報道、あるいは中学・高校の「請願権」学習の一環として(全国教研などで話題にして欲しいです)。
(2)中学の公民、高校の現代社会・政治経済などの大半の教科書の「請願権」記述が誤りであることを指摘し、それら教科書の著者・編集者などに是正措置を求める
*当該科目の教員の研究会などで、「請願権」の正しい認識を共有するための教員自身の学習活動などが考えられる。
*この年末年始の間に、現行版教科書の「請願権」記述のチェック結果を報告します。
(3)文科省に対してもこれまでの検定で、「請願権」の誤った説明をそのまま合格としてきた落ち度を認めさせ是正措置(既卒者向けと現行版への対応など)を求める。
(4)半世紀以上に及んだとも思われる誤った「請願権」教育の是正策ととして、全国の自治体の広報に正しい解説を掲載するように総務省や各自治体に働きかける。
*市民運動と連携した社会教育活動でも学習会も主催、後援などを教育委員会や選挙管理員会に働きかける。
(5)マスコミ自身には上記の①~④についてだけでなく各社内で、「請願権」についての認識をきちんと定着をさせる取り組みを求める。18歳選挙権の実施に合わせた「高校生への主権者教育」報道ブームでは、「請願権」への言及がほとんどなく、同報道ブームは記者たちの「請願権」認識の欠落ぶりを示した。今もその状況に変わりはない。
*高校などでの茶髪規制問題についてもマスコミは問題提起で終わっている。『東京』は12月15日夕刊の1面トップで「”ブラック校則”をなくそう!プロジェクト」なるNPOの発足を大きく報道した。同NPOは”ブラック校則”を集約して文科省に伝え、指導を要請するというが、なぜNPOも記者も高校生自身に学校に向けた「請願権」行使ができるということを気づくように働きかけるという発想が出て来ないのか。
*ちなみに校内暴力が続発して「荒れる中学生」が大きな問題になった1980年代初頭、東京都青少年問題協議会は、そうした中学生の不満の一因は杓子定規な校則にあるとして「校則の制定にも生徒の意見を反映させることが必要だ」とし「少なくとも3年に一度は学校と生徒が一緒になって検討と修正を加えるなど」の提言をしている(『朝日新聞』1982年2月16日)。こうした提言の事実そのものを記者の世代交代で忘れられ、社会に再確認の報道がされることもなくなってきていることと、「請願権」軽視は無関係とは思えない。
15 さらに法学界、特に憲法学の研究者や憲法制定史の歴史研究者などには憲法16条「請願権」についての正しい意味の解説普及とこれまでの誤った解説の排除を求めたい(そのことをマスコミは報道して欲しいし、教科書執筆者たちに伝わるようにして欲しい)。
*ちなみ憲法のGHQ原案にあった<people>を日本政府はすべて「国民」と訳し「請願権」なども日本国籍の人に限るとしていたことに、GHQの上部組織「極東委員会」(連合国の代表によって組織された対日政策決定の最高機関)のスタッフが気づき、「何人も」に是正させたという経過を証拠づける史料を、大阪の上杉聡氏が確認している。
16 現在までのところ高嶋が大手書店や図書館の憲法コーナーで当たった<憲法逐条解説書>では、岩波書店・有斐閣
・学陽書房などからの憲法学”大御所”の著作でも「請願権」の解説は大半が失格! 司法試験ではどう扱われてきたのだろうか?
17 高嶋がこれまでに見つけた憲法解説書では『憲法精義』(日本評論社、2015年)が最も評価できる解説になっていて次のような踏み込んだ解説をしている。「現行法上、選挙権・被選挙権を与えられていない外国人や未成年者にとっては、政治に参加する権利の重要な部分として、大きな意味を持っている。」「たとえば国会や首相官邸を取り囲んでのデモなども、請願権の非制度的形態として位置づけることができる」など。
18 上記のような取り組みで社会全体での「請願権」認識が高まってきたら、現行の「請願法」不備な点として指摘されている、「請願」受理後はその処理が官庁側に丸投げされ、事実上は放置されていても合法とされる規定の改正を国会でめざす。
まだまだこの他にもいろいろと手だてがありそうですが。今後も「請願権」裁判にご注目下さい。ご意見を頂ければ幸いです
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〔opinion7216:171225〕
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